表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第六回 キラキラ☆ワードローブ企画(2018.11.24正午〆)
204/268

玉の葉 (深海 作)

※作者本人ページでも同作品を公開しています。

 遠路はるばる、いのちの森へようこそ。

 あなたも私を求めてきたのね。ずいぶん年季の入った杖だこと。ところどころ黒ずんで、なんだか焦げくさいわ。

 ごめんなさいね、お望みのものは、もうすっかり落ちてしまったの。あなたは一歩おそかった。もう少し早く来てくれたら、あなたを包むことができたのに。


 私がまとっていたさいごの一枚は、あのよぼよぼの老人が手に入れたのよ。丸い背中をこちらに向けて、遠ざかってゆくあの人。私からちぎり取られたとたん、玉の葉はぱっと砕けて、あの人を包み込んだの。だからあんなにまばゆく輝いているのよ。



 ちりちりしゃらら 歌えひかりの葉

 そは宵空に散らばるまたたきのごとき、銀のしずくか

 それとも、蒼天を燃やすほむらの玉のごとき、金の矢か

 大地の母さまをことほいで 散り光れ



 見る人によって色合いが変わるらしいけれど。私自身には、まばゆい黄色や橙色の小さな玉が、無数に光っているように見えるわ。

 あなたはどう?

 あらいやだ、杖でしきりにつつかないでちょうだい。渋い顔で、甘ったるいだなんてぼやいて。鼻をつまむなんて失礼ね。

 え? 私のひかりはとげとげしている? あちこち刺されて痛い? しかもうるさい?


 にぎやかなのは確かね。ざわめくかがやきの葉を落としても、私は歌い続けるの。裸になった今は、歌をまとって楽しく過ごすのよ。

 でもね、実のところは、よくわからないわ。

 この森もほかの貧相な木々も、そして私自身も。

 どれもこれもおぼろげで、確かなものは皆無。

 形も色も境界も、あってないようなものよ。

 だから私の体に、きらめく葉っぱがいくつあったかなんて知らないわ。生まれてこのかた、数えてみたことなんてなくってよ。大体にして、数え方なんて知らないし。


 え?

 ひとつふたつみっつ? 一十百千万?

 いいえ、そんな固い石のような顔で、教えてくれなくていいのよ。私には必要のない知識ですもの。

 とてもたくさん!

 そう言うだけで事足りるわ。

 ええ本当に、いっぱいあったのよ。毎日ごっそりなくなっていくけれど、たくさんあるときは、はるか遠く、砂丘のかなたの街を明るく照らせるぐらい。すぐに砕かず、ランプの種火に使う人もいるみたいね。


 それどころではない?

 高値で取り引きされている?

 奪い合い、殺し合いが起きている?


 いやだ痛いわ。どうしてそんなにつついてくるの?

 いのちの葉を手にできなくて、悲しむ気持ちは分かるけれど、八つ当たりは止めてちょうだい。

 気を落とさないで、どうかまたいらしてね。

 私がまた、黄金色の玉の葉をまとう頃に。

 南からやってくる風が、足元の雪を溶かしたときに。

 そんなに先のことじゃないでしょう?

 あなたはまだ若そうだから、若返りのひかりが、どうしても必要というわけじゃないでしょう?

 なぜか怒って、私を蹴りつけたり、切りつけたりしてくる人がいるのだけれど。あなたはそんなことはしないわよね?

 そっとなでてくれたら嬉しいわ。

 あなたや優しい人たちのぬくもりで、私はいつか動けるようになるでしょうね。

 長い時をかけて、こうして空にそびえるものになったように。いつかきっと動かぬ足が、ふと前に出るときが来るでしょう。

 無理だろうなんて言わないで。進化はゆるゆる少しずつ、たっぷり時間をかけて行われるものなのよ。



 生まれた時から私は歌っていたわ。

 いのちを賛美して、さわさわきらきら葉っぱを揺らしながら、ぐんぐん伸びたわ。

 これからも私は伸び続けて、きらめく葉をたくさんつけて、心地よいひかりを落として、あなたたちを幸せに--


 きゃあ?!

 何をするの? どうして杖で殴ってくるの?

 やめて痛いわ。どうか落ち着いて。

 どうしてそんなに怒っているの?

 うるさい? 黙れ魔女の木?

 魔女? 私が? それはなに? 

 とてもまがまがしいもの? とても悪くておぞましいもの? 


 どうして……


 匂いが恐ろしいってどういうことなのかしら。

 蜜の香りがヒトを魅了する? とても抗えないって、どういうことなのかしら。

 私はただ、楽しく歌って、腕を伸ばしているだけなのに。


 いやよ痛いわ! 杖で殴らないで。どうかやめて。

 ひ! 杖から真っ赤なものが飛び出したわ。

 ああ。ああ。熱い! 


 なんですって? この世で一番大事な人が死んだのは、私のせい? やっと手に入れた玉の葉を砕いたとたんに、その人は亡くなった? 

 お気の毒に。でもそれは私のせいではないわ。あなたたちが勝手に、若返りの光だと思い込んでいるだけですもの。全然万能でもなんでもな……


 なんてこと。私燃えているわ。なんてこと。

 こんなに頼んでも止めてくれないのなら。あなたをはじき飛ばすしか……

 そんな……体の中からありったけのひかりを出したのに。なぜたじろがないの?

 ああ……あなた目が見えないのね。

 だから私のことが分からないのね。かわいそうに。

 杖が燃える。私も燃える。あなたも……


 助けて、優しい大地のお母さま。

 まっかな私を。私よりまっかなこの人を。


 どうか助けて……

2020/12/09 作者本人ページでも同作品を公開のため、注を追記

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