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北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第五部・はじめての かぞくりょこう

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こわい精霊

第5部、開始します!

そして12月15日に双葉社様から続巻が発売予定です!(内容は第5部ですが、巻数表示は2巻となっておりますのでお間違えのないよう…)

読者の皆様、いつもありがとうございます!

第5部もよろしくおねがい致します。


 季節は秋。十一月。私が住んでいるこの地方では、平地でもすでに冬の気配を感じる気候になってきた。


「もうすぐ冬だね、母上! たのしみだね!」


 私は住処の洞窟の中で仰向けに転がり、左右にコロコロ揺れながら、隣にいるキツネ姿の母上に話しかけた。

 母上はコロコロしている私を眺めつつ返す。


「まぁ楽しみと言えば楽しみじゃが……。しかしこのスノウレア山ではわらわが一年中雪を降らせておるわけじゃから、冬が来たところであまり変わらぬと思うが」


 確かに住処があるスノウレア山の頂上付近は、常に雪景色が広がっている。だけど私の行動範囲はスノウレア山だけじゃない。北の砦にも毎日行ってるし、父上の住処の湖とかにも遊びに行くから、夏の暑さも体感していて、やっぱり雪の季節が恋しいのだ。

 これから冬が来て、平地にも雪がわんさか降ると思うとわくわくしちゃう。


「ことしも雪がいっぱいふるといいなー。あ、でもあんまりたくさんだと、人間のみんなはいやになっちゃうかな」


 私は砦の騎士たちや、スノウレア山の麓にあるコルビ村の人々の姿を思い浮かべた。


「じゃあ雪はちょっとでいいかも。……でもやっぱりわたしはたくさんふってほしい。うーん……」


 唸りながらコロコロ揺れていると、母上が呆れたように言う。


「そなたが悩んだところで、今年も雪は山ほど降るのじゃから」

「だって、砦のみんなやコルビ村のみんなが雪がいやになっちゃったら、かなしいから」

「そんなことを気にするなど、そなたは本当に変わっておるの」


 私に向かってそう言った後、母上は「さて」と呟きながら立ち上がった。


「そろそろ見回りの時間じゃ。ミルフィリアも暇ならついて来るがよい」

「うん!」


 母上の日課は、スノウレア山やそれに連なる他の山々のパトロールなのだ。人間が勝手に山を荒らしていないかとか、動物たちは仲良くやっているかとか、スノウレア山一帯に異変がないかチェックしている。

 私は洞窟を出ていく母上を追って外に出ると、雪の上をわふわふと走った。この辺り――スノウレア山の頂上付近――では、今日も雪がチラチラと舞い落ちてきている。


「きょうはどこをパトロールするの?」

「そうじゃな。奥の方までこう」


 奥というのは、砦やコルビ村がある方とは逆方向のことだ。私も砦やコルビ村がある方にはよく下りていくんだけど、反対側にはあまり行かない。母上はスノウレア山のことは隅から隅までよく知っていると思うけど、私はまだ踏み入ったことのない場所も多くあるのだ。

 そうしてスノウレア山の奥へ行き、私と母上は少しずつ山を下った。


「ここらの斜面は急じゃからな、気をつけるのじゃぞ。一度転ぶと勢いがついて、自力では止まれなく――」

「わ、ぷッ!?」


 母上が注意を促している途中で、私はすでに雪に足を取られて転んでいた。そして案の定自分では止まれなくなり、雪の斜面をコロコロ転がっていく。

 今日はよくコロコロする日だ……なんて悠長に言っている余裕もなく、私は転がりながら目を回していた。しかも積もったばかりの真新しい雪が私の毛皮にどんどんついて、雪だるまを作る要領で、私を核にした雪玉が作り上げられている。


