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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第七回 たのしいお仕事企画(2019.4.27正午〆)
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召喚勇者の私掠船 (冴吹稔 作)

 夜明けからさほど間を置かず、私はデズデモーナ号の船尾甲板に上がった。当直に立っていた副長、エルフの航海士サエルウェンが足早にやってきた――ただし、決して走らずに。


「艦長。前方2カイルほど先に、所属不明の船がいます」


「ほう?」


檣楼員(トップマン)が日の出前に船尾灯らしき光を発見したのです。現在、追跡中です」


 無言でうなずき、横静策(シュラウド)の段索に足をかけた。船員たちの仕事を取るようで気が引けるが、正直自分で見るのが一番早い。


 檣楼(マストトップ)に上がると、こちらに気づいた船員が一瞬ぎょっとした顔をした。そのまま、と手で合図をして隣へしゃがみ込む。船員はすぐにこちらの意図を飲み込み水平線の一点を指さした。


「ご覧になれますかね? そら、あそこです」


 裸眼で鷹人(ホークマン)の視力に張りあうのは不可能だ。私は腰に下げた望遠鏡をとり、空と海の間に引っかかった、細かく砕いた卵のカラのような小さな白い帆へと向けた。

 うまいことに相手の船は回頭しつつあるようで、その特徴的な細部はすぐに見分けられた。上下二本に分かれた背の低いマストが、前後に二本――船首寄りのものが高く、地球で『ケッチ』と呼ばれる帆装に似ている。

 そしてマストの先端に翻る黒い旗、赤く染め抜かれてのたくる大蛇の姿。


「間違いないな。魔王軍の物資輸送船だ」


 予想通りだった。このあたりの海を今日び動き回る船といえば、燃やすと有毒ガスを発する瘴泥炭や有害な密造酒といった、南方大陸のおぞましい産物を運ぶ魔族どもの船ばかりだ。


 我々のデズデモーナ号のような、王国側の通商破壊船を別にすれば、だが。 

 

「サエルウェン! 船首を風下に二ポイント落とせ。速度を稼いで奴に追いつくぞ。いま我々は北東風を受けているが、まもなく――」

「ええ。そろそろ風が回って南西風に変わるはずです。ですが艦長がご存じとは」


 私にとっては知らなくてもわかる事だ。緯度の低いこの辺りでは、日が昇ると急速に陸地の気温が上がり、昼前には海から陸へ風が吹き始めるのだ。


「奴らはカレント岬を回るつもりで南西へ向かっているようだ。すぐに裏帆をうつことになるぞ」

 やがて風が回ると、デズデモーナ号は左舷開きにタックを変えて転舵し、急速に敵船への距離を詰めた。向かい風に立ち往生している輸送船の後ろへ廻り、左舷の砲門を開いて押し出す。

 船尾には多層構造を持つ高い船楼が見える。不格好でずんぐりとした船型。外板を外側から束ねるように貼られた補強材が並び、まるで肋骨の様だ。こんな船を百年近く改良もせずに使っているというのだから、魔族というのはどうにも創造性や進歩性に乏しいらしい。

 多分、生来の身体能力と魔力の強さに安心しきっているからだろう。


縦揺れ(ピッチング)の下限で撃て!」


 一斉に火を噴く鋳鉄砲九門の砲列。敵船には魔法使いが乗り組んでいたらしく、火球(ファイアボール)への対抗呪文詠唱が聞こえてくる。無駄なことを――我々の備砲は魔法とは何のかかわりもない、いっそドワーフ的な技術の産物なのだ。およそ一時間半の戦闘を経て、我々は輸送船を制圧した。


 積み荷はろくでもないものばかりだった。瘴泥炭が麻袋に百二十、お定まりの血漿樹ブランデーが十樽、それに海蛇油(サーペント・オイル)が三十樽。

 どれも魔族の常用する軍需物資だが、人間やエルフには使い途のないものだ。手狭なこちらの船に積み切れる量でもない。


「……船ごと沈めるしかないか」


「……せめて船はどこかの港に持ち込めませんかね。賞金になるでしょうに」


 サエルウェンが残念そうに唇をかんだ。だが、答えは決まっている。


「あの船種は動かすのに最低でも三十人からの人手がかかる。うちの船からそれだけの回航要員は割けんよ」

 もっと大きな船、例えば正規艦隊の戦艦であればそのくらいの人手は余裕で出せるだろうが、ないものねだりをしても始まらない。こっちへ召喚されたとき私に与えられたスキルは、「軍船指揮2ランク」と「甲板戦5ランク」。それでうまく運用できるのは、デズデモーナ号のような等級外の小型艦までだ。


「やれやれ、今度の航海も給料以上の稼ぎはなさそうですね」


「仕方ないさ。まあ、今日はみんなに配給酒を増量してやってくれ」


 儲からない仕事だが、今さらやめるわけにもいかない。何と言っても戦争の真っ最中だし、乗組員たちはどういうわけか私を信頼してくれていて、士気も高い。


「勇者召喚でもらえるスキルって、何でランダムなんでしょうねえ」


「さあなぁ」


 魔王の本拠地が例えば絶海の孤島なら、私が本命の勇者とされただろう。だが、魔王は大陸の北側、荒野の奥にいる。私の出る幕はない。

 かの地では今、日本にいたときの幼馴染がわずかな手勢とともに日々常人の想像を絶する戦いを続けているという。彼女の戦いを裏から支えるために、私は貰ったスキルとこの船で、私なりに戦い続けるとしよう――

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