表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/74

第四十一話:ハッカーとホワイトボード (The Hacker and the Whiteboard)

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


----------


PEOCは、深夜のオフィスと化していた。

ドーナツの甘い匂いと、焦げ付くようなコーヒーの香り、そして、サーバーの放熱と男たちの熱気が、司令室の空気を満たしている。


主役は、レオ・シュタイナーだった。

彼は、まるでピアノを弾くかのように、キーボードの上で指を踊らせていた。その目に映っているのは、もはやPEOCの現実ではない。何億、何兆というデータが渦巻く、電子の奔流だ。


メインスクリーンには、彼が見ているサイバー空間の戦場が、抽象的なグラフィックで映し出されていた。青い光の奔流(レオの侵入経路)が、赤い幾何学的な壁(ライブラリアンの防御壁)に挑みかかり、火花を散らしている。


「……見つけた」

レオが、呻くように呟いた。

「奴らのサーバーは、物理的にここにあるわけじゃない。世界中の何千というサーバーに、データを分散させている。だが、その全てを統括する『心臓部』……マザーサーバーが、あるはずだ」


「それは、どこにあるんだ!」ミリー議長が、身を乗り出す。


「今、探してんだよ、黙ってろ」

レオは、一蹴した。


彼の指の動きが、さらに加速する。

スクリーン上では、青い光が、赤い壁の迷宮を、信じがたい速度で突き進んでいく。時折、赤い光の矢(迎撃プログラム)が飛んでくるが、青い光は、それをひらりひらりとかわし、さらに奥深くへと潜っていく。


俺は、その光景を、固唾を飲んで見守っていた。

かつて、俺の会社で、伝説のプログラマーと呼ばれた、田中さんの姿を思い出していた。彼は、いつも、締切前夜になると、こうして、誰も理解できない言語で、機械と対話していた。そして、朝になると、全てのバグを修正し、奇跡を起こしていた。


そうだ。俺にできることは、一つしかない。

現場の担当者が、最高のパフォーマンスを発揮できるよう、環境を整えることだ。


「……アシュリー」

俺は、静かに指示を出した。

「室温は、最適か? 湿度は? 彼が、瞬きをしていないようだが、目薬は用意したかね?」

「は、はい、閣下。ただちに」

「それから、ハリソン君。彼の契約書だが、成功報酬の項目は、もっと手厚くできないか? インセンティブは、重要だぞ」

「か、閣下、今は、それどころでは……」


俺の、完璧な「労務管理」は、誰にも理解されていなかった。


「……ちっ、気づかれたか」

レオが、舌打ちをした。

スクリーン上で、赤い壁が、その形を変え、青い光を飲み込もうと、迫ってきていた。ライブラリアンが、反撃に転じたのだ。


「まずいぞ、レオ君!」ミリーが叫ぶ。「壁が、閉じていく!」


「うるさい!」レオは、叫び返した。「あと……30秒あれば、心臓部に、届く……!」


だが、赤い壁は、非情に、その包囲網を狭めていく。

20秒。10秒。もう、ダメか。


俺は、見ていられなかった。

優秀な部下が、プロジェクトの失敗で、追い詰められている。

こういう時、上司として、何ができる?

そうだ。「視点を、変えさせる」んだ。


俺は、ホワイトボードの前に立つと、マーカーを手に取った。

そして、そこに、レオにも見えるように、大きな文字で、一つの質問を書いた。


【もし、あなたが「お客様ライブラリアン」の立場なら、一番、隠したい情報は何ですか?】


それは、マーケティングの基本だった。

敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。お客様のニーズを、徹底的に考える。


レオの目が、一瞬だけ、そのホワイトボードの文字を捉えた。

そして、彼の動きが、一瞬だけ、止まった。


「……隠したい、情報……?」

彼は、呟いた。

「……そうか。心臓部じゃない……。一番、ヤバい情報は、普通、心臓部(サーバー室)には、置かねえ……」


会社で、一番ヤバい裏帳簿が、金庫ではなく、経理部長の机の、一番下の引き出しに隠されているように。


「……一番、見つかりにくくて、一番、どうでもいい場所……。バックアップ用の、ゴミリサイクル・ビンの中か……!」


レオの指が、再び、爆発的な速度で動き出した。

青い光は、目前の赤い壁から、くるりと反転すると、迷宮の、全く別のルートへと、突き進んでいった。誰もが見落としていた、データの墓場へと。


そして。


【ACCESS GRANTED】


スクリーンの中央に、緑色の文字が、輝いた。

レオは、椅子に、深く、もたれかかった。その額には、玉のような汗が光っていた。


「……どうだ」ミリーが、震える声で尋ねる。「奴らの、正体は……」


「いや……」レオは、首を横に振った。「そこまでは、届かなかった。だが……一つだけ、ファイルを、抜き出すことには、成功した」


彼は、エンターキーを、叩いた。

メインスクリーンに、そのファイルの中身が、映し出される。


それは、一枚の、設計図だった。

何かの、巨大な機械。そして、その横には、一つの、スケジュール表が。


【プロジェクト名: “TOWER OF BABEL”】

【実行日(X-DAY): 72時間後】

【実行場所(TARGET): 全世界、低軌道通信衛星網】


「……バベルの、塔……?」

アシュリーが、呟いた。


「ああ」レオは、言った。「こいつらは、チェスの次に、神様ごっこを、始めるつもりらしい」


PEOCの、短い勝利の歓喜は、一瞬で消え去った。

そして、その場を、新たな、そして、遥かに巨大な、絶望が、支配し始めた。

俺は、もう、何がどうなっても、驚かなかった。

ただ、思った。


(……72時間後。つまり、三日後か。週明け、月曜の朝一に、また、デカい会議が始まるんだな……)


サラリーマンの憂鬱は、世界の終わりよりも、重い。

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

最新話は本日の20時10分更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