ミルの脳内絵日記 夏1
石造りの砦の中はわりと涼しいけど、真夏にはやっぱり暑いなと思う時もある。
だけど何も言っていないのに、私が「暑いかも」と思った時は隻眼の騎士がすぐに気付いて、涼しい雪室に入れてくれたり、冷たい水で絞ったタオルを持ってきてくれたりする。
どうして私が暑がっているって分かるのか尋ねたら、舌が出て息が荒くなっているから、見たらすぐに分かるんだって。
そんなに分かりやすいかなぁ?
父上と一緒に、私が作った苺ジャムを食べる。
ジャムはスコーンに乗せて、父上の口に放り込んだ。
父上はジャムが気に入ったみたいで、結局、一ビン全部食べちゃった。
ルナベラは頭のベールを取り去り、代わりにサンナルシスからプレゼントされたらしい金色のバラの髪飾りをつけている。
金ぴかの薔薇……。サンナルシス趣味悪……いやいや、ルナベラのゴシックなドレスには似合ってるし、何より彼女が嬉しそうだからいいのだ。
気分よく散歩していたら、レッカさんに呼び止められた。
何かと思えば、私のしっぽにてんとう虫が三匹もくっついていたらしい。やだー。
どこかの草むらを通った時についちゃったのかな。
たぶんてんとう虫の方も逃げたかっただろうけど、私のしっぽがもふもふ過ぎて逃げられなかったみたい。
夏になると、しっぽの中で小さな虫が遭難していること、たまにあるんだよね。
暑い時はね、日陰の地面に穴を掘ってお腹をくっつけるといいよ。
掘ると中はひんやり冷たい場合が多いからね。それに頭や手足を冷やすより、お腹を冷やした方が早く体温が下がって気持ちいい気がするから。
でも気をつけてね。土で手やお腹が汚れると、隻眼の騎士にお風呂で洗われちゃうからね!
洗われた……。
ティーナさん、これやっぱり父上じゃないよ。
見れば見るほど父上じゃないよ。
父上ぬいぐるみを住処に持って帰り、洞窟の奥に置いておいたら、暗がりでぼんやり光る蛍光ピンクのぬいぐるみに、母上が「何じゃこれは!」と毛を逆立てて警戒していた。
騎士たちの訓練を見守る私に直射日光が当たらないよう、隻眼の騎士たちがちょっとした小屋を作ってくれた。箱の部分はワインのビンが入っていたものを再利用し、そこに木材で柱をつけて適当な布を天井にかけていたんだけど、支団長さんがこっそりと布をフリフリの可愛いものに交換して行った。
下は空のワイン箱だと言うのに、上はお姫様の天蓋付きベッドみたいでちぐはぐだ。
今日は特に暑いなぁ。暑さに全てのやる気を奪われる。
この木陰から動きたくないし、もう何もしたくない。
蝉が落ちているので前に進めない。あれは死んでるのか生きているのかどっちかな?
でもたぶん死んでいるに違いない。裏返ったまま動く気配ないし……。
よし、勇気を出して行ってみよう。
ぎゃーっ! まだ生きてた!
裏返ったままこっち来たッ!
その後、『蝉の脚が閉じていると死んでいる。脚が開いていると生きている』とキックスに教えてもらった。
脚を見て生きているかどうかを見分けるらしい。キックスにしては有益な情報をくれたので、ちょっと見直す。
・ミルの苺ジャム作りの話は書籍に載るので、絵日記ではさらっと流しておきます。




