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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第六回 キラキラ☆ワードローブ企画(2018.11.24正午〆)
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わらわれたコレット〜The sun didn't laugh〜 (七ツ樹七香 作)

※本作は作者ページでも加筆して公開予定です。

 コレットは、やせっぽっちの貧しい少女でした。


 きたきりの服にはつぎが当たっていましたし、修繕のまにあわないところは破れたままになっていました。お母さんは朝も夜も働いていましたけれど、コレットにひとかけらのパンとしなびたリンゴをあたえるのがせいぜいでした。

 でも、コレットはいつもにこにこしています。

 そうしていないとおひさまに笑われると、おかあさんから習ったからでした。


 コレットも時々は街の学校に行くことがありました。

 かぎ裂きのある格子じまの普段着を身につけて、かぎ編みの汚れたショールを肩にかけて行きます。おかあさんの作ってくれたお気に入りです。昔はコレットの足にぴったりだった布の靴はとうにちいさくなっていて、はみ出したかかとで靴をふみつぶすしかありませんでした。


 石畳に、ガラガラと音を立てながら綺麗な馬車が通ります。

 道のはしに寄ってやり過ごしていると、馬車はコレットのすぐそばでピタリと止まりました。

 大きなお屋敷の前です。


「お嬢さま、どうぞ」


 コレットは、中からおりてきた少女に釘付けになりました。

 女の子はコレットと同じ年頃でしたが、立派な服を着ています。つやのあるタフタのドレスには、流行の青い布地がたっぷりと使ってあって、スソからフリルのついた象牙色のペチコートがのぞいていました。

 ポーランド風にキュッと後ろをたくし上げられたスカートは、腰のあたりからたれかかるように幾重ものドレープを作っていて、少女を大人びたシルエットにみせています。

 ちいさな頭を飾る黒々とした帽子はなめらかなベルベットで、すこし広いツバの上には、ドレスと同じ布のリボンが、美しく結ばれていました。それに、シカ革の白い手袋で包まれた手には、ほっそりとした日傘まで握られているのです。


 コレットは、ほうっと息をつきました。お姫様とはこういうものでしょうか。

 袖口の金色のボタンが、チカっと光って貧しい少女の胸を刺しました。

 美しい少女が歩き出しました。

 青い瞳はまっすぐに前を向いていて、少女を迎える執事に目もくれません。彼女は、少し不機嫌なのかもしれませんでした。

 けれど、それが少女の美しさをますます引き立てているのです。

 コレットは、彼女がお屋敷の中に消えたあとも、しばらく道のはしにいましたが、やがて背を向けて家に向かって駆けだしました。


 町を出て畑をこえて、家に帰りつくと、コレットはテーブルの上に残っていたひとかけらの黒パンを大急ぎで口に押しこみました。次に、道具の入った大きな木箱をあけて、コレットは小箱に入った裁縫道具を探しだしました。そして、日曜日に教会に行くための服もこっそりもちだします。

 色はつまらない灰色ですが、かぎ裂きもなくてつぎも当たっていない、コレットのとっておきの服です。


 そうして灰色の服と裁縫箱をにぎったコレットは、森の奥へと走り、湖のほとりにあるお屋敷にこっそり忍び込みました。

 ここはえらい人の夏の家なのですが、すっかり風の冷たくなった今は誰もおらず、庭が村の子どもの遊び場になることもしばしばでした。大きな石造りの建物には壁一面に緑のツタがはっていて、秋には赤や黄色に葉の色を変えます。

 コレットはそれを目当てにこのお屋敷へ来たのです。一枚ずつていねいにツタの葉をちぎります。そのたびに少女の胸はしあわせの予感にふくらみました。

 コレットは針と糸を手にして、灰色の服の胸の辺りに、ちいさな緑の葉を三枚連ねて縫いとめました。まるでエメラルドのブローチです。


 次に、スカートの一番上のところをぐるりとひとまきするように、緑のツタを不器用な手つきで縫いつけました。その下に黄色、その下に真っ赤な葉をひと目ずつ縫いつけていきます。

 すっかり縫いあげてしまうと、コレットはかぎ裂きのある服を脱いで、ツタの葉でかざったよそいきの服を慎重に身にまといました。

 すばらしいできです。あの女の子にだって負けないでしょう。コレットは湖に駆けよって、水面にすがたを映しました。


「すてき!」


 コレットはくるくるとその場で回りました。

 けれど、夢中になっていたコレットは、屋敷の番人が近づいてきたことに気がついていなかったのです。


「だれだ!」

「あっ!!」

「お前、村の子どもか。なんだぁ、その格好は。しゃれたつもりか、みっともない」 


 番人の男はあきれた調子で、ツタのドレスを指さすと大笑いしました。

 コレットは恥ずかしさのあまり、まっかになって逃げ出しました。走るうちに、きれいに縫いとめたはずの葉は、ハラハラと落ちていきます。

 やぶにひっかけて、灰色の服にもかぎ裂きができてしまいました。

 コレットは息を切らして家の近くまで駆け戻ると、やわらかい草の上にころげて天をあおぎました。


「楽しかったわ」


 空には傾きかけたおひさまが輝いています。

 心地のいいお天気です。


「でも、おひさまには笑われますね」


 にっこりしたコレットのまるいほほに、ぽろっと涙がこぼれました。

2019/03/24 作者本人ページでも同作品を公開予定のため、注を追記

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