表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第四部・ふしぎなじけん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

143/214

光の精霊(2)

いつも感想や誤字報告などありがとうございます!!

ミル愛されてるなぁと思うことが多々……(笑


さて、本日からタイトルが変わって長くなっています。

4巻発売に向けての変更です。

新しいタイトルもよろしくお願い致します。

「どういうつもりです」


 そう言ってサンナルシスを止めたのは、隻眼の騎士だった。


「一体何の目的で」


 隻眼の騎士は私とクガルグを片腕で抱えて、もう片方の手で、こちらに伸ばされていたサンナルシスの手を掴んだ。

 相手はただの人間じゃなく精霊だから、ただ手を掴むと言っても相当な度胸が必要なはず。

 実際、隻眼の騎士は緊張気味だった。でも怯んではいなかった。さすが鉄人。

 けれどサンナルシスは、人間に手を掴まれて眉間に皺を寄せた。


「人間がこの私の邪魔をするとは。無礼者め、この手を離せ」

「ミルたちを連れて行かないと約束してくれなければ、それはできません」


 まさに一触即発。

 隻眼の騎士は、サンナルシスが移動術を使って私たちを攫ってしまうことを心配しているようだった。移動術を使えば一瞬でここからいなくなってしまうし、隻眼の騎士は私たちを追えなくなるから。


 この場が一気に緊迫し、私の鼻は緊張で乾き、反対に肉球は汗で湿る。

 サンナルシスは隻眼の騎士を睨んでいて、隻眼の騎士はサンナルシスの手首を強い力で掴んだまま、相手を真っすぐ見据えている。

 鉄人……怖いもの知らず過ぎる。でも隻眼の騎士なら精霊にも勝てそうな気がしちゃう。


 けど、やっぱり隻眼の騎士を精霊と戦わせちゃ駄目だ。

 サンナルシスが何か攻撃を仕掛けようとしたのか、隻眼の騎士に掴まれていない方の手を持ち上げたところで、私はきゃんきゃん吠えた。


「せきがんのきしに何かしたら、かむからね! こうやって、かんじゃうから!」


 私は目をぎゅっとつぶりながら、サンナルシスに噛みつくふり――エアガブガブをした。目をつぶるのは、例え〝ふり〟でも噛みつく真似をするのがちょっと怖いからだ。

 クガルグも隣でグルルルと唸り声を上げ、サンナルシスを威嚇している。


「ほう。私と戦おうと言うのか? お前たちのような幼子が、精霊の中で最も強いこの光の精霊に」

「せきがんのきしに手を出したらたたかうもん! わたし、吹雪も出せるんだから! サンナルシス、こおっちゃうから!」


 今度は「ふーっ!」と息を吹き出す。すると口から小さな吹雪が出て、サンナルシスの手を掴んでいる隻眼の騎士の手に雪が軽く積もった。


「あ、せきがんのきしの方についちゃった。ごめん」


 首と舌を伸ばして隻眼の騎士の手についた雪を舐めとろうとするが、隻眼の騎士に「ミル、いいから。ちょっとじっとしててくれ」と言われてしまった。

 しかしサンナルシスの戦意を削ぐことはできたらしい。


「真面目に戦う気が失せた」


 サンナルシスが呆れたようにそう言ったところで、隻眼の騎士は手を離した。

 サンナルシスは光を詰め込んだような濃い金色の目でこっちを見て、尋ねてくる。


「お前たち、何故人間と一緒にいる。この人間を随分信頼しているようだが」

「せきがんのきしは、わたしの保護者みたいな人だよ。だい好きなの」


 大好き、と言った後に照れて「うふふ」と笑ってしまう。隻眼の騎士もそんな私を見て嬉しそうに笑い、クガルグは隻眼の騎士にやきもちを焼いてグルグル唸る。


「おい! 私を無視してほのぼのするな」


 サンナルシスはそんなふうに憤慨した後、私を指さして言う。


「クガルグも普通に人間に抱かれている辺りおかしいが、ミルフィリアの方は大分変わっているぞ。お前は本当に精霊なのか?」

「もちろんそうだよ」


 のんきな顔をした私を、サンナルシスが不可解そうに見てくる。まるで謎の生命体を見る目だ。


「まぁ……だが、これくらい平和な性格の方がルナベラには合うかもしれないな」


 そして独り言のようにそう呟くと、こちらに一歩近づいてきた。

 と同時にサンナルシスの体が明るく輝き、私たちは目がくらんでまぶたを開けていられなくなる。


「一緒に来てもらおう」


 サンナルシスの光に呑み込まれたかと思うと、抵抗する間もなく、私たちはこの場から消えていたのだった。




 サンナルシスはどうやら私とクガルグ、隻眼の騎士を連れて移動術を使ったらしい。眩しい光に包まれた数秒後には、私たちはまたもや見知らぬ場所に移動していた。今度は豪華な内装の建物の中だ。

 ここは、どこかのお城……?


