表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第一部・はじめてのおるすばん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/214

雪の精霊

 祭壇に近づくにつれ、吹雪は激しさを増していった。

 スノウレア山の裾野に広がる森の中、強い横風に煽られた雪が視界を白く染めていく。隊列の距離を普段よりずっと縮め、馬同士の体をくっつけるようにして歩かなければ、互いの姿を見失いそうだった。

 唸る風が耳を塞ぎ、外套に張り付く雪が体温を奪っていく。

 手袋をしていても、分厚い靴下とブーツを履いていても、そして毛皮の帽子をかぶっていても、手の先、足の指、耳など、体の末端から凍り付いて痛みを感じるほどだ。

 しかしひとつ助かったのは、森の中は思ったより積雪が酷くなかった事。密集して生えている木々が、空からの雪を多少なりとも受け止めてくれているので、馬に乗ったまま進む事が出来た。

 しかし時折、木の枝は雪の重みに耐えきれず折れてしまう事もあって危険だった。重い雪が速度をつけて落下してくれば、鉄の塊を落とされたかのような衝撃になる。人の命を奪うには十分なので、落雪にも十分注意しながら進まねばならない。


 祭壇まではあとどのくらいか。見回りでグレイルも何度となく訪れた事がある祭壇だが、数歩先も見渡せない吹雪の中で、正確な距離感を計るのは難しい。

 森の中に入ってから、気温すらさらに下がったような気がする。息を吸えば、肺まで凍り付きそうだ。

『撤退』の言葉がグレイルの頭に浮かんだ。この状況でこれ以上進むのは難しいかもしれない。馬にも体力が残っているうちに引き返すべきか。

 何よりも視界の悪さに危険を感じた。見慣れているはずの景色がまったく違うものに映るので、道を間違える可能性も高い。

 キックスと並んで一番先頭を進んでいたグレイルは、後方にいる支団長のクロムウェルに声をかけようと振り返った。


 が、しかしその瞬間、散々自分たちを痛めつけてきた吹雪が不自然に弱まる。

 強い風に飛ばされないよう、寒さから身を守るよう、知らず知らずのうちに体に入っていた力が抜けていく。部下たちも皆、突然和らいだ風に驚き、空を見上げている。


「何だ、急に?」

「風、止んだのか?」

「いや……気を抜くな」


 ぽかんと口を開けている部下たちに、グレイルが厳しい声で言った。何となく、『嵐の前の静けさ』という言葉が思い浮かんだのだ。

 気づけば森の中でぽっかりと開けた空間に出ていて、すぐ目の前に祭壇があった。


「あれ? もう着いてたんすね」


 言いながら、キックスが馬を降りた。グレイルも地面に降り立ち、雪を踏みしめながら慎重に祭壇に近づいていく。

 雪の精霊スノウレアの祭壇は、白い大きな石の柱が二つ並んだだけのものだ。最初からこうだったのか、長い年月とともに元あった建造物が朽ちたのかは分からない。が、石の柱だけでも見上げるほど大きく立派で、どれほど雪が積もっても完全に隠れる事はなさそうだった。


「やはり吹雪は精霊の起こしたものだったのか?」


 馬を降りて近づいてきたクロムウェルが、思案するように呟いた。自分たちが祭壇に近づいた途端に止んだ吹雪には、確かに何らかの意図が感じられる。

 けれどそれはあまり良い感情ではないような気がした。自分たちを歓迎してくれている訳ではないと漠然と思う。風が止んで、耳が痛くなるほど辺りは静かになったが、グレイルはその静けさにえも言われぬ緊張感を抱いた。


