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北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第五部・はじめての かぞくりょこう

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夢の中

感想などいつもありがとうございます!!!


今日は『北の砦にて』コミカライズの方も、がうがうモンスターで更新されてます。


 クガルグとお祭りに行くことが決まり、わくわくしながら眠りについたその日の夜。

 私は不思議な夢を見た。


 夢の中で、私はちらほらと花が咲いている原っぱに座っていた。

 だけど今の私は子ギツネじゃない。学生服に身を包んだ、人間の体だった。


「これ……前世の私……?」


 顔は自分では確認できないけど、こういう紺色の制服を前世で着ていた気がする。

 そして前を見れば、子ギツネの私と、幼女姿の精霊の私もいた。


「三人に分かれてる……」


 状況がよく分からず、私は戸惑いながら呟く。

 子ギツネの私はいつもより野性的で好奇心旺盛、楽しげに原っぱを駆け回ってちっともじっとしていない。

 そして精霊の私は、幼いながら少し冷たい雰囲気で、可愛いけれど無表情だ。人間の常識とか分かっていない人外感がちょっとある。

 一方人間の私は、いつもより頭の中が落ち着いていると言うか、ちゃんと人間らしい理性を取り戻した感じがする。


「おーい、私!」


 取りあえず、一番しっかりしているであろう人間の私が、子ギツネの私と精霊の私に声をかけてみた。


「集合!」


 おいでおいでと手を動かすと、子ギツネはハフハフと駆け寄ってきた。精霊の私も表情は変えないまま、トコトコとこちらにやってくる。


「私たち、どうして分かれちゃったんだろうね? 何か知ってる?」


 尋ねてみるが、二人はふるふると首を横に振る。


「ぎゅってしたら元に戻らないかな」


 子ギツネの私と精霊の私をぎゅっと抱きしめてみたが、こんな方法では元には戻らなかった。


「困ったね。夢から覚めてもこのままだったら、母上やみんなが心配する」


 私は不安だったが、子ギツネの私はのんきな顔をして後ろ脚で頭を掻いているし、精霊の私もどうでもよさそうにしながら、人間の私の膝の上にちょこんと座ってくる。


「自由だね、君たち」


 困り果てる私。

 するとそこで、子ギツネの私が精霊の私にちょっかいを出し始めた。精霊の私の白い脚を、エアガブガブで噛むふりをしたかと思うと、はしゃいでサッと逃げるのだ。しかもそれを何度か繰り返す。


「やめて」


 精霊の私はそれをうっとうしく思ったらしく、可愛らしい声で拒否したが、空気の読めない子ギツネの私はそれくらいではやめなかった。

 むしろ構ってもらえたと思って、しっぽを振りながら精霊の私の着物の袖を噛んで引っ張り始める。


「こら、やめなさい」


 人間の私は子ギツネの私を止めようとしたが、それより早く精霊の私が怒り出してしまう。

 彼女の周囲に吹雪が巻き起こったのだ。


「えぇー!? すごい! もう吹雪出せるの?」


 私は驚いて言う。純粋な精霊の私は、力のコントロールが上手いみたい。

 吹雪は母上が巻き起こすものと比べると随分小さく弱かったけど、子ギツネの私は雪と風に襲われ、目をつぶり、耳を伏せて耐えている。


「もうやめておこう、ね?」


 人間の私は、今度は精霊の私を止めに入る。精霊の私は頬を膨らませて不機嫌さをあらわにしながらも、素直に吹雪は止めた。

 すると今度はまた子ギツネの私が、文句を言うようにきゃんきゃん吠え始める。


「きゃん! きゃん!」

「そっちが、そでを引っぱるから!」

「きゃん!」

「やめなって、二人とも」


 子ギツネと幼女のケンカは可愛いものだったが、ずっとこのままだと疲れるな……と、人間の私が思った時だった。


 原っぱの向こうから、誰かが近づいてくるのに気づく。

 その人は淡い金髪の青年で、飾り気のない白い服を着て、頭にターバンを巻いている。


(あれ? この人……)


