雌雄を決す (小坂みかん 作)
※作者本人ページでも同作品のアンサーストーリーを公開しています。
今日、俺は長年のライバルとの最後のバトルに挑む。
ヤツとの出会いは、いつだったか。もう遠い昔過ぎて忘れてしまった。ただひとつ覚えているのは〈ヤツは俺の目の前に颯爽と現れた〉ということ。そして、それに大きな衝撃を受けたということ。それだけだった。以来、俺とヤツはライバル関係にあった。
俺達はどんなことでも競い合った。至ってくだらない小さな喧嘩から勉強から、何から何まで。おとぎ話の中の勇者たちと比べたら、俺らのライバル関係なんてごく平凡なものであるに違いない。だが、俺やヤツの「あいつにだけは負けてたまるか」という気持ちは勇者たちのそれと同じだった。
果たし状を送り合い、決戦の日に備えて鍛錬を積み。勝てばこの上ない幸福を感じ、負ければ悔しさで絶望した。勝敗は五分。だからこそ、少しでも多く勝ちたかったし、負けたときの悔しさは計り知れないものだった。
しかし、長いことそういうことを繰り返していくうちに、負けても幸福を感じるようになった。――そんな倦怠感にも似たダラダラとしたライバル関係なんて、維持する意味があるだろうか。そう思った俺は、次の戦いを最後とすることにした。ついに、完全なる決着をつけることにしたのだ。
決戦日はMPフルの状態で挑みたい。しかしながら、それでヤツを確殺できるかは分からない。だから俺はヤツを必ずや打ち倒すべく、事前に渾身の魔法を紙に籠めた。さらにトドメの一撃が放てるよう、マジックリングも用意した。卑怯者と謗られるかもしれないが、ヤツはライバルでありながら一番の強敵なのだ。これくらい備えねば勝てないだろうと、俺は思ったのだ。
決戦日当日、ヤツは飄々と俺の眼前に現れた。ヤツの余裕そうな口ぶりに、俺のMPは戦闘開始前からゴリゴリと削られていくようだった。――しかし、そう呑気にしていられるのも今のうちだ。ヤツはもうすぐ、涙ながらに敗北宣言をすることになるだろう。
「――で。いきなり呼びつけて、何?」
「言っただろう、雌雄を決するときが来たと」
そう言って、俺は先手を打って魔法の紙を広げた。ヤツが衝撃を受け動揺している隙をついて、さらにリングを繰り出し次の魔法に備えた。すると、俺が次手を打つよりも前にヤツが崩れ落ちた。俺は勝利の幸福感で胸をいっぱいにしながら、ヤツのそばで膝をついた。
「結婚、してくれるよな?」
こうして、長年の付き合いである幼馴染の彼女との〈腐れ縁〉に決着をつけてめでたく結婚した俺は、完全なる勝利をおさめることに成功した。しかし、それは同時に完全なる敗北でもあった。――そう、俺は完全に嫁の尻に敷かれたのである。
主導権を得て亭主関白路線でいきたかったのに、俺の〈彼女を思う気持ち〉よりも男勝りな彼女の〈俺を思っての行動力〉のほうが数段上だったらしい。とても悔しいが、それ以上に幸福を噛み締めていた俺は甘んじて〈試合に勝って勝負に負けた〉ことを受け入れたのだった。
2017/07/24 作者本人ページでアンサーストーリーを公開のため、注を追記




