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北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第四部・ふしぎなじけん

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初対面ごっこ

【登場人物を忘れた人のための適当な説明】

・隻眼の騎士、グレイル:別名『鉄人副長』。とても強い。顔は怖いが優しい。ミルに愛され、ミルを愛する片目の騎士。

・キックス:若手の騎士。金髪のお調子者。ミルをからかうのが趣味。

・ジルド:キックスの同期の若手騎士。キックスと仲良し。

・門番のアニキ:隻眼の騎士に雰囲気がちょっと似ている中堅騎士。モテそう。たまたま門番の仕事をしていた時にミルを助けたので、ミルから門番のアニキと呼ばれているが、仕事は門番だけじゃない。

・コワモテ軍団:北の砦の騎士の中でも特にいかつく、顔が怖い軍団。でも優しい。

・ティーナさん:ちょっぴり天然な女性騎士。ミルのためにせっせとぬいぐるみを作るものの、いつも不気味なものが出来上がってしまう。

・レッカさん:第三部で北の砦にやって来た女性騎士。男装の麗人っぽい格好よさ。暗所恐怖症だったがほとんど克服。筋トレが趣味の女版鉄人。

・支団長さん、クロムウェル:氷の支団長と言われている。冷たそうな雰囲気だが実は動物好き。ミルへの愛はほぼ病気。

 さて、恋に憧れる私だが、今はなかなかいい相手が見つからない。

 前世の記憶があるせいでクガルグはお子様に見えてしまうし、あとは私の周りには保護者しかいないから。

 北の砦のみんなだってそう。みんなはお父さんやお兄ちゃんって感じだし、そもそも乙女が憧れる騎士と言うには、全員ちょっといかついんだもんな。


(……そんなみんなに会いに行こうかな)


 いかつい、みんなに。

 北の砦には、毎日お昼前後に遊びに行っている。昼の休憩時間を狙って行っているのだ。お仕事中だと、みんな私にあまり構ってくれないからね。


「母上! とりでに行ってくるね!」

「暗くなる前に帰ってくるのじゃぞ」


 スノウレア山のパトロールに出かけるという母上と別れて、移動術で砦まで飛ぶ。

 移動術を使うのも慣れたもので、隻眼の騎士の姿を思い浮かべると、私のもふもふの体は小さな吹雪に変わって消えた。

 そして一瞬ののち、またもふもふの体が戻ってきて砦に到着していた。隻眼の騎士を目標にして飛んできたので、近くには隻眼の騎士がいるはずだけど……。


(あ、あんなところにいた)


 隻眼の騎士は野外の訓練場にいた。訓練用の剣で部下たちに稽古をつけていたらしく、隻眼の騎士の周りにはキックスやジルドたちが死屍累々って感じで倒れている。隻眼の騎士、つよい。


(というか、隻眼の騎士遠いな)


 私と隻眼の騎士の間には、数十メートルの距離がある。移動術を使うのも慣れたものだと気を抜いたのが悪かったのか、隻眼の騎士からちょっと離れたところに到着してしまったみたい。


「よし、訓練は終わりだ。お前たち、まだまだだな。もっと鍛錬するように」

「うぃ~」


 隻眼の騎士の言葉に、疲れ切っているらしいキックスたちはのっそりと体を起こして応える。


(そう言えば初めてこの砦に来た時も、訓練場で隻眼の騎士がこうやって稽古をつけてた)


 私は緊張しながらそれを観察していたのだ。そう、ちょうどこの砦の陰からこうやって顔を覗かせて。

 過去を思い返しながら、私はその時と同じ行動を取った。息を殺して、じーっと隻眼の騎士を見つめたのだ。

 すると隻眼の騎士も、その時と同じく野性的な勘の鋭さを発揮して突然こちらを振り返った。

 私は思わずサッと物陰に隠れる。


「ミル?」


 そして隻眼の騎士の声が聞こえてきた時には、私はその場から逃げ出していた。


(いいこと思いついた。〝初対面ごっこ〟しよう)


