無花果の葉 (Fawntkyn 作)
さて、あなたにどんな衣装を着せようか……。
粘土を捏ね、形作り、削り、磨き上げた躰。その顔も胴体も腕も脚も、鼻筋も顎も指先も足の裏の皺までも私が造ったものだ。関節や肋骨、躰の窪みには赤く影を、透けるような肌に血管の青い筋を入れる。爪は桃色、頬と唇は紅く、長い睫を付け、弧を描く眉を引く。埋めこんだ眼球はまるで生きているよう、ガラス職人に作らせた特注品だ。髪の毛は人間のもの、柔らかな子どもの髪。ひとつひとつのパーツは球で繋がっている。球の大きい順に腰、脚の付け根、首、足首、腕の付け根、手首。
完成した人形を見て、私は考える――人間を創造した神はこんな気分だったのではないかと。つまり、神は自分の作品に惚れ惚れしたに違いない、と思えてならないのだ。
肉体は美しい。知恵の木の実を食べた人間の最も大きな罰は楽園を追放されたことではなく、また労働の苦しみでも生みの苦しみでもない――羞恥心を知ったことだ。己を恥じるべきもののように感じてしまうとは、躰を持たずに生きることのできない我々にとって何という苦痛だろうか。この罰のせいで、私が創造した人形までも、生身ではなにか悪趣味で猥褻な代物だと嘲笑われるのだ。
だが肉体は美しい。肉体の前では、どれほど煌びやかな衣装も無花果の葉に等しい。
とはいえ、私の顧客たちは人形の衣装が豪奢であればあるほど喜ぶような無粋な連中ばかりだ。けばけばしい服装をしているだけでなく、髪に粉をふりかけ顔に偽物のほくろを描き躰をコルセットで締め上げた、いびつで醜い生き物。
私は生地見本を取り出すと、人形の肌や髪や瞳の色に合うものを見繕い、どんな型の服がふさわしいだろうかと思案する。衣装作りは気が乗らないが、人形だけでは買い手がつかないし、顧客たちは人形作りだけでなく衣装作りとして、私の腕を買っている節があった。どうしても嫌なら外注という手もあるが、この躰の隠れ蓑は自分の手で作らなければならないと考えていた……どうすれば被造物がより華々しく高慢で鼻持ちならなく見えるか、それは創造主である私が最も良く知っている。
衣装が完成すると、私は忸怩たる思いで人形を着飾らせる。髪の毛は細かく編み上げ、ネットをかぶせた上からベルベットのリボンを真珠と銀のピンで留める。すべらかな躰に透けるほど薄い肌着、その上から長いシルクの下着を着せる。瞳の色に合わせたサテンの上衣には大ぶりな花の刺繍、袖には細かなレース、その隙間からシルクが見え隠れする。長さの違う三枚のペチコートは微妙に色合いを変え、たっぷりしたドレープのある下衣の裾からのぞくように調節する。荒く編んだストッキングを太ももで留め、踵の高い靴を履かせる。仕上げとして、首元に大粒のビジューをあしらったチョーカーを――宝石が肌を傷つけないように慎重に――留め付ける。
一通り済むと私は立ち上がり、作業台の上に座った人形を矯めつ眇めつ眺めた。
輝かしく大袈裟で浅ましい。なんて仰々しい無花果の葉だ。私は深いため息をつく。
きっと愚かな顧客たちは馬鹿馬鹿しいほどの大金を出すだろう。
私は時おり考える――己の肉体を隠そうとする被造物を見て、神は虚しくならなかったのかと。完璧に造られた作品がその身を恥じていた時、神は何を感じたのだろう。
堕落したのは人間の魂であり肉体ではない……ならば、堕落した魂は崇高な肉体に耐えられなくなったのだろうか……。だとすると、やはり神は人間に残酷な罰を与えたということか。
恐らく、顧客たちは人形の顔立ちの美しさや、繊細な指の造形を褒めるだろう。だが、衣装に覆われた肉体が暴かれれば、彼らの多くはきっと目をそらすだろう。彼らは派手で高価な無花果の葉に身を包んだ、虚栄心の強い、人間の中でも特に堕落した精神の持ち主たちだ。
そんな連中の手に自分の作品が渡ってしまうのはとても歯がゆい。しかし、金がなければ生きることはできないし、生きていなければ作品を造ることができない。
暗いアトリエの中、わずかな光を反射して輝く無花果の葉と、その中の無垢な躰。土から生まれたその器は魂を持たず、永遠に清らかなまま。
私は自分の創造物を撫でながら囁く。
あなたは美しい。




