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(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


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第四十四話:バックアップとアナログ(Backup and Analog)

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


----------


【残り64時間】


PEOCは、墓場になった。

先ほどまでの、活気と熱気に満ちた作戦司令室ではない。死刑執行を待つ、静かで、冷たい、絶望の空間だった。


「……無理だ」

サイバー軍の司令官が、力なく首を振った。「もし、レオ君の言う通りなら、我々にできることは、何もない。奴らのアルゴリズムが、どんなものか分からない以上、ワクチンは作れない。世界中の衛星を、72時間以内に物理的にシャットダウンすることも、不可能だ」


「つまり……」ハリソン首席補佐官の声は、震えていた。「……ただ、待つしかない、と? 我々の文明が、ただのノイズに変わるのを……」


誰も、何も言えなかった。

ミリー議長ですら、その百戦錬磨の顔を、苦渋に歪めていた。

将軍も、スパイも、天才ハッカーも、この、静かなる世界の終わりを前に、あまりに無力だった。


俺は、その光景を、他人事のように眺めていた。

インターネットの死。デジタル文明の崩壊。

正直、スケールが大きすぎて、実感が湧かなかった。


俺の脳裏に浮かんでいたのは、もっと、個人的で、切実な、絶望の記憶だった。

あれは、入社三年目の冬。一大プロジェクトの、最終プレゼンの、前日の夜。俺が、三ヶ月分の血と汗と涙を注ぎ込んだ、パワーポイントの資料。それが、会社のサーバーがクラッシュしたせいで、一瞬にして、消えた。


あの時の、絶望感。

目の前が、真っ白になる、あの感覚。

今、このPEOCを支配している空気は、あの時の、俺の会社のサーバー室の空気と、全く同じだった。


あの時、俺はどうした?

泣き叫び、全てを諦めた。

だが、あの伝説のプログラマー、田中さんは、違った。彼は、青ざめる俺たちの前で、冷静に、こう言ったんだ。


「慌てるな。バックアップはある」


そうだ。

バックアップ。


俺は、おもむろに、手を挙げた。

絶望的な沈黙の中、その音は、やけに大きく響いた。


「……なあ」

俺は、目の前のプロフェッショナルたちに、尋ねた。

「……バックアップは、ないのか?」


「……は?」

アシュリーが、虚ろな目で、俺を見た。


「いや、だからさ。データの、バックアップだよ」俺は、会社でIT担当者に話すように、続けた。「普通、大事なデータは、別のサーバーとか、外付けのハードディスクとかに、コピーを取っておくだろう? それと同じで、インターネット全部の、バックアップとかって、ないのか?」


あまりに、素朴で、ITリテラシーの欠片もない、愚かな質問。

サイバー軍の司令官が、憐れむような目で、俺に説明した。

「……閣下。残念ながら、インターネットは、リアルタイムで動き続ける、巨大な生命体のようなものです。その、全てを、どこかに『バックアップ』することは、物理的に不可能です。そんなことをすれば……」


だが、彼の言葉を遮ったのは、天才ハッカー、レオだった。

彼は、それまで、頭を抱えて唸っていたが、ゆっくりと、顔を上げた。

その目は、俺の、その馬鹿げた質問の、さらに奥深くにある、何かを捉えようとしていた。


「……バックアップ……」

レオは、呟いた。

「……デジタルデータの、バックアップは、ない。だが……」


彼は、俺の顔を、まっすぐに見つめた。

「……もし、奴らの攻撃が、『デジタル言語』そのものに向けられているのなら……。我々が、対抗できる唯一の武器は……」


「『アナログ』だ」


その言葉に、PEOCの全員が、顔を上げた。


「どういうことだ、レオ君!」ミリーが、食いつく。


「奴らのアルゴリズムは、おそらく、完璧だ。論理的で、効率的で、寸分の狂いもない。だから、同じデジタルの土俵で、ロジックで戦っても、勝てない」

レオは、ホワイトボードの前に立つと、マーカーを手に取った。


「だが、どんなに完璧な論理ロジックにも、弱点はある。それは、『理解できないもの』だ。非論理的で、非効率で、矛盾だらけで、無駄だらけの……人間の『感情』そのものだ」


彼は、ホワイトボードに、巨大な地球と、それを取り巻く衛星の絵を描いた。

「奴らが、完璧な『破壊の交響曲』を、衛星から流そうとしているのなら……。我々は、それよりも、さらに巨大な音量の、『ノイズ』を、ぶつけてやればいい」


「ノイズ?」


「そうだ。論理では、到底、解析不可能な、人間の感情の、生のデータ。愛、怒り、悲しみ、喜び、そして、矛盾。その、ぐちゃぐちゃのノイズの奔流で、奴らの、完璧なアルゴリズムを、オーバーフローさせて、誤作動バグらせるんだ!」


「そんな……そんな、ノイズが、どこにあるんだ!?」


レオは、マーカーを置いた。

そして、振り返ると、部屋の隅で、ただ一人、状況が全く理解できずに、きょとんとしている、俺を、指さした。


「あるじゃないか。ここに」

彼の目は、狂気と、天才の光に、輝いていた。


「この、ホワイトハウスで、最も、非論理的で、非効率で、衝動的で、予測不能で、そして、なぜか、奇跡を起こす、最大のノイズ源が」


彼は、PEOCの全員に、そして、世界に向けて、宣言した。


「奴らの攻撃が始まる、その瞬間。我々は、全世界の衛星通信を、ジャックする。そして、流すんだ。ただ一つの、映像を」


「ドランプ大統領による、全世界に向けた、生放送の、アドリブ演説をな!」

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

最新話は本日の20時10分更新予定です。

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