君のためにできること (151A 作)
俺はずっと君のことを相棒だって思ってたんだ。
おかしいだろ?
支えて導いてくれていたのは君の方だったのに。
君がいなければ外を出歩けない立場なのに偉そうだって怒るか?
いや。
怒らないな。
それだけは分かる。
見えない癖にって?
なんだよ。
どれだけの付き合いだと思ってるんだよ。
しかも朝起きてから夜寝るまでずっと一緒に生活してたんだぞ?
離れている時間なんてほとんどなかった――そう無かったんだ。
それなのに。
早いもんだな。
君に会ってもう七年も経ったなんて信じられない。
初めて会った時、本当はすごく不安だったんだ。
自分のことすらままならないのに、君の世話ができるのかって。
結論から言うと君は手がかからなくて、俺の方が足手まといだったんだけど。
四ヶ月の訓練を終えて共に歩み始めた俺たちの仲は良好とは言えなくて、苛立ちと緊張から上手く意思を伝えられずに君を困らせてばかりいたことを謝らせて欲しい。
ほんと悪かった。
自分のことばっかりで君のことをなにひとつ考えてやれてなかったんだ。
ああ、そうだな。
“ずっと”って言ったけど、あれはちょっと盛り過ぎた。
多分俺が君を相棒だって心の中ではっきりと思ったのはあの時が初めてだったと思う。
ほら、覚えてるか?
ちょうど君と生活し始めて一年が過ぎた頃だと思う。
道を歩いていて、たしか三時過ぎかな?
学校帰りの子どもたちが笑いながら前から走ってきた時にさ、ピリッとしたんだ。
仕事中の時は何事にも動じない君が。
その時にああ、お前も血の通った生き物で感情があるんだって気づいたんだ。
あ、いや、待てって。
ちゃんと分かってたさ。
でもその時改めて気づいたんだよ。
だから足を止めて、大丈夫だからって気持ちを込めてグッドって声をかけて。
君が子どもを警戒したのは子どもが嫌いだからじゃない。
むしろ好きだろ?
知ってるさ。
きっと子どもたちは走ったり、友だちを追うのに夢中で俺が見えてなかったんだ。
だから俺にぶつかったりしないように、子どもの様子を窺ってたんだろ?
こんなに自分勝手な奴なのに、君は俺の安全を優先に考えて行動してくれる。
君の献身を当然だと決めつけて碌に誉めもしないで。
グッドって言われることが君にとってなによりの喜びだって知ってたのに。
最低だったよな、俺。
で、反省したわけ。
君の相棒として相応しい人間にならなくちゃって。
それからの俺たちは自分で言うのもなんだけど最高の相棒だっただろ?
頼むよ。
最後なんだからそう思わせておいてくれ。
本当は大きな音が嫌いなことも。
男より子どもや女の人が好きなことも。
ジャーキーよりもチーズが好きで、俺のお気に入りのコートを枕にして寝るのもスリッパを咥えて遊ぶのも嫌がらせじゃなくて愛情からだってことも――全部。
知ってるよ。
ごめんな。
初めの頃ずっとペットシートを片付けずに何度も同じの使わせて。
綺麗好きな君にとっては苦痛だっただろうに。
喉が渇いているのにも気づかずに放置したこともあったし、ごはんだってあげ忘れてたことも何度もあったから。
そうそう。
様子を見に来たお袋にすげぇ怒られたよな。
まあ、お蔭であれから俺も規則正しい生活できるようになったから君には感謝しかないけど。
でも悔しいな。
俺の目が見えていれば、君を最期まで面倒見ることができたのに。
いや。
見えていれば君は俺のとこに来ることはなかったんだけど。
ああ。
もう迎えが来る。
君にとって幸いなことは、生まれたばかりの君を育ててくれたパピーウォーカーの人が引き取りたいって言ってくれたことだな。
たくさん可愛がって大切にしてもらうんだぞ。
君はとても優しくて利口だから大丈夫だろうけど。
それから今までありがとう。
君がいたから俺は色んな所へ行くことができた。
楽しい思い出もできたよ。
それは全部君がいてくれたから。
なんだよ。
よせって。
舐めるなよ。
違う、泣いてなんか。
くそ。
笑って送り出したかったのに。
だから、やめろって。
目の見えない俺にはできることは限られてる。
だからさ。
祈らせて欲しい。
最高の相棒の余生が幸多いことを。
心から。
さあ。
ほら。
迎えが来たぞ。
相棒。
これが最後だ。
本当に。
ああ、お前はお日さまの匂いがする。
名前の通りだ。
じゃあな。
さよなら相棒。
幸せにな。
俺も頑張るから。
君に恥ずかしくないように精一杯生きるよ。
俺のお世話大変だったな。
お疲れさま。
これからは君のためだけに生きるんだぞ。
手がかかる俺のことは忘れていいから。
ハーネスから解き放たれて。
幸せになれ。
さよなら。
最高の相棒。
俺の大切な相棒。
どうか幸せに。




