その姿を見せて (玉藻稲荷&土鍋ご飯 作)
※作者本人ページでも同作品を公開しています。
安息日以外に見る教会は普段よりも近寄りがたく見えた。ライナスは緊張しながら教会に入ると、懺悔室を使いたい旨を伝え、まずは主の像の前で祈りを捧げた。
石造りの床にひざまずいた時、まず目に入るのは自らの土埃で汚れた木靴に穴が開きそうなズボン。着古して破れそうなチュニック。思わず溜め息が漏れてしまう。成長期だからか、急速に背が伸びてきており今の衣類が身体に合っていない。ズボンは踝が見え恥ずかしい長さになってしまっている。だが次の収穫が終わるまでは服を新調する等出来ないのだ。
懺悔室の方から、カタリと音が鳴り、用意が完了したのを気配で感じた。主への祈りを手早く済ませそちらへと向かう。
息を整えて、懺悔室の布を上げ……ライナスは、また整えたはずの息が乱れるのを感じた。
部屋と外を隔てている布。それを持ち上げた事により光が入り込み、ちょうど懺悔を聞こうと身構えていたシスターが、舞台の役者の様に照らされていた。シスターもまた、こちら側が開くとは思っていなかった様で、慌てふためいているのが分かる。
ライナスは自分が入るべき部屋を間違えたのに気付いたのだが、同時に目を離す事が出来なかった。見慣れたシスターのはずなのに、いつも話をしているシスターのはずなのに、別人の様に見える。
いつもかぶっているベールを脱いでいた頭へ外からの光が反射し、金髪が後光の様に輝いている。驚きで見開いた目は普段よりも大きく、揺れた瞳はまるで主の横で燃える蝋燭の様だ。頬は驚きと気恥ずかしさで赤みが差し、ライナスが今朝食べて来た林檎を思い出す。街で見掛ける紅を差している姉さんたちと違い、何も唇には塗っていないのだろうに、それはとても柔らかそうにふんわりとして見える。
その唇がふるふると震えると、動揺を抑えたつもりだろう声が漏れ聞こえる。
「ざ……懺悔の方は、あちら側からお願い……いたしましゅ」
語尾は動揺を隠せなかった様で、噛んでしまった唇を抑えながらわたわたとしている姿に思わず笑みがこぼれる。ライナスは一礼して謝罪を伝えると、掴んだままだった手で布をゆっくりと下ろしてその美しい御姿を隠し、反対側の部屋の布を持ち上げて改めて懺悔室へと入る。
「で……では。神の名において、汝の思いを悩みを吐露しなさい」
咳ばらいをえへんえへんと何度も繰り返すその可愛らしい声に、胸に持っていた悩みは吹き飛び、気付けばライナスはとても素直に自分の気持を声に乗せていた。
「シスターが可愛くてたまりません!」
ひゃぁっ! と声が聞こえ、何かに頭をぶつけた様な音が聞こえる。これでシスターは自分よりも年上なのだから、ライナスの胸には先ほど告げた言葉と同じ気持ちが延々と胸の中でこだまし、その度にその気持が増幅していくのは仕方がないの事であった。
2017/08/20 一部修正




