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北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第六部・かぞくのひ

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双子と遊ぶ(1)

『家族の日』の話を聞いた後でごはんを食べ、砦から住処に戻ってきた私。だけど母上はお腹が重いと言って一緒に遊んでくれないし、父上はどこかに出かけてしまっている。


「父上はどこに行ったの?」


 ベッドに座っている母上に尋ねると、母上は呆れたようにこう説明する。


「水を汲みに行った。生まれる子供は水の精霊じゃから、生まれてすぐに水に浸かりたいと思うかもしれない、などと言って……。魚ではないのじゃから、すぐに水に入れる必要はないじゃろうに」

「なるほど……」


 人間の赤ちゃんだったら産湯が必要かもしれないけど、精霊にはいらなそう。そもそも、ここの気温だと水が凍っちゃいそうだし。

 でも父上もいないなら、私は午後は何して遊ぼうかな。水を汲みに行っただけなら父上はすぐに戻ってくるかもしれないけど、綺麗な水を求めてあちこち巡ってたら意外と時間がかかる可能性もある。

 私は少し考えて、母上にこう伝えた。


「ちょっとクガルグのところにあそびに行ってくる!」

「遅くならぬように帰ってくるのじゃぞ。あまり遅いとわらわより先にウォートラストが心配し出すからの」

「うん!」


 母上に返事をすると、クガルグを頭に思い浮かべて移動術を使う。クガルグがいるのはこの国の南の方だけど、真冬の今はクガルグの住処も寒いはずだ。夏の暑い時期に炎の精霊の住処に行く気にはなれないけど、今の時期なら平気。

 私の体は小さな吹雪に変わり、住処の洞窟から消えていく……はずだった。


「あれ?」


 しかし体は消えずに、何かに弾かれたような感覚がした後に元に戻った。私はクガルグのところに行けずに洞窟に佇んでいる。


「へんだな」

「どうした?」


 全て見ていた母上が言う。


「もう一度集中してやってみよ」

「うん」


 再度移動術を使うが、やはりクガルグの元へは行けずに戻ってきてしまう。私はコテンと首を傾げて呟く。


「なにかにはじかれてるみたいな感覚がする……」

「ふむ」


 母上は何か思い当たることがある様子で、こう言う。


「拒否されているのかもしれぬな。今度はヒルグを目標にして行ってみてはどうじゃ?」

「きょひ?」


 意味はよく分からなかったが、クガルグに何かあったら心配なので、母上に言われた通りヒルグパパのところに飛んでみることにした。ヒルグパパならクガルグの近くにいるかもしれないし。


「じゃあ行くよ」


 今度はヒルグパパを思い浮かべて移動術を使う。すると次は上手くいって、吹雪に変わった私の体は一瞬でヒルグパパのところへ移動していた。


「おや、ミルフィリア。よく来たな!」

「ヒルグパパ!」


 ヒルグパパは黒い豹の姿をしていて、私はその背中に着地した。

 炎の精霊であるヒルグパパの背中は熱いくらいなので、私は慌てて地面に跳び下りる。この辺りの地域は雪が積もっていないみたい。

 私はトテトテと歩いて前に回ると、ヒルグパパの顔を見上げて言った。


「あのね、クガルグがどこにいるかわかる? クガルグのところに行こうとしたんだけど行けなくて」


 クガルグに何かあったのでは、と慌てている私に対し、ヒルグパパは特に焦っている様子はない。


「クガルグか? クガルグならあそこにいるが」

「え?」


 ヒルグパパの視線を追って上を見る。するとそこには確かにクガルグがいた。

 ――高い木に登って下りられなくなっているクガルグが。


「クガルグ……」

「ミルフィー……」


 ちょっと気まずい空気が流れる。クガルグはまずい場面を見られてしまったっていう顔をしている。

 クガルグは前も木に登って下りられなくなってたけど、なぜ懲りずにまた登るのか。

 ヒルグパパは笑って言う。


「ははは! 恥ずかしいところを見られてしまったな、クガルグ!」


 そして私の方を見て続けた。


「クガルグのところに行こうとしたが行けなかったと言ったな、ミルフィリア。それはミルフィリアがやってくる気配を感じたクガルグが拒否したからだ。恥ずかしいところを見られたくなくてな!」


