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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第四回 サヨナラ相棒企画(2018.3.24正午〆)
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最初から何もかも知っていた星見の話 (狼子 由 作)

 ああ、そうだ。

 最初からずっと知っていた。

 ここで、お前と別れることになると。


 どうした。泣いているのか。

 今までけして涙を見せなかったお前だと言うのに。




 世界を救う旅なんて、バカバカしいとお前は笑った。

 救えるものなどせいぜい目に見える範囲だ、と言って。


 しかし、俺は知っていた。

 星が運命を告げていた。

 お前は、世界を救う英雄になる。

 そして俺は、お前をここへ導くためだけに、永劫を生きてきたのだ。


 生まれついての星見の力が、俺を呼んだ。

 お前は俺に連れられ、ここまで共に歩んできた。

 今こそ最後の封印を解かんと、永劫の魂を世界に捧げる俺の隣まで。




 出会いから全て仕組まれていたと知れば、お前は怒るだろうか。

 俺達が初めて会ったあの王国の危機、俺は偶然を装って行きあった。

 親しげに話しかけ、危機の中心にお前を誘い、そして、結果としてお前がそれを解決するのに手を貸した。


 とんでもない災難に巻き込まれたな、と苦笑するお前に平気な顔で笑い返した。

 笑い返した、はずだった。

 なのにお前ときたら、わざわざフードの中を覗き込んだ。

 どこか痛いのか、なんて聞くものだから。

 全く……本当に笑ってしまうな。俺の考えを知りもしないで。



 俺こそがお前の災い、お前の痛みだと言うのに。

 他でもない俺が常に導いてきたのだ。

 災禍の中心へ。

 争いの只中へ。


 お前は時に誰かをたすけ、誰かを断罪し、誰かの生命を見捨てた自分を責めた。

 だが、俺は知っていた。

 誰が救われ(たすけられ)、誰が罪を犯し、誰が死す運命であるのかを。




 大国の首都。そしてその真逆にある、お前が生まれ育った村。

 その2つが、同時に敵軍の襲撃を受けることも、ずっと以前から知っていた。

 知っていてなお、現実にそれが起こるまで、一言たりとも告げなかった。

 告げれば、お前は何もかも捨て生家へ走ると分かっていたから。


 ああ……いや、違う。そうではない。

 星は、俺がそれをお前に告げた場合のことは予言しなかった。

 何故なら、俺はけしてそのことを漏らすなどしないから。


 だから、あれはお前のごうなどではない。

 予見できたはずだったと、お前があれほど苦悩した大切な人々の死は。


 一つ一つ丁寧に、俺が情報を握り潰した。

 お前の耳に届かぬよう、気付かれそうになるたびにくだらない諍いを仕掛けて回った。


 そうして全てが終わった後で、何食わぬ顔をしてお前を慰めた。

 お前のせいじゃない、などと真実でしかない言葉をもっともらしく述べた。

 俺に、その言葉を言う資格などないと知りながら。

 ただ、お前を歩み続けさせるために。

 苦しみと義務を負う未来を押し付けるために。



 どうだ、俺の罪を知ってまだ同じことを言えるか。

 この冷淡な策略を、こんなにも平然と実現出来る俺の。

 永劫を生きる星見は、いつからかそういう生き物であったのだ。



 だから、お前は泣く必要などない。

 ここで俺が己の魂を使い果たそうとも、同情の一片すらかける必要などない。

 なにせ俺ときたら、ここに至ってもまだ、お前に謝るつもりなど毛頭ないのだから。


 ……ああ、いや。

 ただ一つ、お前に謝罪しておきたい。

 これまでのどのことでもなく、ただ今のことを。


 俺は、どうやらお前の顔を覚えていないらしい。

 こうして目を閉じると、途端にお前の顔が思い出せなくなる。

 一度ひとたび)見れば、二度とは忘れぬ星見の力を持っていると言うのに。

 耳に入るお前の声は、聞き間違いようもないと言うのに。


 どうにも薄情ですまない。

 所詮そういう男なのだと、だから――さあ、その手を離してくれ。


 俺はお前を利用したのだ。

 世界を救うためと己を欺いて、こんなところまで連れてきた。

 その俺が惑い、悩んでいたように見えたというなら、それは全て……そう、全て見せかけだけだ。



 見ろ。もうこの世界に、お前が愛する人間は一人も残っていない。

 いるのは、お前に救いを求める有象無象の群れだけだ。

 これが地獄でなくて、何なのだ。


 俺がそう(・・)した。

 この道をけばそう(・・)なると知りながら、ここへ連れてきたのだ。

 他に術がなかったなど、言い訳にしかならない。

 言っただろう。許されたい訳ではないのだ。



 ……俺に見えている未来はここまでだ。

 ここで消える俺には、この先は見えぬ。

 俺は消え、お前は――きっと――お前は解かれた封印をもって、世界を救う。

 救ってくれる、だろう。

 人の頼みを断れぬ、誰かの不幸を見過ごせぬ、誰よりも強く優しいお前だから。

 全ての元凶たる俺ののぞみすら、お前は叶えてくれると知っているよ。


 はは、馬鹿なことを。

 お前の気持ちなど、星は告げやしないさ。

 ただ、俺が知っているだけだ。

 ずっとお前を見てきた俺が。




 言う資格などないと分かっている。

 口に出すことは許されず、言葉にすることすら罪深いと。

 だが、せめて。

 予見し得ぬ未来に向け、心よりお前の――


 ――ああ、いや。やはり、言わずにおこう。

 さあ、今度こそ手を離せ。

 ここで、さらばだ。

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