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北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第六部・かぞくのひ

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家族の日

 お昼時、いつものように砦に来ていた私は、まだ仕事中の隻眼の騎士と別れて一人で敷地内を駆け回っていた。砦の建物の周りを、除雪されている道を選んで走るのだ。

 雪は人間の膝上くらいまで積もっているので、除雪されているところは、私にとっては雪の壁に挟まれた道みたいになっていてわくわくする。

 砦の周りをただグルグルと周回しているだけでもレースごっこみたいで面白く、私が冬によくやる遊びの一つなのだが、今日は少し趣向を変えてみようかと思う。


 除雪された道は時々枝分かれしているから、周回するのはやめて、気分で進む方向を決めるのだ。そして方角からしてこっちは馬小屋に続いてるんだろうなと予想できて、実際に馬小屋に辿り着いたとしても、「ここにつながってたのかぁ!」って驚く遊びだ。

 気分は迷宮を探索する冒険家。


「こっちは食りょう庫だったー! すごいー」


 右に行ったらまさか食料庫に道が繋がっているとは思わなかったなぁ……。

 いや、思ったけど。このまま進めば食料庫だなとは思ったけど。それはあえて言わずに驚くのがこの遊びだから。


 冷静な自分を黙らせつつ、遊びを続ける。

 そうして次は砦の正門へと続く道を進み、やっぱり正門に辿り着いたわけだが、冒険家気分の私はしっぽを高く持ち上げて喜ぶ。


「わぁ! 門にたどりついたー!」

「? そりゃそうだろう」


 門には門番のアニキがいて、私に静かに突っ込んだ。


「そういうあそびなの!」


 冒険中という設定だったのに、雰囲気を壊されてプリプリ怒る私。


「いつも楽しそうでいいな」


 門番のアニキはフッと笑う。

 ん? その『楽しそう』っていう言葉には、実は『能天気』っていう意味が隠れてる? それとも本当に純粋に『楽しそう』だと思ったの?

 サンナルシスによく、褒められてるのかけなされてるのか分からない『平和な顔』という言葉を言われるせいで被害妄想が激しくなっている私。

 まぁ自分でも能天気な自覚があるから反応しちゃうんだよね。


 私がそんなどうでもいいことを考えているうちに、門番のアニキは手で雪をすくい上げ、雪玉を作って「ほら、ミル!」と言いながら私の方に放った。

 門番の仕事は結構暇らしく、アニキが門番をやっている時は、こうやって雪玉を投げて遊んでくれるのだ。


 ゆっくり飛んでくる山なりのボールを口でキャッチしようとするのだが、いつも失敗する。口を目一杯開けて待機しているのにおでこに当たったりだとか、ジャンピングキャッチしようと跳んでみたらやっぱりおでこに当たったりだとか。とにかくおでこにばかり当たっている。


「次こそ!」


 やる気をみなぎらせて次の雪玉を待つが、やはりそれもおでこに当たった。こんなに大きく口を開けているのに、どうしてキャッチできないの?


「目をつぶってっ、雪玉を、見ていないから……っ」


 大口を開けた甲斐なく、むなしくおでこで雪玉を受け止め続ける私の姿がツボに入ったらしく、門番のアニキは苦しそうに笑って言う。

 雪玉がこっちに飛んでくると、つい目をつぶっちゃうんだよね。


「わかった。次はちゃんとみる」


 カッと目を見開いて勇ましく言うと、門番のアニキは笑いをこらえながら雪玉を投げた。

 私は途中までは必死で雪玉を目で追ったけど、迫ってくるとやっぱり怖くなって目をつぶってしまい、案の定雪玉はボスッと音を立てておでこに当たる。


「……くッ」


 門番のアニキは笑いをこらえて苦しそうだ。別に思い切り笑ってくれても構わないけど?

