フラーラとの日常(2)
しばらくお喋りをしたり遊んだりした後、お昼頃にウッドバウムは住処に戻った。カラフルになった角が本当に気に入ったようで、最後までニコニコと笑顔だった。
「ミル、フラーラ」
ちょうどそこで隻眼の騎士が迎えに来たので、私たちは砦の食堂へ向かう。食堂では私はいつも通りごはんを貰い、ウサギの姿に戻ったフラーラは人参を貰っていた。
「わたくし、精霊だから食事は必要ないのですけど……」
「でもおいしいよ」
躊躇しているフラーラの隣でモリモリごはんを食べる私。するとその姿を見たフラーラも人参を口にする。
「ものを食べたのは初めてです。これが『美味しい』という感覚なんですね」
人参は口に合ったようで、スティック状に切られたものを両手で上手に持ってサクサク食べていく。ウサギのこの食べ方可愛いなぁ。
あと、もぐもぐしてる時のお口もいい。ほっぺがぷくっと膨らんでハムスターみたいだし、ちらちら見える歯も可愛い。
私がそんなことを思っていると、いつの間にか周りに隻眼の騎士以外の騎士たちも集まってきていた。
「ウサギと子ギツネ……」
「可愛いのが二人、ごはん食べてる」
「癒し……」
私たちを眺めて、勝手に癒されて帰っていく騎士たちだった。
午後になると、私はフラーラを連れてライザードのところに遊びに行った。ライザードも雷の精霊である自分にかつては劣等感を持っていたし、フラーラの気持ちを分かって良い友達になってくれるんじゃないかと思ったのだ。
そうしてライザードのところに着くと、森の中にいたライザードは、トラの姿になって泉で水浴びをしていたところだった。
この地域はアリドラ国とは季節が違うのか、ちょっと暑いくらいだ。
「あら、ミルフィリア。遊びに来たの?」
大きなトラが泉からザバッと上がってくると、ウサギのフラーラはちょっと怯えて後ろに下がる。
「だいじょうぶだよ。わたしたちを食べたりしないから」
そう言って安心させてから、私はライザードにフラーラを、フラーラにライザードを紹介する。
「ライザード、この人は花のせいれいのフラーラ。さいきん友だちになったの。フラーラ、こっちは雷のせいれいのライザード。トラだから見た目はこわいかもしれないけど、優しいせいれいだよ」
「こんにちは、フラーラ。ゆっくりして行ってちょうだい」
ライザードは濡れた体を毛づくろいしながら言う。喋り方が女性的で穏やかなので、フラーラは少し警戒を解いたようだ。
「花の精霊って私も初めて会うわ。昔、私が色々な精霊にケンカを売りに行った時も、花の精霊と闇の精霊は見つけられなかったのよね」
前足を舌でザリザリ舐めながらライザードは言う。闇の精霊であるルナベラは、静かな場所を好む引きこもりだから見つけるのが難しかったんだろう。
一方、フラーラはハッとして言う。
「思い出しました。確かに昔、雷の精霊の気配が近くで何度かすることがあって、怖くて逃げたんです」
「ごめんなさいね、怖がらせて。当時は私、劣等感の塊で、自分の力をみんなに見せつけたかったのよね」
申し訳なさそうに言うライザードの言葉に、フラーラは自分との共通点を見つけたようだった。
「劣等感? 雷の精霊のように強くてもそんなものを感じるんですか?」
「感じるわよ。でも今はもう大丈夫だけどね。強いか弱いかなんて、くだらないことにとらわれていたわ。ミルフィリアを見てよ。この子、まだ子供で弱いけどみんなに好かれてる」
「このさき、強くなるよていもないしね」
私はあくびをしながら付け加えた。吹雪を起こしたり、雪の精霊としての能力は身につけたいけど、強くなりたいという願望はない。
まぁ最悪、吹雪とかも起こせないただの子ギツネでもいい。
「それでいいの?」
「いいよ」
当たり前のように答えると、フラーラは面食らったような顔をした。
「さぁ、それじゃあ何して遊ぶの? ミルフィリア」
毛づくろいを終えたライザードが立ち上がって言う。
「うーん、追いかけっこ」
「了解。じゃあ最初は私が追いかけるわ」
ライザードがニヤリと笑って言うと、フラーラはビクッと肩をすくめた。
「え? 追いかけ……キャー!」
問答無用で追いかけっこが始まったので、フラーラは慌てて逃げ出す。
「きゃあ!」
割と本気で怖がっているフラーラとは対照的に、私は怖がる演技をしながら笑顔で逃げる。ライザードはもちろん遊びで追いかけているんだけど、大きなトラが子ギツネとウサギを追いかける図というのは、はたから見たら狩りにしか見えないだろう。
そうして一時間ほど遊んだら、私とフラーラはライザードと別れて北の砦に戻った。
「疲れたけど、追いかけっこは結構楽しかったです。ライザードに追いかけられると緊張でドキドキして、でもそれが最後は楽しくなってきて」
砦に戻ってから、フラーラが笑顔で言った。
「ライザードも優しかったですね」
「そうでしょ」
私もしっぽを振って返す。
「フラーラは走るのはやかったね。ライザードに追いかけられたときもほとんど逃げきってたし、フラーラが追いかけるがわになったときもわたしは毎回追いつかれてた」
ビュン! って弾丸みたいに走っていくんだよね。小柄なのもあって、目で追いかけるのも大変だった。
「追いかけっこなんてしたの初めてなので、自分の足が速いということを初めて知りました。あまり本気で走ったことないですから」
「じゃあ自分のすごいところ、ひとつ発見できたね」
「そうですね」
私の言葉に、フラーラは照れくさそうに目を細めて笑ったのだった。
その後、私は住処に戻ると、『家族の日』に何をしようかと思案した。洞窟の地面に寝転がり、ヘソ天の体勢で左右にころころ揺れつつ考える。
そんな私のことを父上は隣でじっと見ているけど、視線を気にせずころころした。
(みんなにプレゼントを贈るのは……やっぱり人数が多いから大変そうだなぁ。北の砦のみんなにも感謝の気持ちを伝えたいし)
父上と母上、シラユキおばあちゃんに、いつも遊んでくれるクガルグやその他の精霊たち、それに砦の騎士たち、みんな私の家族のようなものだから。
(パーティーを開くのがいいかな)
目をつぶって考える。
一方、父上は私の方に手を伸ばしてきて、お腹をもふもふし始めた。何をじっと見ているのかと思ったら、お腹を触りたかったのか。
(果物とかの食べ物を集めて、部屋を飾り付けて、みんなを呼んで家族の日のパーティーを開く。うん、これで行こう)
だけど今は冬なので、この辺りでは果物も木の実も生っていない。
そこで私は、父上に異国へ連れて行ってくれるよう頼んだ。父上は前に異国を巡って美味しい苺を探し回っていたことがあったし、木の実が生っているところとか知っているかもしれない。
「木の実を集めて……どうするんだ……?」
「それはないしょ!」
サプライズパーティーにしてみんなを驚かせたいので、目的は言わないことにした。
「今度は一体何を考えておるのやら」
ベッドに座って会話を聞いていた母上が笑って言う。
「母上もたのしみにしておいてね!」
そう言い残すと、私は父上に移動術を使ってもらい、一緒に異国へ飛んだのだった。