 ヒルグパパはまた「ははは!」と笑う。そんなに遠慮なく笑っちゃ可哀想だよ。

 でもクガルグに何かあったんじゃなくてよかった。それに私を拒否したのも、嫌いになったとかじゃなくて可愛い理由でよかった。


「べつに下りられないわけじゃないし……」


 クガルグはいつもより弱々しい声で言うと、そろそろと木から下りてくる。前回と同じくお尻を下にしてズルズルと爪を立てながら、不格好に地面に到達した。


「よかった、下りられて」

「うん……」


 恥ずかしいらしく私と目を合わせないクガルグ。

 私もクガルグから視線を外してヒルグパパに尋ねる。


「ねぇ、ヒルグパパ。いどうじゅつで誰かが飛んでくるのをきょひすることなんて、できるの?」

「できるぞ。相手が自分のところに到着する直前に、誰が来たか分かるだろう? だから来てほしくない相手の時は拒めばいい。意識すればすぐできるぞ」


 確かに誰かが自分のところに飛んでくる時、その相手が完全に実体化する前に来たことに気づける。

 たとえば父上だったら父上が現れる前に霧が発生するし、クガルグだったらポッと炎が灯る。そこで拒否すれば、相手は実体化することができずに元いたところに戻ってしまうのかな。


「あ、そういえば母上にもきょひされたことがあるかも」


 私は独り言のように呟く。

 あれは以前、私が王都にお使いに行った時のことだ。王都に着く前にハイリリスの妖精に襲われて、助けを求めて母上のところに移動術で飛ぼうとしたことがあった。

 しかし母上はその時、スノウレア山でハイリリスと戦っている最中だった。だから自分の元へ来たら私が戦いに巻き込まれて危ないと考えて、拒んだのだ。


「あれもそうだったのかー」


 結局その時も母上のところに飛べなかったもんな。そういうこともできるなんて初めて知った。

 私も何か……自分で掘った穴にはまってしまったとか、そういう恥ずかしい場面で誰かが飛んでこようとしたら拒否してみようかな。

 私がそんなことを考えていると、まだ決まり悪そうにしているクガルグが提案してきた。


「ミルフィー、ノッテたちのところにでも行く?」


 普段はあまり自分から誰かのところへ行こうとか言わないのに珍しい。きっとノッテたちに意識を向けさせて自分の失敗を忘れてほしいんだろう。

 そういう別の意図があるのには気づいたが、提案は魅力的なものだったので私は頷いた。


「うん、行こう! ヒルグパパも行く?」

「いや、私はやめておこう。あの双子には少し怖がられているようだからな!」


 ヒルグパパは明るく笑って言う。

 ノッテとルーチェは光の精霊サンナルシスと闇の精霊ルナベラの子供だ。二人はまだ生まれて三か月ほどしか経っておらず幼いので、親以外の大人の精霊には人見知りしがちだ。

 穏やかなウッドバウムには早々に慣れたけど、ヒルグパパのように声が大きく力強い感じの精霊にはまだちょっと距離を取ってしまうみたい。ヒルグパパの動物の姿が大きな豹というせいもあるかもしれない。

 だけどヒルグパパも優しいから、そのうち慣れると思うけどね。


「じゃあ行ってくる」


 私が移動術を使って、クガルグと二人でサンナルシスのところに飛ぶ。目標にするのはノッテでもルーチェでもルナベラでも良かったけど、明るく派手なサンナルシスが一番気配を掴みやすい感じがするのだ。

 そうして着いたところは、広い原っぱだった。この辺りも季節は冬なのか肌寒いが、雪は積もっていない。


「ミルフィリアにクガルグか」


 相変わらず王族みたいに豪華で目立つ恰好をしている人間の姿のサンナルシスは、やって来た私たちを見下ろしてホッとしたように言う。


「助かった。双子の遊びに付き合わされていてな、体力の限界だ。私の代わりに遊んでやってくれ」


 よく見ると、サンナルシスの肩には深い紫色の毛皮の子猫がへばりついていた。闇の精霊の子のノッテだ。

 そして光の精霊の子であるルーチェは、私やクガルグが来たことに気づくと、原っぱの向こうから急いでこちらに駆けて来た。

 ルーチェは金色の子馬で、くるんとカールしたたてがみが可愛い女の子だ。

 双子はまだ人間の姿になれないので、いつも動物の姿でいる。


「ミルフィリアちゃん、クガルグくん、来てくれてありがとう」


 闇の精霊であるルナベラは、人の姿で原っぱに座り込んでいた。どうやらルナベラも双子の遊び相手になっていたらしいが、体力が尽きて休んでいたようだ。


「ぜひこの子たちと遊んであげてください。本当にお願いします」


 走り回ったのか汗をかいているルナベラの様子や口調から、双子育児の大変さを垣間見た私は、喜んで頷いた。


「まかせて! さぁ、ノッテ、ルーチェ、あそぼう!」

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