「キックス、戻って来い。一人で前へ出るな」


 好奇心旺盛に祭壇の方へ近づいていった部下を呼び戻し、グレイルは辺りを警戒した。クロムウェルも鋭い視線を周囲に走らせている。

 しんしんと、雪だけが音もなく地面に落ちていく。誰かが緊張でごくりとつばを呑んだ。


「本当に精霊は現れるのか?」


 グレイルは雪の精霊に会った事はないし、この祭壇に定期的に祈りを捧げにやってくる町の人々の中にも、彼の精霊の姿を実際に目にした者はほとんどいないという。

 けれど皆、雪の精霊は雪と寒さによって、この地域で悪さをしようとするよそ者の人間を追い出してくれているのだと信じている。雪によって、この地域は守られているのだと。

 確かに国境に面しているにもかかわらず、この地域で過去一度も争いが起きなかったのは、多過ぎる雪の影響もあるだろう。軍は雪への対策を考えるだけで手一杯になってしまうのだ。自軍を雪から守るのに精一杯で、敵に攻撃を仕掛ける余裕などなくなる。


「お前は雪の精霊スノウレアを見た事があるか?」


 クロムウェルは真っ直ぐ祭壇を注視したまま、グレイルに質問した。グレイルはそれに「いいえ」と首を振る。


「雪の精霊が、有り難くもこの国に情をかけてくれているというのは有名な話です。国を護るため、王族がたに時折協力しているというのも。けれど私は実際にその姿を見た事はありません。とんでもない美女だという噂は聞いた事がありますが」


 クロムウェルはグレイルの返答に頷き、言った。


「私は見た事がある。一時、王子の近衛をやっていた時にな」


 今度はグレイルが頷いた。クロムウェルと第一王子は、そういえば幼なじみだったかと思い出す。


「えー! 支団長、雪の精霊見た事あるんすか? いいなー、すんげぇ美女なんでしょ?」

「確かに美しかったが、しかしあの美しさは……」


 話に割り込んできたキックスに、クロムウェルが言葉を返した時だった——。


 雪が音を吸い込んだかのように、辺りが一層静かになる。呼吸のために吐いた息は、外へ出た瞬間に白く凍った。

 森の中、神聖な祭壇に、どこからか一陣の風が吹いてきた。地面に積もった雪がそれに煽られ、舞い上がる。

 

 そして舞い上がった雪がまた地面に落ちた時、祭壇の中央、何もなかったその空間には、一人の美しい女性が佇んでいた。


「……う、わ」


 キックスや、他の部下たちが言葉を呑む。グレイルも目を見開いて、その人物を見つめる事しか出来なかった。

 人間離れした美しさに、吸い込まれてしまいそうだった。


 その女性は、この国で一般的に着られている庶民服とも、貴族が着るドレスとも違った格好をしていた。真っ白な、少し光沢のある前合わせの服を、胸の下の帯で留めている。

 体の線にぴったりと沿った生地に、大きく空いた胸元。普通の男ならそういう所に目がいくのかもしれないが、しかしグレイルは質の良さそうな白い毛皮の首巻きに注目した。きっとミルと同じようにふわふわしていて少し冷たいのだろうと。


 視線を少し上にあげれば、完璧に整った小さな顔が目に映る。氷で出来た彫刻のように美しく、一切隙のない顔立ち。

 隣にいるクロムウェルもよく町の女性たちから「綺麗」などと騒がれているが、今目の前にいる彼女と比べると、その美しさの種類が全く違うという事に気づく。どちらも氷の美貌を持っているけれど、クロムウェルの方がずっと人間らしいのだ。よく見れば顔には小さな傷跡があったり、寒さで鼻の頭が赤くなったり……。

  

 けれど目の前の美女はどうか。雪が溶けたかのような白い肌は、完璧過ぎてどこか作り物めいている。あの肌の下には、温かな赤い血など流れてはいないのではないだろうか。

 髪は艶やかな白銀色で、一本一本が淡く光を放っているように見えた。

 そして澄んだ泉に張る氷のような薄い青の瞳は、ぞっとするような美しさをたたえて、こちらを睨みつけている。

 しかしその怒りに染まった顔にさえ、目を奪われずにいられない。その美貌は凶器のようだった。

 彼女が人間だとは思えない。あれこそがきっと、雪の精霊スノウレアだ。

 

