ジルドの脳内絵日記 秋2
二話同時更新しています。「秋1」の方を読んでいない方は前ページからどうぞ。
寝ているミルにジャーキーを近づけたら鼻をヒクヒク動かして面白い、という事にキックスが気づいた。
談話室で寝てるからこうやってキックスの餌食になるんだぞ、とミルが起きたら忠告してやろうかと思ったけど、副長の執務室で寝られたらつまらなくなるので、やっぱり黙っておこう。
俺もジャーキーを近づけてみたら、ミルは半分寝たままもしゃもしゃ食べた。
ミルがティーナの作ったぬいぐるみで遊ぶのはいいけど、飽きたり他の事に注意がいくと、ぬいぐるみをその場に残していくのは勘弁してほしい。
砦の薄暗い廊下とかにぽつんと落ちてると、かなりビビるんだけど。
恐る恐るつまんでティーナに正体を訊いたら、小鳥だってさ。俺の知ってる小鳥とは違うけど、ティーナが小鳥だって言うんだから小鳥なんだろう。
端の方で訓練を見学していたミルだったが、つまらなかったのか、いつの間にかきゅっと体を丸めて眠っていた。暖かい季節には決して見られない格好だ。
暑い時は腹を出して仰向けになっているか、だらんと伸びているので、寝相でも季節を感じる事ができる。
もうすっかり冬なんだな。
副長が忙しい時なんかに、時々ミルが副長の上着を盗んで廊下を歩いている姿を見かける。
後をつけて行ってみたら、ミルは談話室に入ってソファーに上着を置き、その上で昼寝を始めた。
副長に相手をしてもらえないから、匂いのついてる上着で我慢しているみたいだ。
俺も上着を盗まれてみたい……。
ミルの昼食の時間、キックスとジェッツと一緒に食堂の床に上着を置いて、ミルは誰のものを持っていくか賭けをした。もちろん三人それぞれ自分に賭けた。
キックスは「俺が一番ミルを可愛がってるから、ミルは俺のを持っていく」って自信満々だったけど、それはない。絶対俺のを持っていく。
けど、実際ミルがやって来たら、俺たち三人で何か悪巧みしてると警戒されたらしくて、ものすごく遠巻きに見られながら上着に近寄りもせずに去っていってしまった。残念。
キックスとジェッツの普段の行いが悪いから。
今日は少し雪が積もった。このくらいの量だとミルの可愛い足跡がはっきり残って、外を歩くたびニヤニヤしてしまう。周りを見たらみんなも下を見てニヤニヤしていて気持ち悪かった。
足跡を追うと、訓練場へ行って走り回ったなとか、調理場の裏口へ寄って料理長に何かねだったなとか、ミルの行動がよく分かる。
厩舎の前では誰かに会って腹でも撫でられたみたいで、ミルが雪の上に寝転がった跡と、人間の足跡が残っていた。
人間の足跡はそれほど大きくなく、歩き方も真っ直ぐで綺麗な気がするから、支団長っぽいな。
支団長は動物好きを隠してるのに、こういう痕跡を残していくから結構詰めが甘い。
ミルは最近、新しい威嚇方法を考え出したようだ。エアガブガブとでも言おうか、本当に咬みつきはしないけど、口を大きく開けて牙を見せ、咬む振りをするのだ。
だけど残念ながら、その威嚇が効いているところを見た事がない。クガルグだって平気な顔をしている。
撫でようとしてるだけなのに警戒されて、ミルに必死でエアガブガブされる俺。
何でだよ!
外で薪を切っていたら、丸太を乗り越えようとしたらしいミルが動けなくなって困っていた。どうやら足が短いので腹がつっかえてしまったらしい。
変な挑戦をせずに避けて行けばよかったのに。
そして助けてほしいなら鳴けばいいのに、動けなくなっている事に気づかれると恥ずかしいという気持ちもあるのか、一言も発する事なく、ただ困った顔をしてこっちを見ていた。
そんな顔で見るなよ。今、助けてやるから。
前足を交差させて優雅に椅子に座っているミル。何そのポーズ。
ふさふさの胸毛と、ちらっと見えてるクガルグから貰ったネックレスと相まって、金持ちのマダム感がすごい。
今日は小春日和で暖かかったんで、昼の休憩中に芝生の上で大の字になって寝ていたら、いつの間にやって来たのかミルが俺の手のひらに頭を乗せて寝ていた。
ええ! 何だよこれ可愛い。
ミルの方から俺にくっついてくるなんてとても珍しいので、この貴重な時間が長く続くようにと、俺はしばらく動く事ができなかった。
ちょっと手が痺れてきたな……。
ミルはやっぱり雪が似合う。
それに雪の中にいると、少し精霊っぽさが出る気がする。ただの子ギツネではない感じがするというか。
だけど、空から降る雪を真面目な顔でじっと見つめているミルを遠くから眺めていたら、何だかそのままミルが雪に溶けて消えていってしまいそうで不安になった。
ミルは今、何を考えてるんだろう?
前言撤回、ミルはただのミルだった。
落ちてくる雪を食おうとしてただけみたいだ。
てか、食うなよ!




