表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/74

第三十七話:専門家(スペシャリスト)

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


----------


『チェックメイトまで、あと7手』


その文字列と、チェス盤の映像が、PEOCのメインスクリーンに、不気味に浮かび上がっていた。

時間は、止まっている。だが、それは、嵐の前の静けさだった。


「……ポーンを、e4へ」ミリー議長が、唸るように言った。「これは、最も古典的なオープニング、『キングズ・ポーン・ゲーム』だ。定石中の、定石……」

「馬鹿な!」CIA長官が、反論する。「相手は、我々の思考を完全に見透かしている。こんな単純な定石に見せかけて、その裏には、必ず、何か罠があるはずだ!」

「これは、政治的なメッセージではないか?」ハリソン首席補佐官が、口を挟む。「白のポーン……西側諸国を象徴している、とか……」


議論は、紛糾していた。

米国の最高頭脳たちが、一つの駒の動きを巡って、地政学的、軍事的、陰謀論的な、あらゆる角度からの分析を試みていた。


だが、俺には、その議論が、全く、一ミリも、理解できなかった。

ポーン? e4? キング?

ダメだ。俺が知っている駒は、将棋の「歩」と「王将」だけだ。それすら、動かし方を、たまに忘れる。


俺は、完全に、蚊帳の外だった。

日本の会社で、エンジニアたちが、俺の知らないプログラミング言語で、システム障害の原因について議論している時と、全く同じ疎外感。あの時、俺はどうした? 分かったようなフリをして、頷き、そして、会議が終わるのを、ひたすら待った。


だが、今は、待てない。

俺は、このチームの、プロジェクトリーダー(大統領)なんだ。

何かしなければ、ならない。


俺は、意を決して、手を挙げた。

「……すまん。ちょっと、いいか?」


全員の視線が、俺に集まる。

彼らは、俺が、この混沌とした議論を収拾する、神のような一言を放つのを、期待している。


「……基本的なことを、確認したいんだが」

俺は、おずおずと、尋ねた。


「……この中に、誰か、チェスが、めちゃくちゃ強いやつは、いるのか?」


シン……。

PEOCは、三度、完全な沈黙に包まれた。


ミリー議長も、ハリソン首席補佐官も、CIA長官も、全員が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、俺を見ていた。

彼らは、戦争と、政治と、諜報のプロフェッショナルだ。だが、ボードゲームのプロではない。


「……いや、閣下」ミリーが、ようやく答えた。「私は、陸軍のチェス大会で、一度、優勝したことはありますが……。その、世界レベルかと問われると……」

「ダメだ、ミリー君」俺は、首を横に振った。「君のレベルでは、話にならん。もっと、こう、専門家スペシャリストが必要だ」


俺の脳内は、完全に、プロジェクトマネージャーのそれに切り替わっていた。

そうだ。自社にない技術やノウハウが必要な時、どうするか。

外部の専門家を、雇う(アウトソーシングする)んだ。


「アシュリー!」

「は、はい!」

「今すぐ、手配してくれ! この国で、一番、チェスが強い人間を、ここに連れてこい! 国籍、年齢、性別、犯罪歴は、問わん! とにかく、最強のやつをだ!」


「……チェスが、一番、強い、人間……で、ありますか?」

アシュリーの、優秀な頭脳が、またしてもフリーズしている。


「そうだ!急げ! これは、コンペだ! 最高のコンサルタントを雇うんだ! 予算は、青天井だ!」


俺の鶴の一声で、PEOCは、再び、奇妙な熱気に包まれた。

FBIは、全米のチェス連盟のデータベースにアクセスを開始。

NSAは、非公式のオンラインチェスサイトのサーバーをハッキングし、レーティング最上位のプレイヤーの身元を洗い出し始めた。


そして、15分後。

アシュリーが、一枚のタブレットを、俺の前に差し出した。


「……閣下。見つかりました」

彼女の声は、困惑と、わずかな興奮に震えていた。

「……現在、アメリカ最強のチェスプレイヤー。グランドマスターの称号を持つ人物です。ですが……少々、問題が」

「なんだ?」

「……彼の名前は、レオ・シュタイナー。年齢は、19歳。マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生ですが、現在、ハッキングの罪で、大学から停学処分を受けています。性格は、極度の人間嫌いで、反体制主義者……」


俺は、そのプロフィール写真を見た。

生意気そうな目で、こちらを睨みつけている、痩せぎすの、青白い顔の青年。


「……完璧だ」

俺は、言った。

「日本の会社でも、一番仕事ができるのは、いつだって、こういうコミュニケーション能力に難のある、ギークなやつなんだ」


俺は、ミリー議長に向き直った。

「ミリー君。海兵隊のヘリを飛ばせ。その、レオ君とやらを、丁重に、ここに『お迎え』するんだ。ああ、それから……」


俺は、付け加えた。

「契約書と、機密保持契約書(NDA)も、忘れるなよ」


こうして、人類の運命を賭けた、壮大なチェスゲームのプレイヤーとして、一人の、社会不適合な天才青年が、選ばれた。

俺は、面倒な仕事を、優秀な外注先に丸投げできたことに、心から、満足していた。

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

最新話は本日の11時10分更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