「ここはどこ?」

「ジーラントの王城だ」

「じーらんと?」


 サンナルシスの答えに小首を傾げる。

 すると隻眼の騎士がこう教えてくれた。


「ジーラントはアリドラ国の南の隣国だ」

「そうなんだ……」


 アリドラ国からそこまで離れていないと分かって、何となくホッとする。移動術を使って母上のもとに逃げるとしても、あまり距離があるとちゃんと飛べるか不安だから。


 窓からジーラントの大きなお城が見えるので、ここは離宮の一室らしいが、随分広くて豪華だ。と言うか、装飾が派手で目が痛い。白を基調にしているし、金がそこかしこに使われているのでキラキラし過ぎているのだ。それに鏡も多い。

 でもこの部屋だけが派手なようで、窓から見える庭やお城の雰囲気はアリドラ国とそう変わらない。隣国だけあって文化は似ているのだろう。


「このへやは?」


 私はクガルグと一緒に目をパチパチさせながら言う。あそこの金の壺と、その隣の大きな鏡が日光を反射していてめちゃめちゃ眩しい。

 しかしサンナルシスは全然眩しくなさそうな様子で答える。


「私の部屋だ。私の今の住処は、この城なのだ」

「でもここはジーラントの王さまのお城なんでしょ? つまり人間のお城だよね?」

「そうだが、この離宮は私の住処でもある。人間の造った城の美しさを気に入っているし、贅沢な暮らしができるから、自然の中に住処を構えずここにいるのだ。ここには人間の使用人たちもいるし、私の世話を進んでしてくれるしな。それにジーラントの王も喜んで私を受け入れている。まぁ、高貴で美しい光の精霊が自分の城にいてくれるなんて光栄だろうから、当たり前だが」

「つまり、サンナルシスは居候ってことかぁ」

「そういう言い方はやめろ」


 サンナルシスは居候なのにプライドが高いらしく、怒った。

 居候なのに。


「それで、わたしたちをここにつれてきてどうするつもり?」


 隻眼の騎士に抱かれたまま、私はサンナルシスを見つめる。頭の中に浮かんでいた彼に対する疑惑も一緒にぶつけてみる。


「さっき、サンナルシスは金ぱつや黒かみの子どもをさがしているみたいだったけど、まさか……さいきん起こってた〝ふしぎなじけん〟の犯人は、サンナルシスだったの?」


 このところアリドラ国で頻発していた、子供がいなくなってすぐに戻ってくる事件――。

 その犯人は闇の精霊かと思っていたが、サンナルシスの発言からして、彼が関わっているのかもしれない。


「にんげんの子どもを連れていって、すぐに帰したりしてたでしょ?」

「よく知っているな」


 サンナルシスは偉そうな態度のまま、自分が犯人だと認めた。


「確かに何人も子供を連れて行ったが、結局帰した。気に入る子供がいなかったのでな」

「何故そんなことを?」


 隻眼の騎士が聞いたけど、サンナルシスは人間と対等に話をするのが嫌なのか、一瞥だけして答えなかった。


「どうしてアリドラ国で? さっきのばしょもアリドラ国だったの?」


 今度は私が尋ねる。サンナルシスはジーラントに住んでいるのに、どうしてわざわざアリドラ国までやって来て子供を連れて行ったのかと思ったのだ。

 するとサンナルシスはこう答えた。


「ああ、さっきの場所もアリドラ国だ。他国よりもアリドラ国の方が、美しい金髪の人間が多いと感じたからだ。黒髪の綺麗な人間は、他の国にもたくさんいるのだが」


 どうして髪の色にこだわっているんだろう? と私が疑問に思っていると、サンナルシスは私とクガルグを改めて見て続けた。


「だが、もう人間の子供はいい。お前たちを見つけたからな。――ミルフィリアとクガルグは、私の子供になるのだ」

「え?」


 私はびっくりして耳をピンと立てた。クガルグも困惑して眉根を寄せている。

 そんな私たちの反応を気にしていない様子で、サンナルシスは豪華なソファーに座って足を組み、ふんぞり返った。

 そして続ける。


「精霊の中でも一番強く、高貴で、そして美しい光の精霊の子供になれるのだ。嬉しいだろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