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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第七回 たのしいお仕事企画(2019.4.27正午〆)
214/268

僕のオシゴト (ながる 作)

作者マイページで加筆版を公開予定です。

「おぅっ! ミギワ! 後でちょっと寄ってくれ!」


 市場を早足で抜けようとしていた青年に、行きつけの青果店(ヤオヤ)の親父が声を張り上げる。

 くすんだ金髪の青年は上半身だけで振り返って、親父に見えるように高く手を上げた。

 もう、一番込み合う時間は過ぎたとはいえ、ネジの一本から望めば人間だって手に入る市は、今日もごみごみとしていた。テントとも呼べないぼろ布を屋根代わりにした店から、廃材を使った物々しい要塞風の店、ドラム缶に板を渡しただけの、おままごとのような店まで雑多に並んでいる。


 ミギワは足を緩めることなく人混みをすり抜けて、並んだ屋台の隙間から裏道に入った。

 積み上げる様にして建て増しされた、建物と建物の隙間は暗くて狭い。梯子や階段代わりのパイプがいたるところに出ているし、少し凹んだ暗がりには良からぬ輩が潜んでいたりする。

 それらをひょいひょいと避けながら――あるいは踏みつけながら、仕事先への最短距離を急いでいく。

 エアバイクが使えなかったのが痛い。ごちゃごちゃした古い区画は、()から行くのが一番なのだが……

 途中でガス欠になるよりはマシなのかもしれない。放置なんてしたものなら、ものの数分で消えてなくなるのがココの常識だ。


「すいませーん。遅くなりました!」

『はいはい。待ってたよ。どうぞ』


 ドア上部の小さなラッパのようなスピーカーからしわがれた声が響くと、カシャンと開錠の音がした。

 施錠システムは問題無さそう。

 余計な音が混ざらないのを確認すると、ミギワはお邪魔します、と入り込んで、腰につけた小さな鞄の中からコードを引っ張り出す。居住空間の片隅にある金属製のボックスを開けてコードを繋ぎ、並んだキーで決められた文言(コード)を入力していく。


「珍しいねぇ。遅れることなんてめったにないのに」

「バイク、ガス欠で。今朝気付いたんですよー」

「おや。カイムはまた引きこもってんのかい?」


 くつくつと笑いながら出される湯気の立つカップを、彼は丁寧に受け取った。独特の薬草臭さのあるそれは、数種類の果物とハーブなどから作られる酒をお湯で薄く伸ばしたものだ。


「何か物珍しいことでもありませんかね? そろそろ虫干ししないと腐りそうで」


 老女はけらけらと笑った。


「あんたの主人は腐っても死にそうにないけどねぇ」

「ゾンビは勘弁してほしいです」

「全くだ。珍しいと言えば……町外れの枯れ木が花をつけたらしいよ。花見と洒落こみたいねぇ」

「ハナミ?」

「花を見ながら飲んで食べて騒ぐのさ」

「……ああ、いいかもしれませんね」


 視界の端のイエローランプをキャンセルしながら、ミギワは微笑んでカップに口をつけた。



 *



「ただいま。カイム、データ見た? ミオさんとこは変わりなし。システムより部品の老朽化が問題みたい。で、バイクの燃料、調達してくれた?」


 ピクリとドライバーを持つ手が揺れたのを、ミギワは見逃さなかった。


「カーイームー。いくら僕でも、二本足じゃ限界あるの。システムチェックと調整は何とかなるけど、移動はどうにもならないから!」


 あーとか、うーとか言いながら、逃げ出すようにふらりと立ち上がって台所に消えていく姿を目で追いながら、今まで主人の座っていた椅子に腰かけてしまう。目の前には三台並んだモニターと、半分分解されたエアガン。ここ数日カイムはそれの改造にご執心だった。

 モニターのひとつをスクロールさせて、依頼用の電子掲示板をチェックしてみる。

 

「あ、ヤオヤの親父さんが、汲み上げポンプの調子悪いから診てくれないかって」


 依頼は中古の修理がほとんど。数人の上客が、システム系のメンテナンスを定期的に予約しているが、後は配達や道案内、最新の通知はとうとうペットの捜索まで。今やすっかり『何でも屋』だ。

 カイムはこの中からやりたいモノだけ引き受ける。気が向けば、後払いや物々交換、ツケだって構わない。その代わり、気に食わない客には吹っかけたりもするのだが、この街でカイムに喧嘩を売るような奴は、街の外へと放り出されることになっていた。ひょろくて青白くて、伸ばしっぱなしの黒髪が特徴の主人は、力はないが機械と機械言語(プログラム)に精通している。

 砂漠に囲まれた小さな街を砂に埋もれさせずに維持できているのは、地下の水資源とカイムのお陰と言ってよかった。


 ミギワはそのカイムの所有物。だから給金なんて発生しない。

 彼の一番の仕事は、引きこもりがちな主人を時々外に引っ張り出すこと。

 椅子から離れた今がチャンスと、彼はにっこり笑いかけた。


「それと面白い話を聞いたんだ。町外れのあの木、花が咲いてるんだって。ハナミ、しに行かない?」


 台所の入口で黒い液体を啜っているカイムの眉間の皺が、少し深くなった。

 でもそれは興味を持った証だと、ミギワは立ち上がる。


 だって、僕らは、あの木の根元に確かに埋めた。

 一体の、死体を。

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