夢を追う者 (151A 作)
それは圧倒的だった。
視界全てを覆う瀑布は仄かに発光し、見上げてもその始まりを見ることは叶わない。
水という液体が壁のように固く断絶せんばかりに素面を叩きつけ水飛沫を上げている。
辺りは水煙に包まれ、滝が轟かせている震動に船だけでなく内臓や血液まで不安定に揺さぶり痺れさせていく。
小さな船が流れ込む大量の水に押されゆっくりと向きを変えようとしているのに気づき、急いで櫂を持つ手を動かし舳先を固定する。
それでも水の勢いは力強く、その場になんとか留まることはできてもそれ以上先へと進むことはできそうになかった。
――これまでか
滝の始まりだけでなく幅の終わりさえ見えない水簾、疲れた身体の温もりを奪う冷たい霧、思考も気力も根こそぎ削いでいく轟音。
短くはない旅をこれまで続けてきた小舟はみすぼらしく頼りない。
――諦めるのか?
水中に沈んでいる櫂の先が欠けているのは急流を下る際に方向を変える為にごつごつとした岩に突き立てた時のもの。
進む先へと向いている船首が真新しいのは嵐の中うねる波と風に揉まれた後で修理をしたからだ。
補強を重ねた船底は幾つもの滝が続く落差を乗り切るためにした。
船尾に走るいくつもの筋状の跡は行き止まりに行きつき、仕方なく船を背負い次の水辺へ延々と歩いた時のものだ。
縁の傷は成り行きでうねうねと蛇行する川を経てどちらが先に海へと出ることができるかと競争した際に船同士がぶつかりあった時の名残。
そして海へと出てからは誰とも会わず、陸地の見えぬまま、ただひたすらに進んできた。
――だが、ここからだ
馴染んだ場所から腰を上げると小舟は左右に激しく動き、船腹に乱された水が当たり不満げに音を響かせた。
大きく息を吸う。
迷いは捨て、揺れる船底を蹴り飛び込んだ。
滝の先にある遥かな高みを目指して。




