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北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第六部・かぞくのひ

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双子と遊ぶ(3)

 サンナルシスたちのところへ行った翌日、私はクガルグを誘って再び彼らを訪ねた。

 サンナルシスもルナベラも毎日双子の遊び相手をするのは大変だろうし、今日は私とクガルグで双子を連れ出して、その間大人二人には休んでもらおうと考えたのだ。


「ノッテとルーチェを北のとりでにつれて行ってもいい? 雪あそびしようとおもって。サンナルシスとルナベラはその間、休んでたら?」


 私がサンナルシスにそう提案すると、二人は瞳をきらめかせた。


「ぜひ頼む。ありがとう、ミルフィリア。お前は素晴らしい子だ。なんて良い子だ」


 サンナルシスは高い高いするように子ギツネの私を持ち上げる。双子を連れ出すだけでこんなに感謝されるとは。

 サンナルシスもルナベラも双子のことを愛しているし過保護なところもあるけど、体力が有り余っている二人と二十四時間一緒にいるとたまには休息も欲しくなるのだろう。


「ミルフィリアちゃん、ありがとう。でもノッテのわがままに困ったり、何かあったらすぐ私たちを呼びに来てくださいね」


 そう言って頭を撫でてきたルナベラとサンナルシスに見送られ、私たちは北の砦に向かった。ノッテとルーチェはまだ移動術を使えないし、クガルグは北の砦には飛べないので、私が隻眼の騎士を目標にして移動術を使う。


 私の隣に立っているルーチェも、クガルグの背中に乗っているノッテも、移動術を使った瞬間に小さな吹雪が巻き起こるとぎゅっと目をつぶった。

 そうして北の砦に着くと、そこは隻眼の騎士の執務室だった。


「今日は四人で来たのか」


 私たちを見ると、隻眼の騎士は優しく笑って机の上の書類をまとめ始めた。執務室へ来たのは初めてだったので、ノッテとルーチェはきょろきょろと部屋の中を見回している。


「ちょうど午前の仕事も終わったところだ。食堂へ行こうか」

「うん!」


 隻眼の騎士は机の脚で爪を研ぎ始めたノッテを抱っこすると、私たちを引き連れて執務室を出た。

 途中、階段を下りる時にはルーチェが怖がり、結局隻眼の騎士が子馬のルーチェのことも抱えることになった。そこそこ重いと思うんだけど、隻眼の騎士は余裕のようだ。


 そして階段を下りた後は一人で歩いていたルーチェだけど、石畳の廊下に蹄が当たるとよく音が鳴り、しかも反響するので、その音にも怖がったりしていた。

『何、この音? 怖い! ずっと鳴ってる!』ってちょっとパニックになっていたけど、ルーチェの足が当たって鳴ってるんだと教えたら、何度か蹄で床を蹴って確認した後、納得したようだった。


 やがて無事食堂に着くと、隻眼の騎士は私たち四人を待たせてカウンターに食事を取りに行く。

 ノッテとルーチェは何度か砦に来たことがあるけど、大体外で遊ぶので食堂に来たのも初めてだった。


「お、今日は双子も来てるのか」

「前より少し大きくなったか?」


 食堂にいた騎士たちに声をかけられても、双子はちょっと緊張している様子だ。サンナルシスとルナベラがいないからっていうのもあるかな。

 いつもはわがまま放題なノッテも借りてきた猫みたいに大人しくなっているし、二人とも私とクガルグにぴったりくっついて離れない。

 そうこうしているうちに隻眼の騎士が戻ってきた。


「ミルの分だけじゃなく一応全員分用意してもらったが、食べるかな?」


 私には野菜やお肉の入ったスープを、そしてクガルグとノッテにはジャーキー、ルーチェには人参を持ってきてくれた。クガルグはすでにジャーキーの美味しさを知っているので迷いなく口に入れ、私も食事を始める。


「おいしいよ。ためしに食べてみたら?」


 初めて見るジャーキーと人参を不思議そうに見つめている双子に私は言う。

 すると好奇心旺盛な二人はそれぞれジャーキーと人参を口に入れ、噛んだ。しばらく真面目な顔でもぐもぐした後、パッと目を見開く。どうやら美味しいみたい。


「口に合ったようでよかった」

「そうだな」


 隻眼の騎士の言葉に相槌を打ったのは、支団長さんだ。


「しだんちょうさん! いつの間に」


 双子が来ていると聞きつけてやってきたのだろうか? 「食べる姿のなんと可愛……」と言いかけて咳払いで誤魔化したりしている。


「ミルもたくさん食べるんだぞ」


 支団長さんは剥がれそうになる氷の仮面を必死で保ちながら、私にそう言ったのだった。



 ごはんを食べた後は隻眼の騎士と支団長さんも一緒に外に出て、訓練場で思い切り遊んだ。今日は雪が降っているけど風はなく、この前穴ぼこだらけにした訓練場も新たに降った雪でもうほとんど綺麗になっている。


 私ははしゃいで外に飛び出したが、双子は雪に怖気づいて尻込みしていた。何度か砦に来て雪に慣れてきたと思ったけど、今日は特に積もっている雪の量が多いからかな。

 それともいつもは晴れている日に砦に来てたから、空から降ってくる雪が怖いのかもしれない。


「だいじょうぶだよ! 楽しいよ!」


 私は率先して雪の中ではしゃぐ。炎の精霊であるクガルグも寒さは得意じゃないけど雪遊びは嫌いじゃないようで、私に続いて雪を掻き分けずんずん進む。

 すると空から降ってくる雪を眺めていたルーチェも、雪を踏み分けこちらに歩いてきた。

 ルーチェの細い脚ではなかなか歩きにくそうだけど、次の瞬間にはドテッと雪の上に倒れ込んだりして結構楽しんでいるみたい。


 一方、一人残されたノッテも意を決して雪にダイブする。そしてバタバタともがきながら前に進んでいた。

 ノッテの小ささじゃ本当に溺れているみたいだけど、隻眼の騎士がそばについててくれるから埋もれてしまっても助けてくれるだろう。ちなみに支団長さんは非常に幸せそうな表情で私たち四人の遊ぶ姿を眺めていた。