 鳥肌を立てたまましばし動けずにいたグレイルだったが、ハッと我に返ると、後ろにいた部下たちを振り返った。皆、突然現れた美女に目を奪われ、呼吸をする事すら忘れている。


「おい、息をしろ」


 慌ててグレイルが忠告しても、皆瞬きもせず固まったまま。まるで魂を抜かれてしまったかのようだ。


「精霊の顔をじっと見るな。代わりにあの白い毛皮の首巻きに視線を移せ」


 グレイルの言葉を受けて、部下たちの視線がゆっくりとだが首元に下がった。かと思うと、皆ほんの少し表情筋を緩めて大きく息を吸い込んだ。

 あの首巻きを見て考える事は全員同じなのだ。砦にいる白い子ギツネを撫でた時の心地良さを思い出し、心に少し余裕を取り戻す。


「雪の精霊スノウレア……だな?」


 一度彼女を見た事があるというクロムウェルは、他の騎士たちより冷静なようだった。怒れる精霊に緊張感を持ちながら話しかける。


「……妾の……」


 呟きにも似た精霊の声は決して大きくはなかった。しかしその透明で冷たい声は、グレイルたちの耳の奥にまでしっかり届いて鼓膜を震わせる。きっと雑踏の中でも、彼女の声だけは聞き分けられるだろう。

 スノウレアは長い袖で隠れた手を口元に当て、喉から絞り出すようにして悲痛な声を上げた。形のいい細い眉は、怒りにつり上がっている。


「妾の愛しい子がおらぬッ……! 人間どもめ、ミルフィリアを何処へやったのじゃ!」


 カッと目を見開くスノウレア。彼女の魅惑的な唇の下には、しかし鋭い牙が覗いている。

 彼女が叫んだ瞬間に目に見えぬ圧力が襲いかかってきたような感覚を覚え、騎士たちはぐっと息を詰めた。咄嗟に足を踏ん張らなければ、後ろに倒れてしまいそうだった。怯えた馬たちが後方で嘶いている。


 グレイルは急いで情報を整理した。雪の精霊は確かに怒っている。そしてその原因は彼女の子どもらしいが、雪の精霊に子どもがいたなど初耳だった。クロムウェルも知らなかったようで、隣で眉を寄せている。


「そなたら、どうして此処へ来た? 妾の子を攫ったのはそなたらか!? 何が目的じゃ!」


 美しい雪の精霊から、獣のような唸り声が漏れた。彼女は歯を食いしばって牙を剥き出し、今にもこちらに飛び掛かってきそうだ。

 グレイルは本能的に腰の剣に手をかけそうになったが、それを押しとどめて説明した。


「待ってくれ、我々は吹雪を止めてもらいにここへ来ただけだ。雪の精霊よ、どうか落ち着いて聞いてほしい。我々はこの地域を守る騎士だ。あなたの子どもを攫ったりなどしない。そもそもあなたに子がいた事すら知らなかったんだ」

「……砦の騎士か」


 スノウレアは、こちらの正体に気づくと多少落ち着きを取り戻したようだった。グレイルの真摯な言葉にも嘘はないと思ったのか、怒気が和らぐ。


「妾に子がいた事を知らぬのは当たり前じゃ。こうなる事を恐れて誰にも言っておらなんだからの。精霊の子は弱く攫いやすい上、成長すれば強大な力を持つようになる。それを利用しようとする人間が現れるのを警戒していたのじゃ。いったい何処から妾に子がいる事を知ったのか……」


 最後は独り言のように呟いて、スノウレアはその美しい顔を怒りに歪めた。

 本当に精霊の子が攫われたのだとしたら、大きな事件になる。犯人の目的は何なのか。王家やこの国を転覆させようと目論んでいるのか、もっと自分勝手な欲望のためなのか、いずれにせよ緊急事態だ。すぐに王都に伝令を走らせなければいけないくらいには。

