Federkiel (Fawntkyn 作)
物語を書き終えると、羽根は真っ白になっていた。
いつも通りに。
私の翼は赤い(赤かった、と言うべきかもしれない)。羽根の一本一本に血が通っていて、その羽根を抜いてペン先を付け、羽根から流れる血で物語を紡ぐ。とても楽しい仕事だ。私は心に思い浮かぶ出来事をどんどん書きしるす。物語が終わると、ちょうど血も尽きて、羽根は白くなっている。私は翼から羽根を抜いて、新しい物語を描く。
いつからそうしているかは覚えていない。私の翼の、おびただしい数であったはずの羽根はもう、一〇本程度しか残っていない。
私は自分の翼で飛んだことがあったのだろうか。
使い終わった羽根はすべて、そのへんをふわふわと漂っている。意思を持っているのかいないのか、分からないが、床に落ちたりはしない。ただ、家から出て行くでもなく、朽ちていくでもなく、ふわふわ、ふわふわ。
その量を見れば、おそらく私の翼は飛べたはずだろう、と推測ができる。でも、実際に飛んだかどうか思い出すことができない。
飛ぶのはきっと楽しいはずだ。空を切り、何者にも阻まれることなく、自分の中のエネルギーを感じて、私は鐘のように笑う。
私の物語はどこからやってくるのだろう。私の記憶だろうか。羽根を抜くたびに、私は自分のことを忘れていくのかもしれない。私は羽根のほとんどを抜いてしまった。だからほとんどなにも思い出せないのかも。
書き上げた物語はきちんと紐で閉じて、本棚に並べる。羽根の大きさによって、物語の長さもまちまちだ。私の家は棚だらけだ。でも、どうして棚だらけなのかは、やっぱり思い出せない。
羽根をぜんぶ使ってしまったら、私はどうなるのだろう。私は翼だったものを広げて、ほとんどむき出しの、わずかに産毛の残る醜い皮膚を眺める。羽根のないこれをなんと呼ぶべきか分からず、しかたなく翼と呼んでいるが、それはそれで痛々しく感じてしまう。
翼というよりも、棒切れのようだ。
抜いた羽根は生え変わらない。しかし、すべて抜いてしまったら……何かが起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。
私は新しい紙を用意し、最後の羽根を抜く。痛みは大したことはない。羽根にペン先を付け、私は物語を書く。
〈昔々、赤い翼を持つ生き物が、棚だらけの家に住んでいました。彼は自分の羽根を使って、物語を書いて暮らしていました……。〉
さて、この生き物は、どうしてそんなことをするのだろう?
〈最後の羽根を抜いた彼は、〉
この生き物――私は何をするだろう。すべての仕事が終わったら?
家の外を散歩する?書き終えた物語を読み直す?旅に出る?暖かい飲み物を作って一服する?
どれも魅力的な考えだった。私はあえて選り好みせず、思いついたことをどんどん書いていった。それはとても楽しかった……アイデアはいくつも浮かんだ。もしかすると、これを書き終えたら、私の羽根は生え変わって、また新しく物語を書くことができるのかもしれない。
望みさえすれば、飛ぶことだってできるに違いない。
私には無限の可能性があった。私は生まれたての子どものように、すべてを持っている……。
物語を書き終えると、羽根は真っ白になっていた。
いつも通りに。




