ミルの脳内絵日記 夏
イラスト注意。
美形設定の水と雪の精霊(人型)を描写するのに、私の画力が追いついていない事にも注意。
この地方にも短い夏が来た。
日本の夏に比べるとずっと涼しいはずなんだけど、雪の精霊である私にはつらい時期だ。
山の住処の周囲は一年中雪が融ける事はなく快適だけど、私には引きこもる権利がないそうなので(と、砦の皆が言ってた)、こうして今日も砦に来ている。
暑い。
腹が蒸す。
夏の北の砦では裸族が増える。
訓練が終われば当たり前のように皆脱ぎだすけれど、ここに一人、乙女がいる事を忘れてはいないだろうか。
思い出してほしい。私がとっても可愛い女の子だってこと。
そして気を遣ってほしい。
キックスに私の弱点がバレた。最悪だ。
たらい回しにされた。
おぼえてろ。
隻眼の騎士は、意外にもお酒に弱い事が判明した。
しかも酔うとキス魔になるという衝撃の事実。
おでこや頭のてっぺんとはいえ、そういう何かエロスな雰囲気のキスをするのはちょっと止めようか。
次の日、隻眼の騎士は二日酔いになっていた。
冷めた目で見たら慌てていたけど、当然だ。何度も私のデコをちゅっちゅした責任取ってもらいますからね。
ジャーキー一週間分で示談にしようじゃないか。
しっかりと塞いだはずの談話室のネズミの巣穴から、異音が。
や、奴が中から板を食い破ろうとしているっ……!!!
ティーナさん!! 緊急事態です!!
口の中に入れて運ばれると息が苦しいと父上に言ったら、体の向きを逆にされた。
なんかすごい画づらになってない、これ? 大丈夫?
夏は炎の精霊クガルグの季節と言っても過言ではない。
冬ですら元気でヤンチャだった彼が夏になったら一体どうなるのかと戦々恐々していたが、何故か夏限定で紳士に変化した。
夏の太陽に当たり過ぎると私が融けると思っているらしく、外を歩いていると私にぴったりくっついて自分の影に入れようとしてくるのだ。何て優しい! 私は感動してしまった。
くっつかれて暑苦しいなんて思ってない。絶対思ってない。
小鳥たちのために、砦にある木に果物をさしていたのは支団長さんだったらしい。と、砦の皆に聞いた。
でも支団長さんにその事を言っちゃいけないんだって。よく分からないけど、「知らない振りをしておけ」って言われた。
でも私は支団長さんに言いたい。
夏は自然界にも食べられるものが溢れていているから、小鳥たちがぶくぶく太っていってますよって。
キックスに私の弱点その2がバレた。
弱点を利用した罠を張られた。
しかし私は決してキックスの胸に飛び込むような真似はしなかった。奴に助けを求めるくらいなら、インクのトラウマを克服してやる。
ふふふ、幸せ。子どもの特権。
母上はひんやりしていて、いい匂いがする。
『ミルと一緒にケーキを食べたよ
♪ヽ(´∀`ヽ)(ノ´∀`)ノ♪』
的な自慢の手紙が王子さまから来たらしく、対抗心を燃やした支団長さんにケーキをごちそうされたけど……多ければいいってもんじゃないんだ。
毎日暑いから、父上の住んでいる大きな湖で泳ぎたいと思い、「水遊びしたい!」と頼んだところ、「危ないから、駄目だ……」と却下され、代わりに父上の能力で小さな水たまりを作ってもらった。
違うっ!
これ私のしたい水遊び違うっ!
拗ねながら水たまりをばっしゃんばっしゃん叩きまくっていたら、ため息をついて人型に変化した父上が湖へと連れ出してくれた。水が冷たくてテンション上がる。わくわく。
父上に掴まりながら、泳ぎの練習。
だけど前世でスイミングスクールに通っていた私の実力はこんなもんじゃないはず。
いつかバタフライで泳げるようになってやる。
夢中になって泳いでいたら、思ったより時間が経ってしまっていたようで、母上が迎えに来た。
「いつまで妾のミルフィリアを独占しておるつもりじゃ!」と怒っている母上を見て、やばい、ケンカになっちゃうと心配していたけれど、結局そうはならなかった。
母上の発言をまるっと無視した父上が、「スノウレアか……久しぶりだな」とマイペースに挨拶を返した後、さらっと「相変わらず……美しいな」と涼しい顔で言ったからだ。
母上はそんな事言われ慣れているだろうに、あまりに自然に言われたからか、「な、何を言うのじゃ、いきなり」と、怒りも忘れてちょっと動揺していた。
父上、やるなぁ。
絶望的に可愛くないぬいぐるみをティーナさんから貰った。
しかもデカイ。無駄に。無駄にでかい。
そして可愛くない。何度も言うけど、可愛くない。
けれどぬいぐるみの足の高さがあご置きとしてちょうどいいので、それのみに利用する事にした。
「ミルちゃんが私の作ったクマと添い寝してる〜!」ってティーナさん喜んでたけど……クマ?