 そうしてしばらく雪まみれになって遊ぶ私たち。昼休憩中の砦の騎士たちもやってきて、大人数で雪合戦したり、キックスが時間をかけて作っていた私の雪像をルーチェがうっかり壊しちゃったり、少し目を離している間に降ってくる雪でノッテが真っ白になっていたり、コワモテ軍団の顔の怖さに双子がビビっていたりして、楽しい時間だった。


「さぁ昼休憩は終わりだぞ。そろそろ仕事に戻れ」


 やがて隻眼の騎士がみんなに声をかけた。私やクガルグ、双子も十分雪を堪能したので、わしわしと雪を掻き分け、砦の建物の方に戻る。

 途中、雪の中でノッテが溺れていたので、私は首根っこを噛んで持ち上げ、回収する。

 そして近くにいた支団長さんにノッテを渡した。全身雪まみれになっていたので、その雪を払ってあげてほしかったからだ。


「さすがに少し体が冷えているな」


 支団長さんはノッテの雪を払い落しながら言う。


「私の執務室に連れて行こうか。暖炉をつけたままにしてあるし、ルーチェやクガルグも温まった方がいいんじゃないか?」


 確かに三人とも少し体を温めた方がいいかもね。

 子供四人と隻眼の騎士も一緒に、支団長さんについて行く。そして執務室に着くと、支団長さんは嬉しそうに扉を開けて招き入れてくれた。

 ノッテとルーチェ、クガルグを暖炉前に座らせると、「普段は暖炉で誘ってもミルは来てくれないからな……」と呟いて私を抱っこする。そしてパチパチと薪がはぜる暖炉から距離を取ってくれた。

 支団長さんは自分の執務室に私もクガルグも双子もいるという状況にうきうきしているみたいだ。


 一方、隻眼の騎士はいつの間にかタオルを持ってきて双子やクガルグの体を拭いている。暖炉に当たると雪が溶けて体が濡れちゃうからね。

 ノッテは暖炉が気に入った様子で、床の上でお腹を出して伸びている。猫はやっぱり寒いより暖かい方が好きなのかな。


 ちなみに炎の精霊であるクガルグは、ノッテよりもさらに暖炉を気に入っている。毛皮が燃えないか心配になるくらいの距離まで近づいて、目を細めて気持ちよさそうにしていた。


 ――と、みんなで温まっているところに、移動術を使って木の精霊のウッドバウムがやってきた。

 執務室の床からいきなり蔓植物のような細い木がいくつも生え、人の形を作ったかと思えば、次の瞬間にはそれは人間の姿のウッドバウムに変わっていたのだ。


「あれ? 双子とクガルグも一緒にいたんだね」

「ウッドバーム! どうしたの?」


 私は支団長さんの腕からぴょんと飛び降りてウッドバウムに駆け寄った。そして今度はウッドバウムが私を抱っこする。


「ミルフィリアと遊びに来ただけだよ。いつも正午近くは砦にいるって言ってたから、久しぶりにここにも来たくてね。クロムウェルとグレイルも元気そうだね」


 二人の顔も見回してにっこり笑うウッドバウム。暖炉に当たっていた双子も突然現れた木の精霊の方をじっと見つめている。ノッテもルーチェもゆっくりしっぽを振って喜んでいるみたい。

 ウッドバウムは何度か双子と会っているし、いつも双子に優しくしているから割と好かれているのだろう。


「一人でも可愛いのに、子供たちが四人揃っているとなおさら可愛いね」


 支団長さんに勧められてソファーに座りながら、ウッドバウムは言う。

 そして私をぎゅっと抱きしめながら続けた。


「僕も早く跡継ぎを作りたいな」

「だれか協力してくれそうな人いないの?」


 あまり子供がする話題ではない気もするけど、興味があるので尋ねてみた。

 ウッドバウムはため息をついて言う。


「僕は知り合いの精霊が少ないからね。ミルフィリアと知り合ってから友達は増えたけど、協力してくれそうな精霊はいないな。ハイリリスはヒルグのことが好きだし、ダフィネやスノウレアだとクガルグやミルフィリアが嫌がるし」

「うーん、そうだねぇ」


 精霊に人間みたいな常識や倫理観はないから、母上は弟を産んだ後なら、意外とウッドバウムに協力してくれる可能性もある。

 でも私は、母上には父上以外の人と番ってほしくないんだよね。父上も、昔の父上なら母上が誰と番おうが無頓着だったかもしれないけど、今の父上ならちょっと嫌がるかもしれないし。

 ウッドバウムは「でも」と続ける。


「顔の広いダフィネに誰か協力してくれそうな精霊を知らないかって聞いてみたら、花の精霊はどうかって言われたんだ。ダフィネも花の精霊とはそれほど親しいわけではないようだけど、何度か会った感じ、優しい精霊だったって。だから穏やかな僕と合うんじゃないかって」

「花と木だったらせいれいの性質もあってるし、いいね」


 私はウッドバウムにもふもふされながら頷いた。

 協力してくれるかは、花の精霊の気持ちも聞いてみないと分からないけどね。

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