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北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第二部・はじめてのおつかい

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和解と協力(2)

「っうわ……!?」


 移動術を使って着いたのは、何故か木の上だった。

 暗闇で分かりにくいけど、私たち三人は太い枝に上手く着地したみたい。

 木の葉がカサカサと体のあちこちに当たって、こそばゆい。


「お、おちる!」

「どうしてこんなところに移動したのよ、ミルフィリア!」


 ハイリリスは人型だがバランス感覚がいいらしく、枝から落っこちそうになる私を抱き上げて助けてくれた。

 クガルグも木の上はお手のものといった感じで余裕である。


「わかんない! でも――」


 私は隻眼の騎士を目指して飛んだので、近くにはいるはずだ。そう思って地上を見下ろすと、


「ミルか!?」


 木の根元にいたキックスが、五メートルほど下からこちらを見上げた。

 団長さんに支団長さん、ティーナさんも焚き火を囲んで無事でいる。

 そしてその中には、隻眼の騎士の姿もあった。すでに治療は終わったらしく、元気な時と変わらない動きで立ち上がってこちらを見た。

 父上の水は消えているが、蛇は残っていて母上の妖精を頭に乗せている。


「せきがんのきし!」

「あ、ちょっと!」


 嬉しくなって身を乗り出したせいで、私はハイリリスの腕から地面へと真っ逆さまに落下してしまった。


「ミル!」


 しかし隻眼の騎士が上手く受け止めてくれたので無事で済んだ。


「せきがんのきし! もうへいき? せなかは? 痛くない?」


 ばたばたと騒がしくしっぽを振って尋ねる。


「ああ、大丈夫だ。傷はすっかり塞がった。不思議な力だ。ミルが水の精霊を呼んできてくれたんだろう?」

「だって私のせいでケガをしたんだし……痛かったでしょ? ごめんなさい」

「痛みなんて何でもない。ミルが無事でよかった」


 そう言われて、振り過ぎたしっぽが千切れそうになる。隻眼の騎士のほっぺを舐めながら、無事でよかったと心底ホッとした。


「ミル、彼女は……?」


 隻眼の騎士はやんわりと私の舌が届かない位置に顔をそらして言った。嬉しい時とかテンションの上がった時に人の顔が近くにあるとどうしても舐めたくなっちゃうんだけど、しつこくすると何気に顔を離されるのだ。

 エアペロペロをしている私をよけて、隻眼の騎士は地面に降り立ったハイリリスを見ていた。

 団長さんや支団長さんたちも隻眼の騎士の隣に並んで見慣れない精霊に警戒と緊張をしている。

 クガルグが幹に爪を立てて自力で降りてきたところで、ハイリリスは自己紹介をした。


「私は風の精霊のハイリリスよ」

「風の……!?」

「そう。さっきあなたたちを襲ったのは私の妖精なの。ごめんなさい、許してね」

 

 ハイリリスは申し訳無さそうに言った。精霊にこうやって謝られれば、人間は許すしかない。


「一日でこれだけ色々な精霊と会えるなんて、普通は一生かかってもあり得ない事だぞ」


 団長さんが興奮ぎみにキックスに言い、


「ミル、どういう事なんだ?」


 支団長さんは戸惑いを浮かべながら私に聞いた。

 私がスノウレア山であった事を一通り説明すると、キックスが物怖じせずハイリリスに尋ねる。


「じゃあ、あんたはサーレル隊長とは関係がなかったのか?」

「あんたじゃないでしょ!」


 隣にいたティーナさんがキックスを肘で突く。

 しかしハイリリスは呼ばれ方などどうでもいいようだった。


「サーレル……」


 思案するように呟くハイリリスにも騎士たちの事情を話してから、支団長さんは昼間の襲撃の件について彼女を問い詰めた。


「あなたは昼間、黒尽くめの人間たちと一緒に俺たちを襲ってきただろう。彼らと手を組んでいたんじゃないのか?」

「あの人間の男たちね」


 ハイリリスはずっとスノウレア山で母上と戦っていたが、妖精と感覚が繋がっていたらしいので、妖精の見たもの聞いたものの事も分かるのだ。


「私はあの人間たちの事は知らないわ」


 ハイリリスの妖精は、一度目の襲撃よりかなり前から私とクガルグの事を見つけていて、どうやってからかってやろうかと後をつけていたようだ。

 そしてゴーダの街に入った後、自分と同じように私たちを狙っている人間の集団を見つけた。あの黒尽くめの男たちだ。

 彼らはハイリリスに気づいていなかったが、標的が同じなので意図せず一緒に行動しているようになってしまったらしい。


「でも、街道での襲撃が重なったのはただの偶然よ」 


 黒尽くめの男たちが行動を起こしたタイミングと、ハイリリスが私の宝の山からあの石を発見してしまったタイミングがほぼ被ってしまっただけ。


「そういえば、サーレルって名前どこかで聞いた事があると思ったら、その男たちが度々口にしていた名前だわ」

「ほんと?」

「うん、その時にはちょっと理性を失いかけていたけど覚えてる。詳しい話はよく聞こえなかったけど、ミルフィリアとクガルグを攫って、そのサーレルって人間のところへ連れて行くっていう計画だったみたいよ」


 ハイリリスがそこまで話したところで、団長さんが口を挟んだ。


「精霊よ、あなたは人間の名や顔など覚えておられないかもしれないが、サーレルという人物とは実際に会った事があるのではないか? ほんの三日ほど前、デーラモンの谷での事だ」