 私は彼に見覚えがあった。隻眼の騎士やクガルグと一緒にコルビ村の神殿に行った時に出会った、不思議な青年だ。


「こんにちは」

「こ、こんにちは……」


 朗らかな笑顔を浮かべて挨拶してくる青年に、私も挨拶を返す。青年の瞳は以前会った時と同じく、瞬きするたびころころ色が変わっている。


「この前――と言ってももう数ヶ月経つかな? コルビ村の神殿で会ったのを覚えていますか?」

「もちろん」


 私が頷くと、青年も満足そうに頷き返した。そして今度は申し訳なさそうな顔をして言う。


「実はあの時、気づいたんです。君の前世の記憶が消えていないって」

「え?」

「どうやら消すのを忘れていたみたいで……。ごめんね、道理で人懐っこい精霊だと思いました。すごく混乱したでしょう? ついうっかりしていて……」

「え? ん?」


 現在進行形で混乱している私。

 って言うか、子ギツネの私が青年のズボンの裾を噛んで遊んでいる。やめなさい、私!

 一方、精霊の私も青年のことをじっと見つめている。子ギツネの私も、精霊の私も、この優しそうな青年に興味があるみたい。

 私は戸惑いつつも、取りあえず返事をする。


「記憶のことについては……そんなに混乱してなかったから大丈夫ですよ」 


 そして子ギツネの私と精霊の私を順番に見て、続けた。


「私、子ギツネの私とも、精霊の私とも上手くやってますし、三人で私だから。それに今さら人間の私がいなくなると……どうなっちゃうのか怖いし」


 この二人だけに『私』を任せるのは不安だ。子ギツネの私はやんちゃだし、精霊の私はあまり愛想がないし、この二人だけだと人間関係が上手く行かなくなる気がする。砦の騎士とも精霊たちとも仲良くなって、せっかく今世でもたくさん友達ができたというのに。

 すると青年は、自分のズボンの裾をボロボロにしようとしている子ギツネをほほ笑ましく見つめながら言う。


「そうですか。ではそのままにしておきましょうか。人間の部分は消してあげた方がいいかと思って来たのですが」

「いやいや、やめてください。人間の私がいなくなったら、人懐っこさとか人間ぽさがなくなって、別人になっちゃう気がするので。そうしたら隻眼の騎士とか支団長さんとか、母上とか父上とか、周りのみんなが悲しむので」

「分かりました。私のうっかりミスなので、黙って記憶消しちゃおうかなと思ったりもしましたが、一応聞いておいてよかったです」

「いや、怖いな!」


 思わずビシッと突っ込んだ後、安堵の息を漏らしながら続ける。


「ちゃんと尋ねてくれてよかったです」

「ごめんね、本当に」


 青年はもう一度謝ると、「それじゃあ、またね」と言ってその場からすうっと消えてしまった。

 夢の中だから何でも有りなの? 


「いや。って言うか……」


 結局、あの人誰なの?

 


「だれ、なの……?」


 私はそう呟きながら夢から覚めた。眠る前と同じく、私は住処の寝床の上にいて、いつも通りの子ギツネの姿だ。三人に分かれているということもなかったのでホッとした。

 隣にはキツネ姿の母上もいる。外は明るくなっていたので、もう朝なのだろう。


「母上? おはよう」

「起きたか、ミルフィリア」


 すでに起きていた母上は、体は洞窟の入り口を向いているのに、顔だけ振り返って後ろを見ていた。私が起きるとチラリとこちらを見たものの、また後ろをじっと見つめる。ちょっと迷惑そうな顔で。

 そして視線はそのまま、私に言う。


「起きるのを待っておったのじゃ。それをどうにかしておくれ」

「それ? なに?」


 私も振り返って背後を見る。

 すると私たちのすぐ後ろに、巨大な蛇の父上の顔がどーんとあった。


「わぁ! びっくりした!」


 洞窟は私にとっては広いけど、大蛇の父上にとっては狭いので、父上は洞窟にみっちり詰まっていた。 

 顔の脇から尾の部分が出ているので、二つに体を折りたたんだ状態で詰まってしまっているのだろう。

 しかし父上は自分が穴に詰まっていることなど気にせず、すやすやと眠っていたのだった。

 

 



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