愛の告白
自分のことを暗くて弱いと言うルナベラに、母上は怒ったように言う。
「全く。『私は弱いから』などとそなたに言われると嫌みのように聞こえるな」
「え?」
ルナベラは困惑して母上を見る。
母上はルナベラを見てはっきり言った。
「そなたは今しがた、その力でわらわたちを眠らせたではないか。そなたは強い」
私もそれに同意して、しっぽを振りながら言う。
「そうだよ。わたしの母上も父上も、とりでの騎士たちもすごく強いのに、ルナベラはみんなをねむらせちゃったんだよ。サンナルシスもねてたし、父上なんて今もぐっすりだよ」
寝息すら立てずに熟睡している父上をちらりと見て言う。周りでガヤガヤ話しているのに、全く気にせず気持ち良さそうに寝てるなぁ。
「あら、そんなことがあったの? ウォートラストが寝ている謎が解けたわ」
ダフィネさんはやっと合点がいったようだ。
そしてルナベラの話を聞いてから頭を抱えていたサンナルシスは、長いため息をついた後、顔を上げてこう言った。
「ルナベラが心配性なのは分かっていたつもりだったが、まさかそんなことまで心配していたとはな」
「呆れましたか……?」
心配そうに言うルナベラを安心させるように、サンナルシスは笑って返す。
「呆れたりしない。気づけなくて悪かったな」
「そんな……」
そこでサンナルシスは改めてルナベラに伝えた。
「ルナベラに似たところがある光の精霊が生まれてきたとしても、私ががっかりするわけないだろう。たとえお前のように引きこもりがちで後ろ向きな考えの子どもだとしても、むしろ私はその子をより愛おしいと思うはずだ。精霊は片方の親の性質だけを受け継いで生まれてくるのに、お前に似ているところがあるなら嬉しいだけだからな。私の後継ぎというより、二人の子という感覚が強く持てる」
サンナルシスはルナベラに近づくと、彼女がずっと被っていた黒いベールを持ち上げた。
「サンナルシス……」
ルナベラの目は猫の時と同じ、黒と紫の綺麗な色だった。肌は白く、綺麗なお人形のような顔立ちだった。
サンナルシスはルナベラと見つめ合って言う。
「私は自分の後継ぎが欲しいのではない。ただ二人の子供が欲しかっただけだ。子供とは、愛の結晶だと聞くから」
サンナルシスの言葉を聞いて、端っこの方でティーナさんが目をキラキラさせて「素敵……」と呟いている。サンナルシスとルナベラが良い感じの雰囲気だから、見ている方も恋愛ドラマを見ているようでワクワクドキドキしてしまうのだろう。分かる~。
サンナルシスは自分の跡継ぎが欲しかったわけではなく、ルナベラとの子供が欲しかったんだな。
『サンナルシスが私と一緒にいてくれたのは、もしかしたら自分の跡継ぎが欲しかったからなのではないでしょうか?』
ルナベラはそんな心配もしていたけれど、それはやっぱり勘違いだったみたい。
「サンナルシスも、ルナベラにあいされてるか不安だったんだね。だから愛のけっしょうである子どもを欲しいと思ったんでしょう?」
私は生温かいほほ笑みをサンナルシスに向けて言う。ルナベラが自分のことをちゃんと愛してくれているのかどうか、他のことではいつも自信満々なサンナルシスも少し不安に思ったりしたんだな。そう思うとちょっと可愛い。
サンナルシスは照れ隠しで私の頭をわしゃわしゃしながら、赤い顔をして答える。
「そうだ、悪いか! ルナベラは自分の気持ちを表に出さないし……いや、そう言えば私も自分の気持ちを言葉で伝えたことはなかったかもしれない。毎日のように会いに行っているのだから、私の気持ちは言わなくても伝わっているだろうと思ってしまっていた」
「二人ともはっきり言わずに、お互いふあんに思ってたんだね」
サンナルシスにわしゃわしゃされた頭をダフィネさんに直してもらいながら、私は続ける。
「だけど本当にサンナルシスが欲しかったのはルナベラとの子なら、にんげんの子どもをつれてきたり、わたしやクガルグを自分の子どもにしようとしたのはどうしてなの? 他人の子どもは、サンナルシスとルナベラの愛のけっしょうじゃないのに」
「それも不安だったからだ」
サンナルシスはルナベラの手を握りながら、私を見て言う。手なんか握っちゃってナチュラルにいちゃついてるな。
「このまま子供ができなければ、ルナベラはいつか私から離れて行ってしまうんじゃないかと思った。ルナベラともっと相性のいい精霊を探しにな。だから血の繋がらない子でもいいから、ルナベラと私を繋ぐものが欲しかったのだ」
「そうだったんだ」
私がふぅんと頷き、ルナベラは「サンナルシス……」と目を潤ませる。
サンナルシスは手を繋いだままルナベラと向き合うと、母上もクガルグもダフィネさんも砦の騎士たちも見ている中、愛の告白をした。
「ルナベラ。私は、お前が自分では短所だと思っているところも含めて、お前のことを愛しているのだ。それにルナベラには長所もたくさんある。慎重な考え方、控えめで心優しいところ、黒く美しい髪と瞳……」
キックスかジルドだろうか、騎士の誰かが「俺たちは何を見せられてんだ」と呟いた。でも、ティーナさんやレッカさん、それに私はドキドキしながら、温かく二人を見守る。
ルナベラは恥ずかしそうにしながらも、ベールを頭の方に上げたまま、サンナルシスを真っすぐ見つめていた。
そしてサンナルシスはこれ以上ないくらい優しい顔をする。
「お前は夜の闇のように、全てを包み込んで癒してくれる。お前の側にいると安心するのだ。――私はルナベラを愛している」
「私もサンナルシスが好きです。愛しています」
ルナベラは即座に答えた。サンナルシスは嬉しそうにしながら続ける。
「これでルナベラが不安に思うことがなくなれば、私たちの間にも子供ができるかもしれない。だが、もし一生子供ができなくても、もうそれでいい。お前も私のことを愛してくれていると分かって、子供がいなくても不安には思わないからな。二人だけでも幸せだ」
「はい、私も同じ気持ちです。もう不安はありませんが、子供ができなかったとしても構いません。その時は、二人でずっと一緒にいればいいんです」
二人はそう言ったけど、ルナベラはきっとすぐに身ごもるだろう。そんな気がした。
しかしちらっと騎士たちを見ると、ティーナさんとレッカさん以外は、口に無理矢理砂糖を詰め込まれたみたいに眉間に皺を寄せていたのだった。空気が甘いよね……。