「は、ははうえぇぇ!」


 雪玉の中でぐるぐると目を回しながら叫ぶ。

 すると母上は疾風のごとく斜面を駆けて私を追い越し、どうやら体で受け止めてくれたようだった。母上にぶつかって私は止まり、同時に体を囲んでいた雪も崩れる。


「し、しぬかと思った」


 私は崩れた雪玉からハフハフと息も絶え絶えに這い出て、母上の脚にぴったりとくっついた。


「びっくりした。こわかった……」


 ちょっと転んだだけなのに、こんなことになるとは。私はしっぽを丸めて体を小さくし、震える。

 すると母上は私の頭を優しく舐めて、毛皮に残った雪を取りながらこう言う。


「人里に続くあちら側は比較的なだらかじゃが、こちら側は険しい場所も多いのじゃ。ミルフィリアはまだ一人では来ぬ方がよいかもしれぬの」

「うん、そうする」


 それから私は母上の背中に乗せてもらって、安全にパトロールを行ったのだった。

 



「けっこう下まで来たね」


 パトロールを続けていた私と母上は、やがて麓近くまでやってきた。砦がある方の麓には祭壇もあるけど、こちら側の麓にはひたすら針葉樹林が広がっている。


「そうじゃな。そろそろ戻るか」


 そうして母上が山を登ろうとしたところで、ふとあるものが私の視界に入った。


「あれ、なに?」


 針葉樹林の森の奥に、縦に真っ二つに裂けて倒れている木があったのだ。


「どうしてあんなふうになったんだろう?」


 人間の仕業ではないと思うし、母上もあんなことしない。雪の重さで倒れた感じでもなかった。


「ん? あれか……」


 母上はそちらに向かって歩いて行きながら記憶を探り、思い出したように言う。


「ああ、そうじゃ。これはライザードにやられたのじゃ」

「ライザード?」

「この辺りの木は、全てそうじゃ」


 母上と一緒に周囲を見回してみると、この辺りには真っ二つに裂けた木以外にも、幹の一部が剥がれていたり、幹ごとごっそりと枝がなくなっていたりと、破壊された木が多くあった。

 しかしその破壊された木の上からツタが這っていたり、枝が折れた部分から新たな細い枝が生えていたりするので、ここの木々がこんなふうに破壊されたのは随分昔のことのようだ。

 母上は静かに言う。


「ライザードは、まだ若い雷の精霊じゃ」

「かみなりの?」


 新たな精霊の登場に、私は母上の背中に乗ったまま耳をピクリと動かす。

 私が会ったことのない精霊は、あとは雷の精霊と花の精霊だけなのだ。


 だけど細かく言えばウッドバウムのお父さんにもまだ会ったことないし、ヒルグパパとかダフィネさんの親もまだ生きているかもしれない。

 そう考えると、もしかして母上のお母さん、つまり私のおばあちゃんも生きていたりする……?

 しかしそこで母上は雷の精霊との過去の出来事を話し出したので、私は一旦そちらに集中することにした。


「あれは三十年ほど前になるかの。今と同じように、わらわが見回りでこの辺りにやってきた時のことじゃ。初対面のライザードがいきなり姿を現して、わらわを攻撃してきおったのじゃ」

「えぇ!?」


 私は怯えてしっぽを震わせる。母上は少し首を傾げて続けた。


「……いや、攻撃とは少し違うか。ライザードはわらわを倒したかったのではなく、わらわに自分の力を見せつけたかったのじゃろう。この辺りに雷をいくつも落とすと、突然のことにあっけに取られているわらわの顔を見て、満足して帰っていきおった」


 雷の精霊は母上に攻撃を当てる気はなかったのか、母上に怪我はなかったらしい。


「そうなんだ……」


 いきなり雷を落としてくるなんて何だか乱暴な精霊だ。

 私は耳をへにゃりと伏せて言う。


「ちょっとこわい精霊だね」

「次に奴が来おったら、わらわが返り討ちにしてやるわ。……いや、そう言えば三十年前にやられた分をやり返しておらなんだな。今から行って昔の恨みを晴らしてやろうか」

「だめだめ! ケンカしないで! だいたい、うらみって、母上は今の今までライザードにこうげきされたこと忘れてたじゃん!」


 絶対どうでもよかったんじゃん! と私が止めると、母上は「まぁ、そうじゃの」とほほ笑んで、何事もなかったかのように洞窟へと戻った。ケンカっ早い母上だけど、まだ若いらしいライザードのことはあんまり相手にしていないみたい。

 そう言えば、同じく若い風の精霊ハイリリスと戦った時も、母上は意外と冷静だったもんね。


 

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