Route666 (青月クロエ 作)
死ネタ、残酷描写注意。
後方から迫りくる複数の警察車両が鳴らすサイレン、撃ち込まれる銃弾を猛スピードで振り切れば、どこまでも続いている筈だった埃道が突然視界から消えた。
急ブレーキを踏み込む音と共に車体は勢いよく回転し、激しく揺さぶられながら、視界が汚らしい茶色の地面から紺碧に光る海、澄みきったスカイブルーに切り替わった直後、あたしを取り巻く世界全てが反転した。
ゆっくりと落ちていく、落ちていく、落ちていくあたしとあんたの世界。
もうすぐ終わると悟った瞬間、あんたとの旅(逃避行)で見た景色の数々が大して良くない頭の中で、メリーゴーランドのようにぐるぐると廻り出す。
潜り酒場の煙草臭い空気と薄暗い照明の下、きらきら輝くグラスの中の鮮やかで甘いカクテル。
賭博場のけばけばしい壁紙の模様、カーテンの派手な色合い、山のように積まれた札束。
あんたが銃口向けた途端、冷たいすまし顔から歯の根が合わない程震え上がった銀行員の青褪めた顔。
見渡す限り小麦畑か牧場しかない田舎道で、保安官数人を蜂の巣にした時に降り注いだ真っ赤な血の雨。
あんたと出会わなければ、あんたがあたしを強引に車に押し込まれなければ。
あたしには一生見ることのなかったものばかり。
他にももっと、もっとたくさんあるんだよ??
数え上げればキリがないくらいに、ね。
ねぇ、空の淡く明るい青と、海の深く濃い青が逆さまに変わるのも今初めて見たよ。
かすかにさざめく波を下から太陽が照らして、空が海を包み込むように抱えているみたい。
この目に映し出す最期の景色、しっかりと焼きつけなきゃ――
「……まだ終わらない、終わりじゃないよ……」
掠れた囁きが運転席からぽつりと漏れる。
あたしと同じく逆さまのあんたの顔は鬱血して赤黒かったけど、ちっとも苦しそうに見えないし、むしろ笑ってすらいた。
「……こんど、は、地獄を、いっしょに……」
そうね、これで何もかもが終わった訳じゃない。
あんたにつられて、顔を歪めて無理矢理笑ってみせる。
今度は一緒に堕ちた地獄で悪魔達から逃げる旅に出よう。
(了)
2018/07/29 著者修正




