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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第四回 サヨナラ相棒企画(2018.3.24正午〆)
125/268

すきま (ながる 作)

マイページにも掲載予定です。

 スマホの目覚ましが鳴りやまない。

 うるさいな。いつもは彼女が止めるのに。

 手探りでスマホを探し、画面をタッチした。そこから5分くらいうだうだとして、布団が剥がされないことにまた違和感を覚えてのっそりと起き上がった。

 半分くらいしか開かない目で部屋の中を見渡す。いつもと変わりない、俺の部屋。


 彼女がいない。


 朝も晩も、起きている間はトイレと風呂以外ならどこにでもついてきた、彼女が。

 殺風景なワンルーム。そうだ。以前はこんな景色だった。

 眼鏡をかけて、もう一度部屋の中を確認する。テーブルの上のコンビニ弁当の残骸も、埃をかぶった本棚も、干しっぱなしの洗濯物も何一つ変わることなく、昨日のままだ。

 忽然と、何の前触れもなく、何の置き土産もなく、消えた彼女以外は――


 すっきりした。これでもう厄介ごとはお終い。

 潰れた猫や泣くだけの赤ん坊、片足の無い犬、死んだことにさえ気づいていない人間を何度背負わされたことか。ある時なんて、それが何かさえさっぱりわからない黒い塊だった。

 頭痛はするわ、悪寒は酷いわ、ある時は涙が止まらなかったり。

 道行く人に奇異の目で見られながら、彼女御用達のお寺に向かうのがどれだけ恥ずかしかったか! これで解放される!

 菓子パンを紙パックのコーヒー飲料で流し込んで、揚々と俺は大学に向かった。




 彼女をうっかり拾ったのはバイトに向かう繁華街の交差点だった。横断歩道のしましまから生えている首や腕を何気なく避け、向かってくるような怪しい影はひたすら無視。人のいるところに人じゃないモノは結構混じっているから、関わらないように生きてきたのに、見るとなく見た信号の横に彼女は浮いていた。

 ばっちり合ってしまった視線に、ヤバいと思った時にはもう遅くて、彼女は嬉しそうに俺の背中におぶさった。


「視えてるでしょ?」


 横顔を至近距離で覗き込まれてにぃ、と笑われる。

 いくら恰好がどこかの高校の制服だったとしても、表情以外覚えられないくらいあやふやな認識の女子高生なんて、関わり合いになりたくないんですけど?!

 それまで必死で被ってきた『地味で普通』の皮を彼女に捲られ、覗きこまれた気分だった。


 彼女はその辺のビルとビルの隙間から黒い何かを引っ張り出し、俺の背中に押し付けてやたらはしゃいでた。そのままバイトに行かなけりゃならなかった俺を誰か慰めてはくれないだろうか? 客の何人かは店の前でこっちを見てUターンしたんだぞ?

 頭痛と寒気に耐えて仕事を終えると、彼女は「慈楽寺に行け」というようなことを言った。知り合いが片付けて(・・・・)くれるから、と。

 スマホで検索してみると意外と近い。今まで全く気が付かなかったが、住宅街の中でちょっと金持ちの家、くらいの顔をしてその寺はあった。表札程度の寺院名が胡散臭い。


 坊主がまたらしくない、ちょっとガタイのいいおっさんで、初めて会った時はカップ麺を啜っていた。俺を見て吹き出したから良く覚えている。

 本堂(?)の仏様の前で何だか適当に背中をバシバシ叩かれ、終わったから帰れと追い払われた。半信半疑だったが背中は軽くなっていて、頭痛も治まっていた。


「まこっちゃんの特技なの」


 一緒に片付けられなかった彼女がにっこりと笑った。後日聞いてみたところ、彼女は彼が「片付けちゃマズイタイプ」らしい。何がどうマズイのかはさっぱり分からなかったけれど、それから毎日のように『運び屋』をさせられると知っていたら、俺は無理矢理にでも『片付け』を頼んでいたかもしれない。




 2限を終え、俺はバイト先に電話していた。なんでだろう。朝はすっきりさっぱりすると思っていたのに。店長は珍しいねと笑いながら、休みを承諾してくれた。

 そのまま俺の足は慈楽寺に向く。ガタイのいい、坊主の元へ。


「ああ……やっと帰ったんだな。良かったな。もう振り回されんで済む」


 作務衣で黄色っぽいヤカンからお茶をついでくれながら、彼は素っ気なく言った。

 彼女と付き合いは長そうだったのに。


「せっかくあいつの『運び屋』をしなくて良くなったんだから、あいつみたいに色々拾おうなんて思うなよ? 自覚のあるなしに関わらず、この世に留まってるモノは生者に惹かれる。関わっていい影響はほとんどない」

「思いませんよ。今までだって避けてきた」


 こくこくと頷いて、坊主はじゃあなと犬でも追い払うみたいに手を振った。


「あ。今度片付ける時は有料だから。格安にはしてやるが」


 立ち上がった俺に、彼は上目遣いでにやりと笑う。

 まるで、俺がまたここに来ることを予言するように。


「……もう来ませんよ」


 雑踏は誰も彼も急ぎ足で、何だか取り残された気分になる。

 彼女と出会った交差点でうっかり共に過ごした時間を計算して、舌打ちが出た。薄情者め。書置きくらい残せばいいのに。

 ビルとビルの隙間の狭っちい空を一度見上げてから、俺はみんなのように足元に視線を落として足早に横断歩道を渡った。

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