 しかしその前にもう少し詳しく話を訊いておかなければならない。グレイルも冷静さを取り戻しつつ、目の前の人ならざる美女に質問を投げかけた。


「しかしこの時期に、人間が山の上のあなたの住処まで到達するのは難しいのでは? 言い辛いが……あなたの子が自分で住処を出たという可能性も……」


 さすがのグレイルも、怒りの炎を燃やしている精霊に向かって、さらに燃料を投下するような事は言いたくなかった。が、普通に考えると、まずそちらの可能性を疑うのが当たり前に思えたのだ。冬のスノウレア山に登るなど、正気の沙汰ではない。

 雪の精霊は目尻をつり上げて言った。


「確かに人間の体力では、妾の住む山頂までやって来るのは難しい。しかし不可能ではない。過去数百年、邪な考えを抱いた人間が妾に取り入ろうと山を登ってきた事が何度もあった。半数は途中で諦め、半数は途中で命を落とすが、極稀に天候に恵まれて山頂近くまで登ってくる者もおるのじゃ。住処に近づかれる前に雪崩に呑み込ませたがの」


 雪の精霊はそこで一旦言葉を切った。悪人とはいえ、人の命を奪う事に抵抗はないようだ。何でもない事のように言われて、やはり彼女は精霊なのだと改めて思う。

 人に全く興味を持たない精霊も多い中で、スノウレアは情のある精霊だと有名だが、しかし人間とは根本的に考え方が違うのかもしれない。グレイルも騎士として人を斬った事があるし、それを後悔などしていないが、人の命を奪ったという事実に対して、彼女のように何も感じない訳ではない。


「つまり人間が妾の住処から子を攫うのは不可能ではない。それに……」


 スノウレアはそこで唇を噛み、泣きそうな表情で言った。


「それに妾の愛しい子はまだほんの赤ん坊なのじゃ……! あの可愛らしい小さな足で山を降りられるはずがない! ミルフィリアは臆病な子じゃし、自ら安全な住処を出るとは思えぬ。……そう、あの子は臆病なのじゃ。きっと今頃見知らぬ人間に捕われて震えておるに違いないっ……可哀想に、妾の愛しい子よ……!」


 精霊の白い頬を涙が伝う。どんな宝石にも負けないほどの美しい涙だ。

 スノウレアの悲痛な叫びは子を想う母の愛に溢れていて、グレイルも何とか協力してやりたいと思った。


「我々も力を貸します。あなたの子を取り戻すために出来る事は何でもしましょう。ですからお願いです。どうか吹雪を止めてはいただけないか。激しい雪と風に阻まれては捜索も進まない」


 祭壇の周辺は風が止んでいるが相変わらず雪は降り続いているし、町や砦の方へ出れば酷い吹雪が続いているのだろう。

 しかしスノウレアはグレイルを見ると、僅かに眉根を寄せて目を細めた。


「……無理じゃ。確かにこの吹雪は妾が起こしたものじゃし、普段旨い酒をここに供えてくれる町の者たちを追いつめるつもりもないが、何故か今は上手く力を操る事が出来ぬ。ミルフィリアを攫った人間の事を思うと、消える事のない怒りが込み上げてくるのじゃ……!」


 途端に、祭壇の周辺にも強い風が巻き起こった。まるで精霊の感情に呼応しているかのようだ。

 グレイルは再び吹雪の中に身を置きながら、これは予想していたよりずっと最悪の事態だと危機感を持っていた。

 精霊の子を探し出すまでに何日かかるだろう。それまでこの吹雪は止まないというのか? もし見つからなければどうなる? 最悪、子が死んでいたら? 一生この地域に雪が降り続ける、それだけでは済まないかもしれない。