ティーナさんってばクマ見た事ないんだ、きっと。
クガルグと外へ出ると、相変わらず必死で私のために日陰を作ろうとしてくれる。
優しいなぁ、優しいから言いにくいなぁ。
そっちに日よけがあっても、太陽の位置がこっちだから、私にバリバリ直射日光当たってるって言いにくいなぁ。全然意味ないって言いにくいなぁ。
隻眼の騎士から氷をプレゼントされた。
動物園のシロクマじゃないんだからと思いつつ、思い切りその冷たさを堪能してしまった。
休憩時間にキックスを含めた若手の騎士たちと水を掛け合って遊んでいたら、そこを通りかかった支団長さんにうっかりバケツの水を浴びせてしまった。
いや、浴びせたの私じゃないけどね。
頭からびしょ濡れになったまま、無言で氷の瞳を向けてくる支団長さんに、キックスたちは全員で土下座だ。地に這いつくばって、「ももも申し訳ありませんっしたーッ!!」と額をこすりつけている。
一応私も土下座スタイルをとって謝る。
いや、水浴びせたの私じゃないけどね。
しかし土下座のおかげか、キックスたちは軽く注意を受けただけだった。呆れたようにため息をつきながら濡れた髪をかき上げた支団長さん、色っぽかったなぁ。
キックスたちに注意をした後、さっさと建物の中に入ってしまった支団長さんを私は追いかけた。キックスたちに「どうか支団長の機嫌を取って来てくださいお願いしますミル様」と頼まれたからだ。しょうがないなぁ、もう。
支団長さんに追いついたところでキックスたちの代わりにもう一度謝ると、笑って鼻ツンされた。
許してくれたのかなと思ったら、そのまま拉致されてタオルでごしごしの刑に処せられてしまった。水掛けたの、私じゃないのに〜!
住処の洞窟の中にひっそりと集めていた『いい感じの木の棒』を母上に発見され、1本を残してあとは全部捨てられた。
ひどい……そんな……
私の『いい感じの木の棒』ーー!!
これは人間だった時から変わらないけど、私は虫が苦手だ。
あの硬くてカサカサしてそうな感触とか、ブーンっていう羽音とか、時々何故かこっちに突っ込んでくる突拍子の無さとか、行動の読めない感じが怖い。
芋虫とかはトロイから意外と平気なんだけど、ある程度大きな飛ぶ虫には恐怖しか感じない。
砦の談話室で皆が休憩に入るのを待っていたら、うとうとと眠ってしまったみたい。
夢の中で、前世の家族に会った。
「——ちゃん、おいで」って、皆が私の名前を呼ぶ。ミルではない名前を。
いつも優しくて明るかったお母さん。つまらない親父ギャグを言うけど、楽しい人だったお父さん。時々からかいながらも私の事を可愛がってくれたお姉ちゃん。
皆の事大好きだったのに、どうしてだろう、ちっとも顔が思い出せない。
私が死んでから、お母さんたちはどうしただろう。きっとたくさん悲しんだだろうな。いっぱい涙を流させてしまったに違いない。
ごめんね、ごめんなさい……。
寝ながら泣いていたらしく、目が覚めたら休憩に来た隻眼の騎士たちに周りを囲まれて心配されていた。
皆コワモテなのに慌てている顔は何だか面白くて、思わず私の涙も引っ込んだ。
私ってすごく幸せ者だ。前世でも今世でも、周りに優しい人たちがいっぱいいるんだから。
前世の私の家族もどうか幸せにやっていてくれますようにと心から願った。
前世の家族にはちゃんと感謝や愛情を伝えられなかった事を後悔してる。
だから今世ではしっかり自分の気持ちを口にする事にした。
隻眼の騎士にも、母上にも父上にも、支団長さんにも、ティーナさんにも砦の皆にも、たまにはキックスとクガルグにも、「だいすき」って伝えよう。
「いつもありがとう」って。




