秋の風に (蓮野 藍 作)
https://book1.adouzi.eu.org/n4803fd/と同じ文章になります。
外からの音はガラスによって遮られている。
ちらちらと風に乗って散る落ち葉が視界に入る。
静かな図書館の中は暖房が入っているのか肌寒くない。
数少ない時間を利用する調べ物にはうってつけの環境だと何回も確認する。
図書館に入ってどれくらいの時間が経ったのだろうか。
片腕を上げて腕時計が示す時刻を知り、切り上げることを決めた。
余裕があるわけでは決してない。
身の回りを片付け、席を立った。
胸元を彩る赤いブローチがきらりと光った。金縁のそれは母親からのもらいもので、とても気に入っていた。
手荷物を肩にかけ、そのまま図書館を出る。
外気の空気が触れ、ひんやりとした心地になった。
帰途に着く為、公道の向かい側にある公園に入る。
コツコツとヒールが音を立てながら歩む。
この季節だと公園はライトがつき、赤い紅葉が綺麗に照らされる。
秋の光景は魅入る程で、この季節の楽しみだった。
一番綺麗に見えると思う場所の近くまで歩を進めて軽く見開く。
一際目立っていた。撮影だった。
赤く彩った紅葉の木の下で女性が数名と男性数名。
照明に照らされて公園の一部とモデルが綺麗に引き立っている。
モデルは真紅の着物を着ていた。
指示に従ってか、様々な構図をとる度にシャッターが光る。
遠目ながらみると、モデルが着ている着物は紅葉の絵柄。
黄緑から黄色。赤。
赤基調の生地で彩られた植物は金糸で縁取られているのか、モデルが動く度にキラッと煌めいた。
外の風にゆれてモデルの髪はもちろんのこと、和服もかすかに揺れる。
一つの世界がそこにあった。
「すみません」
綺麗だな。
と思いつつ、歩を進めるところで声をかけられた。
声がした方向に身体ごと向けると一人の男性が立っていた。
ラフな格好で片腕に腕章をつけている。
「カメラのサークルの者です。今みてくださっている着物の撮影、早ければ再来週にでもポスター化していろんなところに張り出される予定なんです。よろしかったらみてください」
「わかりました。ありがとうございます」
再来週は何が何でもはやいと思う。
まくのだろうか。
微笑んでその場を後にする。
得した気分だった。
そして何の宣伝なのか、どこで見れるのか抜けていると気付く。
その人の抜けているところを思いつつ、歩を進める。
コツコツと足音が耳に届く。
ひんやりした心地が気持ちいい。




