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(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


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第七話:クレーム対応と宣戦布告

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


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「オペレーション・ブラックキャット」の発令は、ホワイトハウスを巨大なIT企業のプロジェクトルームに変えた。NASAの航空力学専門家、シリコンバレーのドローン技術者、そしてアマゾンの物流AI担当者たちが、シチュエーション・ルームで眠ることも忘れて、数万機の「黒猫」を制御するためのシステムを構築している。


俺はオーバル・オフィスで、その進捗報告書を眺めていた。もちろん、内容はチンプンカンプンだ。だが、プロジェクトが具体的に動き出し、専門家たちが難しい顔で議論しているのを見ると、なぜか安心した。そうだ、現場が優秀なら、トップは余計なことをせず、どっしり構えているのが一番だ。日本の大企業では、それでうまくいく。


これで、パラシュートで人を踏み潰すリスクはなくなった。平和的な人道支援だ。誰にも文句は言わせない。俺は、満足感に浸っていた。


「大統領、緊急事態です!」


その平穏は、血相を変えて執務室に飛び込んできたハリソン首席補佐官によって、またしても粉々に砕かれた。


「イスラエルからです! アリエル首相が、我が国の『オペレーション・ブラックキャット』に対し、公式に声明を発表しました!」


ハリソンが、リモコンで壁のスクリーンをつけた。映し出されたのは、エルサレムで記者会見に臨む、怒りに顔を紅潮させたアリエル首相の姿だった。


『……アメリカ政府による、数万機の所属不明機を我が国の防空識別圏に侵入させるという計画は、我が国の主権に対する明白な侵害であり、断じて容認できない!』


アリエルは、拳を振り上げて叫んでいた。

『これは、人道支援の仮面を被った、卑劣な恫喝だ! 我々は、このアメリカの裏切り行為に屈することなく、テロとの戦いを断行する! 地上部隊によるガザ地区への進攻を、これより24時間以内に開始する!』


頭の中で、何かが砕ける音がした。

裏切り? 主権の侵害? 地上侵攻……?

違う。違うんだ。俺はただ、安全に、荷物を届けたかっただけで……。


「……どうして、こうなるんだ」俺の声は、かすれていた。

「閣下……」アシュリーが、震える声で分析を述べる。「アリエル首相にとって、我が国のドローンが、ガザ地区の市民にも『平等に』物資を届けるという行為そのものが、ハマスを正当化し、イスラエルを裏切る行為に見えたようです。彼は、これを我々からの宣戦布告と受け取ったのです」


俺のせいだ。

俺が、良かれと思ってやった、クロネコヤマト方式が、最悪の結果を招いた。パラシュートのリスクを回避したら、今度は地上侵攻のトリガーを引いてしまった。


胃から、酸っぱいものがこみ上げてきた。

プロジェクトが大炎上している。俺が、一番大事な取引先を、完全に怒らせてしまった。

日本の会社で、こんなことをしでかしたらどうなる? 始末書どころじゃない。上司と一緒に、菓子折りを持って、相手の会社にすっ飛んでいって、床に頭をこすりつけて謝るんだ。相手の気が済むまで。


「閣下」ミリー議長が、いつの間にか部屋に入ってきていた。その顔は、昨日よりもさらに険しい。「ご決断を。我々の選択肢は……」


黙認か、非難か、介入か。

もう、そんなものは聞きたくなかった。

プロジェクトを大炎上させた、ダメな管理職。それが、今の俺だ。

炎上したプロジェクトで、まずやるべきことは何か。

言い訳じゃない。次の指示でもない。


謝罪だ。

まずは、関係各所に頭を下げて回る。菓子折りを持って。「この度は、私の不手際で、誠に申し訳ありませんでした」と。


俺は、顔を上げた。その目には、昨日までの怯えとは違う、奇妙な光が宿っていた。腹を括ったサラリーマンの光だ。


「アシュリー」

「は、はい、閣下」

「アリエル首相に、電話を繋いでくれ」


部屋の空気が凍りついた。

「閣下、今ですか?」ハリソンが慌てて割って入る。「何を話されるおつもりで……?国務省が正式な抗議ルートを……」


「いいから、繋ぐんだ」俺は、有無を言わせぬ口調で言った。「これは、俺個人の問題だ。俺が、直接話さなければならない」


何を話すか、だって?

決まっている。


まずは、こう言うんだ。

「もしもし、アリエル首相? ドランプです。いやあ、昨日の件、本当に申し訳なかった。完全に俺の勇み足で。まさか、こんなオオゴトになるとは思ってなくてさ。うん、うん。それで、もしよかったら、今日のところは、一旦、矛を収めてもらえないかな……? 迷惑かけたお詫びは、必ず、するから」


世界の運命を左右するホットラインは、今、一人の日本人サラリーマンによる、必死の「クレーム対応」窓口と化そうとしていた。

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