ジルドの脳内絵日記 春1
・「ジルドって誰?」という方は、第二部の三話目『支団長さんの事情(1)』をご覧ください。キックスの同期です。
・ミルと同じく本当に日記を書いているわけではないので、“脳内”絵日記です。
・ハイリリス、サーレル、ダフィネ、ウサギリュックなどは書籍版のデザインを参考にさせていただきました。
・イラストがありますので苦手な方はご注意ください。
追記:挿絵のせいでページが重いようなので、二つに分けました。
支団長と副長、キックス、ティーナが王都に発って今日で六日目。
ミルもスノウレアのおつかいでキックスたちと一緒に行動しているらしく、砦には来ない。
うちの騎士たちが虚ろな目をして「モフモフ……」と呟きながらミルを求めて徘徊するという奇病を発症し出したので、そろそろ戻ってきてもらわないとやばい。
――なんて事を考えてたら、外が騒がしくなってきた。
どうやらミルたちが帰ってきたらしい。
これでとりあえず皆の発作は収まるだろう。
キックスによると支団長は北の砦に残れる事になったらしく、一安心だ。
やっぱりうちの司令官はクロムウェル支団長でなくちゃって思うし、サーレル隊長がここに来るなんて絶対嫌だもんな。
と思ったけど、キックスの話を聞くと何だか少しサーレル隊長の印象が変わった。
名前を覚えてたってマジかよ。
ちょっとだけ、またサーレル隊長と会ってみたいと思った。
ちなみにミルは帰ってきた途端に居残りの騎士たちにもみくちゃに撫で回され、毛をボサボサにされてご機嫌斜めだ。
皆からの手荒な愛なんだ、受け止めてやってくれ。
次の日から、またいつものようにミルは毎日砦に遊びに来ている。
しかしモフモフ欠乏症を発症していた騎士たちの発作は、昨日ミルを撫で回したくらいでは治まらないらしく、ミルは昼寝しているところを突然襲われたりしていた。
しばらくはこんな日が続きそうだ。
翌日も、やっぱり……。
騎士たちの急襲を警戒し、ミルは安心して昼寝をしたい時、副長の肩の上に登るようになった。
まぁ、そこにいれば誰にも襲われないよな。
ミルの背中を撫でていたら、とくに力なんて入れていないのに毛がごっそりと抜けてしまった。
なにかの病気かと慌てたら、ティーナに換毛期だと教えられた。ブラッシングしていても無限に冬毛が抜けるらしい。
ああ、ビビった……。
キックス情報によれば、クガルグは旅の途中でミルにネックレスをプレゼントしたらしい。
しかも赤い石がついたやつだってさ。ガキのくせに、やるな。
だけど残念だったな、クガルグ。ネックレスを選んだのは得策じゃなかった。
ミルの胸毛が深すぎて、ネックレスをつけてても全然見えてねぇもん。
ネックレスの件、ミルがちゃんとつけてくれているのかクガルグも不安になるらしく、時々毛の中を探っている。
大変だな、お前も。
副長たちが突然森から木を切り倒して運んできたので、何に使うのかと尋ねたら、ミルのおもちゃを作るらしい。
どうやら王妃様が飼ってる犬が木の輪のおもちゃを使っていて、ミルも欲しくなったみたいだ。
おもちゃどころか、この人たち、ミルのために一軒家でも造りそうな勢いだな。
どうすんだよ、これ。ミルが珍しく物をねだったからって、皆でこんなに作って。
いらねぇよ、こんなに。
ミルは驚いたりすると、ネコみたいに毛を膨らませ、しっぽを爆発させる。
今回は何に驚いてんのかと思ったら、談話室のソファーにひっそりと置かれてあったキノコのぬいぐるみにだった。
犯人はティーナだな。キックスに捨てろって言われてたのに。
旅の途中で、副長はミルを庇って風の精霊に襲われ、怪我を負ったらしい。
その怪我はミルの父親が治して傷跡すら残らなかったみたいだけど、ミルはまだ気にしているのか、やたらと副長にくっついて回っている。
元から副長には一番懐いてたけど、帰ってきてからはさらにって感じだ。
でも時々、思い出したように支団長のところにも走っていくから、一時北の砦を去る話が出ていた支団長の事も、目を離した隙にいなくなっているんじゃないかとまだ心配なのかもしれない。
俺も騎士辞めるかもって、ミルに嘘ついてみようかなぁ。
翌日、その嘘を実行してみたら、ミルは急いで住処に戻り、宝物であるという鹿の角を持ってきてくれた。
「これあげるから、やめるなんていわないで」って言ってたけど、俺、鹿の角とか全く欲しくないんだけど。そんなもんじゃ釣られないんだけど。
でもミルが心配してくれて嬉しかったので有り難く受け取っておこうとしたら、キックスが来て嘘をばらされた。
ミルは怒って、鹿の角を没収していった。
キックスとティーナが仲良く喋ってるのを見つけたので、ミルを投入して空気をぶち壊してみた。
いや、あの二人はそういう関係じゃないし、お互いに仲間としか思ってない事も分かってんだけど、ティーナはこの砦においての貴重な女の子なわけで、しかも結構可愛いと思うわけで……キックスだけに楽しい思いはさせねぇぞ!
副長にはどこを触られても無抵抗なのに、ミルは人を見てお触りを拒否してくる。キックスを始め、しつこくしてくる奴に対して警戒しているみたいだ。
俺も最近肉球を揉みすぎたので、手を伸ばすと防御される。
でも甘いな、ミル。
その防御の仕方じゃ、肉球のぷにぷにした感触を感じられて嬉しいだけだ。