 最近、砦のみんなとの関係がマンネリ化してきていると思っていたのだ。お互いの存在に慣れ切ってしまっていたので、ここらで新鮮さを出すのもいい。

 というわけで、私は雪の積もっていない地面をタッタッと軽快に駆けながら、くだらない遊びに興じることにした。


「ミル、来てたのか。……って、おい?」


 さっそく門番のアニキに出くわしたが、私は慌てて方向転換して逃げ出した。砦の中に入ろう。

 と、逃げた先では相変わらず顔が怖いコワモテ軍団にも出会ったけど、


「おーい」

「何で逃げるんだよ」


 もちろん彼らからも急いで逃げる。コワモテ軍団は優しい人たちだって分かってるけど、初対面の時は本当に怖かったななんて思い出しながら。

 そして次に出くわしたのは、ちょっぴり天然で可愛い女性騎士のティーナさんと、美人でかっこいいレッカさんだ。


「ミルちゃん?」

「ミル様、どうされたのですか?」


 廊下の角から顔を覗かせ、じっと動かない私に対して、二人は首を傾げている。


「ミルちゃん? どうしたの?」


 ティーナさんがもう一度尋ねてくる。私のことを心配してくれている様子だったので、確かに何も言わないままじゃみんなが不安がると思い、小声でそっと意図を伝えた。


「……〝しょたいめんごっこ〟してるの」

「初対面ごっこ?」


 ティーナさんの疑問に、無言でうんうんと頷く。


「まんねり、だから。わたしたち」


 また小声で伝えて、ターッと走って逃げる。


「あ、ミルちゃん!」


 さようならティーナさん、レッカさん。私がこの遊びに飽きたらまた頭を撫でてもらいに行くからね。

 私は再び砦の中を駆け回る。石造りの砦の中は夏でもひんやりしていて、肉球に当たる床も少し冷たい。

 急な階段を駆け上っていき、着いたのは支団長さんの執務室がある階だ。そしてタイミング良く執務室から出てきた支団長さんが、階段を上り終えた私を発見する。


 支団長さんは氷の仮面を被っているかのような冷たい雰囲気を持つ美形騎士だけど、私を見ると表情がゆるゆるになる。


「ミル」


 そして嬉しそうに頬を赤らめてこちらにやって来た。

 しかし私は、私をもふろうと伸ばされた支団長さんの手を避ける。初対面ごっこ続行中だからだ。


「……ミル?」


 支団長さんは避けられたショックで目を見開き、わなわな震え始めた。


「ミル、どうして……」


 悲しむ支団長さんと、初対面のつもりで警戒しながらじっと見つめ返す私。


「ミル?」


 さらに伸ばされてくる支団長さんの手を、じりじりと後ずさりしながら避ける。まさに初対面って感じでいいな。

 しかしいいなと思っているのは私だけで、支団長さんはすでに私を触れない禁断症状が出始めている。

 震えが止まらないし、この短時間で憔悴している。廊下に膝をついて絶望しているのだ。さっきまで元気そうだったのに、このやつれようは何? 急に痩せた? 唐突にクマができてない?

 何だか怖くなってきたし、罪悪感を感じるので、私は早々に初対面ごっこをやめた。


「しだんちょうさん、大丈夫?」

「ミ、ミル……!」


 私が寄って行って支団長さんの脚をカシカシと引っ掻くと、支団長さんはパァァと顔を明るくした。

 絶望していた人が希望を取り戻すとこんな顔になるのか。


「ごめんね、しょたいめんごっこしてたの」

「そんな心臓に悪い遊びはやめてくれ」


 支団長さんにはそう言われたけど、私もまさか支団長さんの心臓に悪影響を与える遊びだとは思わなかったからさ。

 支団長さんは私を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。そして背中をもふもふと撫でてくる。私はされるがまま大人しくしておく。これがキックスなら抵抗するけど、支団長さんは何か……抵抗したら死んじゃいそうだから。繊細な人なのだ。


(初対面ごっこは禁止だな。ちゃんと説明せず逃げちゃったから、後で隻眼の騎士のところにも行こう)


 私はそう考えつつ、支団長さんにもふられ続ける。


「ミルの体は少しひんやりしていて、涼しいな」


 あ、ちょっと! 暑いからってどさくさに紛れて私の体で涼を取るのはやめてよ。


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