 首を捻って数秒考えていたが、やがてハイリリスは何かを思い出したようだった。


「ああ、そうそう! 会った事があるんだったわ! 名前に聞き覚えがあるのは、前に自己紹介されていたせいもあったのね」


 ハイリリスはポンと手を打ってから続けた。


「私って巣立ちしてからまだ自分の住処を決めていなくって、世界中のお気に入りの場所を転々としてるんだけど、デーラモンだっけ? そこにある深い谷もその一つなの。ヒルグの住処から近いのもいいなって思ってるのよ」


 ハイリリスはそこで少し頬を染めた。


「それでね、最近その谷に戻ってきたばかりなんだけど……あ、戻ってきたっていうのは、八◯年くらい前にもしばらく住んでいた事があるから。でもその時には地元の人間たちには気づかれていなかったと思うんだけど、今回は姿を見られたみたいでね。それで領主に連絡がいったらしくて、ぞろぞろとお供をつれて訪ねてきたの。領主たちは私にずっとその谷にいてほしいって頼んできたわ。精霊が自分の領地や国にいると、人間は嬉しいみたいね。いざという時に頼れるって思ってるのかしら」


 無邪気に小首をかしげて、ハイリリスは言った。


「でも私は飽きっぽいし自由が好きだから、ここに定住はしないって言ったのよ。領主の印象も悪かったしね。人間たちはがっかりして帰っていったわ。そしてその人間たちの中に、サーレルって名乗った男がいたわね。確か領主の……弟? 子どもだったかな? とにかく領主の肉親だけど領主よりも立場の弱い人間だっていう印象が残っているだけで、ちゃんと紹介されたのに忘れちゃった。恰幅のいい領主とは逆に、細くて弱そうだったのは覚えてるけどね」


 団長さんは念のためといった様子で訊いた。


「そのサーレルという男が後から一人で訪ねてきたり、あなたに何か交渉してきたという事はなかっただろうか?」

「いいえ、ないわ」


 ハイリリスは自信を持ってすぐに答えた。やっぱり、サーレル隊長さんはハイリリスの件とは何の関係もなかったみたい。


 と思ったが、どうも彼は三日前に余計な発言をしていたみたいだ。


「でも、そのサーレルって人間がミルフィリアとクガルグの事を私に教えてくれたのよ」

「私たちのことをおしえた……?」

「そうよ。ほら、押して駄目なら引いてみろっていうから、私、四年くらい“ヒルグ断ち”してて、その間に生まれたミルフィリアやクガルグの事は知らなかったんだけど、話の流れでサーレルが喋ったのよ。この国にいる精霊はヒルグとスノウレアで、二人には一年しか年の変わらない子どもがいるって。私、それを聞いて二人が番ったんだって勘違いして嫉妬しちゃったのよね。それでスノウレアに果たし状を送ったのよ」


 それを聞いた支団長さんや団長さん、隻眼の騎士たちが顔を見合わせている。

 どうやら、ハイリリスが今回の騒動を起こすきっかけを作ったのはサーレル隊長さんだったみたい。


 彼が言わなくてもいずれハイリリスはクガルグや私の存在を知っただろうけど、その場にヒルグパパや母上がいればすぐに勘違いを正せた。

 本人たちがいないところで中途半端な情報が伝わってしまったから、ここまでこじれたのだ。


 黒尽くめの男たちもサーレル隊長さんの命令で動いているかもしれないし、ハイリリスの件もサーレル隊長さんの発言が原因だったとあれば、私にとってはやはりろくな人じゃないかも。

 そんな事を考えていると、ハイリリスは気を取り直して人差し指を立てた。


「それでね、そのサーレルの部下らしき怪しい男たちって、きっとまだミルフィリアたちを攫う事を諦めていないと思うの。だから、迷惑をかけたお詫びに私が彼らを偵察してきてあげるわ!」


 言うと同時に、ハイリリスは鳥へと姿を変えた。

 鳩サイズだった妖精より少し大きく、多少色が濃いという違いはあるものの、カラフルな配色は同じ。

 ただ、尾羽と羽冠は妖精より長く派手な印象だ。胸の部分の羽毛はモフっとしているけど、頭や背中は触ったらサラサラしていそう。


 そして彼女が飛んだ後には、風に黄緑や青、黄、銀、オレンジといった様々な色がついて、ほんの数秒空に残る。

 ナメクジが通った跡がキラキラ光っているみたい、なんて言ったら、例えが悪いと怒られるだろうか。

 でもこれじゃあ、昼でも夜でもかなり目立つ。偵察には不向きだ。

 それをハイリリスに言うと、


「大丈夫よ。私は風なんだから、冷たかったり暖かかったり、強くなったり弱くなったり、変幻自在なの。今は偵察のために、自己主張は止めて静かにしておくわ。それならいいでしょ」


 と、体の色を限りなく透明に近づけた。

 体の輪郭や目、くちばしなどはうっすら目視できるけど、背後の森の景色も透けて見えている。

 これならよほど注意して探されない限り、敵には見つからないだろう。


「でもハイリリス、疲れてるのにだいじょうぶなの?」


 地上でうろうろしながら、空中で羽ばたいている透明なハイリリスを見上げると、


「心配してくれるのね! だけど偵察くらいは大丈夫よ! 行ってくるわ!」


 ハイリリスはウインクをしてから夜の森の奥に消えていったのだった。

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