 そうやって私が門番のアニキを苦しめていると、コルビ村の方から人影がこちらに近づいてきた。


「だれか来たよ」


 ツボにはまっているアニキに伝える。馬の手綱を引いている砦の騎士たちが二人と、コルビ村の人っぽいおじいさんが一人いる。

 そのおじいさんがコルビ村の人じゃなかったら困るので、私はとっさに門番のアニキの陰に隠れた。でもやはりおじいさんはコルビ村の住民だったようで、アニキは私に「姿を見せても大丈夫だ」と言う。


「戻りましたー」

「ご苦労さん」


 騎士たちとおじいさんを中に入れるため、アニキは門を開ける。騎士二人がそれぞれ引いている馬たちは、何やらたくさん荷物を積んでいた。


「お、ミルだ」

「おや、雪の精霊の御子様」


 騎士もおじいさんも、アニキの足元でちょろちょろしている私に気づいて表情を緩める。

 門番のアニキは、おじいさんを食堂へ案内するよう馬を引いている騎士たちに伝え、三人はそちらに歩いていった。

 おじいさんは何の用事で砦に来たのかな、と私が疑問に思っていたところで、仕事を終えた隻眼の騎士が私を迎えに来てくれた。


「せきがんのきし。ねぇ、あのおじいさんどうしたの?」

「ああ、コルビ村の……。今日は俺たちに物を売りに来てくれたんだ」

「物をうりに?」

「星祭りの時に、村外から来た観光客に売っていたような物さ。手袋や帽子、マフラー、靴下なんかの防寒具や、夏にたくさんつくっておいたジャム。あとはジャガイモとか、この辺りでよく取れる日持ちする農産物」


 確かに星祭りの時にコルビ村の人たちは色々な物を売っていたけど、それを今になって北の砦の騎士たちにもう一度売るのはなんでだろう?

 それに手袋とかは分かるけど、ジャムやジャガイモってわざわざ買わなくても、砦の食料庫にもたくさんあると思うけど。


 疑問に思いながら、私は門番のアニキと別れ、隻眼の騎士と一緒に食堂へ向かう。先に食堂へ向かっていたおじいさんと騎士たちは、馬に積んでいた荷物を下ろして中に運んでいる最中だった。


「もうすぐ『家族の日』という祝日があってな」


 隻眼の騎士も荷物を運び入れる手伝いをしながら、私に説明してくれる。


「その『家族の日』というのは家族に感謝する日で、独立して仕事をしていてもその日は休みを取って実家に帰るという者も多い。だが、騎士は祝日だからといってみんなで仕事を休むわけにはいかない。だから代わりに、『家族の日』には贈り物を贈るんだ。家族に感謝を込めてな」


 どうも『家族の日』というのは、日本で言う『父の日』『母の日』『敬老の日』を全部合わせたような日のことみたい。去年はそんな日があることに気づかなかったけど、素敵な祝日だ。

 隻眼の騎士は説明を続ける。


「それで騎士たちが贈り物を買う機会を作るために、コルビ村で作っている物を売ってもらうんだ。大きな街まで買い物に行っている時間は騎士たちにはなかなかないし、この土地で作られている物を贈った方が家族も喜ぶだろうからな」


 食堂の一角に大きな布を広げると、おじいさんや隻眼の騎士たちはそこに品物を並べていった。

 手作りの手袋や靴下は落ち着いた優しい色合いのものばかりで、とても暖かそうだった。雪の精霊である私には必要のない物だけど、人間はこういうの貰ったら嬉しいだろうな。ジャムもたくさん種類があるし、どれも美味しそう。

 準備ができると、昼の休憩に入った騎士たちが食堂にやってきて、それぞれ品物を選んで買っていく。

「お袋には何がいいかな」なんて、家族のことを考えて贈り物を選んでいる騎士たちの顔は穏やかだ。


(なんかいいなー!)


 私も何かしたいなぁ。父上と母上と、それに北の砦の騎士たちも家族のようなものだし、いつもお世話してくれてるみんなに何かできたらいいな。


(うーん、何をしよう)

 私はみんなに秘密で計画を立て始めたのだった。


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