 精霊が起こしているにもかかわらず、彼女自身にも吹雪が止められないというのは厄介だ。


 これ以上雪が積もって身動きが取れなくなる前に、やはり王都へ使者を出さなければならない。国中の支団に協力してもらって精霊の子を捜索し、同時に他の精霊にスノウレアを止めるよう頼まなければ。人間の力では、とても太刀打ち出来ないから。

 グレイルはあまり精霊に詳しくないが、南に炎の精霊がいる事は知っていた。彼も比較的人間には協力的らしいし、その力で雪を融かしてくれるかもしれない。

 

 おそらく隣でクロムウェルも目まぐるしく頭を働かせ、この状況を打開するための策を練っているのだろう。グレイルと同じように厳しい顔をして考え込んでいた。


「副長ー! どうするんすか! 吹雪は結局止められないらしいし、このままここにいれば俺たちもヤバいっすよ!」


 激しい吹雪の中、背後からキックスが焦ったように叫ぶ。

 スノウレアは両手で顔を覆ったまま自分の子どもの名を呼んで泣いていて、悲しみのあまり我を失っていた。

 ひとまず砦に戻ってから、精霊の子の捜索を開始した方がよさそうだ。しかしその前にと、グレイルはスノウレアに向かって歩を進めた。

 が、スノウレアに近づくにつれ風は強くなり、グレイルの大きな体でさえ吹き飛ばされそうになる。


「グレイル!」


 クロムウェルが後ろで叫んだが、グレイルは足を止めなかった。向かい風に抵抗しながら足に力を込め、必死に前に進む。

 やがてスノウレアの目の前に立つと、彼女の肩を両手で掴み、正気に戻そうとするように軽く揺する。


「スノウレア! 聞いてくれ!」

「ふ、副長……何を」


 精霊にそんな事ができるのはグレイルぐらいだと、キックスたちは自分たちの副長の鉄人っぷりを改めて思い知った。

 吹雪の中、鉄人は叫ぶ。

 

「あなたの子どもの特徴を教えてくれ! それが分からなければ捜しようがない! 男の子か女の子か、あなたと同じ白銀の髪をしているのか。服はどんなものを着ていたのか。まだ赤ん坊と言っていたが、もう一人で歩けるほどの大きさなのか、それとも本当の乳飲み子か——」


 グレイルの言葉はそこで止まった。それ以上続ける事が出来なくなったのだ。

 何故なら、目の前で顔を覆って泣いていたスノウレアがふと黙ったかと思うと、指の隙間からじっとグレイルを見上げていたから。

 氷の瞳に間近で見つめられ、一瞬心臓さえ止まってしまったかのように感じた。


「そなた……」


 スノウレアが、血の気のない真っ白な手を伸ばしてくる。そしてその細い指先がグレイルの頬に触れた途端、体の芯から凍りつきそうな感覚を覚えた。直接肌と肌が触れ合っている部分はほんの僅かなのに、そこから急速に体温が奪われていく。

 彼女から離れなければ……! そう思うのに、体が言うことを聞かない。


「……何故そなたから、愛しい我が子の匂いがするのじゃ」


 美しい雪の精霊は、感情のない顔と声でそう呟いた後に一瞬で豹変した。目を吊り上げ、牙を剥き出し、激しい怒りに表情を染める。


「妾の子を何処へやった……ッ!」


 グレイルは渾身の力を込めて自分の腕を動かした。剣を握って、抜こうとしたのだ。反撃しなければ殺されると思ったから。それも身に覚えのない疑いをかけられて。

 おそらくほとんどの人間は怒れる精霊を前に何も出来ずに死を待つだけだろうが、グレイルは違った。強靭な精神力で心を奮い立たせ、剣に力を込める。

 しかしその時——



「……ミルフィリア?」


 グレイルの足下に視線を落としたスノウレアが、目を見張り、そして囁いた。


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