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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第八回 はばたけ、君のはね企画(2019.8.24正午〆)
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空の騎士たち (キュノスーラ 作)

「これ一枚かしてな。見ときや」

 アマネは、妹のソラのお絵かき帳から画用紙を一枚ちぎると、十二色の水性カラーペンの中から茶色を選んで、きゅっきゅっと線をひきはじめた。

「これが、骨組みな。ほら、傘の、こういう棒のところ、あるやろ。あれみたいなやつ。そんで、このあいだに布をはるねん。うすい革とかな。ソーちゃん、何色にする?」

「みずいろ!」

「分かった」

 アマネは水色の水性ペンで、茶色の骨組みのあいだに膜を描き込んだ。

 左右に大きく広がった、水色のコウモリの翼に似てきた。

「水色、ええと思うわ。だって、水色は空の色と似てるから、まぎれるから、敵が見つけにくいやろ。そんで、これ、このままやったら、めっちゃでかいから、運ばれへんやん。部屋出るときとか、ろうかとかで、ガンガンってなるやろ?」

「かさみたいに、たためるようにしたらええやん!」

「そう、姉ちゃんも今、そう思ってん。そやから、ここと、ここに、バネと……」

 言いながら、アマネは黒のペンで、朝顔のつるみたいなくるくるを翼の各所に描き込んだ。

「そんで、傘の、ボタン押したら開くところの、あの部品をつける。翼の根元にボタンがあって、押したら、バアッて翼が開くねん」

「ちゃいろのとこは、きでできてるん?」

「そうや。職人さんが一本一本、使う人にあわせて削ってくれるねん」

「めっちゃこうきゅうやん!」

「そうやで。やから、壊さんようにせなあかんで。そんで、ここに、ひもがついてて、引っ張ったりゆるめたりしたら、翼の角度が調整できて、飛びながら曲がれる」

 アマネはオレンジ色のペンで、まっすぐな線を何本も引いた。

「そんで、ここの、背負うところな。板があって、ランドセルみたいに二本、背負うベルトがついてる。それだけやと、空の上でスポッて落ちてしまう可能性あるやん。そやから、シートベルトみたいに、こう、こう、こう……いっぱいベルトをつける。はい、できた」

「すっごい!」

「姉ちゃん、今から自分のぶん描くから、ソーちゃん色ぬっとき。自分の色えんぴつあるやろ」

「おねえちゃんぬって!」

「なんでよ。自分でしいや」

「はみだすもん。おねえちゃんぬって!」

「もう! 姉ちゃんかて、自分のぶん描きたいんやで。……もう! しゃあないなあ、貸し」

 アマネは妹に渡した画用紙を取り返すと、斜めに傾けた色鉛筆で、シャシャシャッ、シャシャシャッと、すばやくきれいに色を塗った。

「はい、できたで」

「おねえちゃんありがとう! めっちゃきれい。なあ、ここのところに、もようかいてもええ?」

「まあ、ええけど。もし失敗しても、姉ちゃんはもう描き直せへんからな」

「うん!」

 二人は紙の上にかぶさるようにして、それぞれの翼を仕上げることに没頭した。

「あ、はみだした! おねえちゃんどうしよう、はみだした」

「知らんって、自分で何とかしいや」

「いやや! おねえちゃんなおして!」

「もう! 姉ちゃんは知らんでって言うたやろ。そこの引き出しに修正液あるから、それで直し」

「おねえちゃんやって! おねがい! おねえちゃんやって!」

「もう! 姉ちゃん今、自分のことやってんねん。だから知らんでって言うたやろ!」

「ごめん、おねえちゃんやって」

「もう! しゃあないな、一回だけやで! 修正液取ってき、そこの引き出しや……はい! できた! もう知らんで! あとは全部自分でやりや!」

「ありがとう、おねえちゃん」

 十五分くらいで、二人の翼は完成した。

「おねえちゃんみて、ベルトのとこに、なまえかいた」

「ひとのと間違えへんから、ええやん。全部、使う人に合わせて作ってあるから、ひとの翼ではうまく飛ばれへんからな。……ほな、行こか」

「うん」

 二人は折り畳んだそれぞれの翼を背負うと、慎重に部屋から出た。

「ぶつけたらあかんで。壊したら、もう飛ばれへんで」

「うん」

 石造りの薄暗い廊下を通り、螺旋階段を上がっていく。

 ところどころに四角い窓があいていて、太陽が昇る直前の薄明るい空が見える。

「この服、きれいな鳥の羽がいっぱい縫い付けてあるから、空の上でも寒くないで」

「うん」

 二人は涼しい風の吹きつける塔のてっぺんに出た。

 町を囲む城壁の外側は、見わたすかぎりの荒野だ。

 北に大河。東には山脈。

 その山脈のふちが、急激に赤みを帯びた黄金色に染まったかと思うと、たちまちするどい矢のような光線が四方に飛んだ。

 夜明けの光が、虹色に輝く飛行服に身をつつんだ空の騎士たちの姿を照らし出す。

 一人の翼は、淡い青。もう一人の翼は、深い青。

「どこへいきますか?」

「東の山脈を越えて、太陽の姫に会いにいく」

 東からの風が、体いっぱいに吹きつけてくる。

 二人の騎士は、塔の手すりから伸びる長いロープの端を、手袋をはめた手でしっかりと握った。

 足をふんばり、体を低くし、

「行くぞ!」

「いくぞ!」

 翼を広げるボタンを、同時に押しこんだ。

 力強い羽音ひとつ、二人は凧のように上空へと舞い上がり、風に乗って、東へと旅立っていった。

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