第二十五話:ホウレンソウの成果 (The Fruits of Ho-Ren-So)
【免責事項】
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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ウェストバージニアの山奥から、ワシントンD.C.に戻ってきた議員たちの姿は、奇妙なものだった。
彼らの服装は、到着した時と同じ、高級なポロシャツやフリースジャケットだ。しかし、その顔つきは、まるで長期間のサバイバル生活から生還した兵士のように、疲れ果て、そして、どこか達観していた。
ワシントンの政治記者たちは、この謎の「山荘合宿」で何があったのかを嗅ぎつけようと、躍起になっていた。
「マクレーン議員!大統領との間で、一体どんな密約が!?」
「シェルドン議員!政府閉鎖は、回避されるのですか!?」
だが、議員たちは、どちらも固く口を閉ざしたまま、足早に議事堂の中へと消えていく。彼らはただ、記者たちに一瞥をくれ、その目でこう語っているようだった。「お前たちには、俺たちが森で何を見たのか、分かるまい」と。
そして、運命の日がやってきた。
政府閉鎖の期限が迫る中、予算案を審議するための、最後の超党派会議が開かれた。
議事堂の一室。巨大なテーブルを挟んで、共和党と民主党の幹部たちが、ずらりと向かい合って座っている。合宿に参加しなかった、血気盛んな若手議員たちも、今日こそ敵を完膚なきまでに論破してやろうと、息巻いていた。
俺は、その様子を、オーバル・オフィスのスクリーンから、固唾を飲んで見守っていた。頼むぞ、みんな。俺の「ホウ・レン・ソウ」研修の成果を、見せてくれ。
会議は、共和党のマクレーン院内総務の、乾いた咳払いで始まった。
誰もが、彼の口から、いつものように民主党案を「社会主義者の戯言」と罵る、辛辣な言葉が飛び出すのを待っていた。
だが、マクレーンは、言った。
「……始める前に、一つ質問がある」
彼は、目の前の分厚い予算案の書類には目もくれず、向かいに座るシェルドン院内総務を、まっすぐに見た。
「シェルドン。君の孫は、今、リトルリーグのどこでプレーしているんだ?」
シン、と会議室が静まり返った。
若手の議員たちは、何が起きたのか分からず、目を白黒させている。
シェルドンは、一瞬、虚を突かれた顔をしたが、すぐに、その口元に、かすかな笑みを浮かべた。
「……セカンドだ。守備はまあまあだが、バッティングが、いまいちでな」
「ふん。私の孫は、ピッチャーで4番だ。今度、練習試合でもするか?」
「ほざけ。君のところは、ワシントン郊外の、レベルの低いリーグだろう」
二人の会話は、相変わらず、棘があった。
だが、そのやり取りを、合宿に参加した他の長老議員たちは、どこか懐かしむような、穏やかな顔で聞いていた。
やがて、マクレーンは、本題に入った。
「……さて、予算案だが」彼は、言った。「582ページ、第7項。環境保護庁の予算について。我々はこの20%カットを要求しているが……」
彼は、大きく、息を吸った。
「……15%カットで、手を打つ用意がある。ただし、その浮いた5%分が、森林保護と、国立公園の**『熊』**の管理予算に優先的に割り当てられる、という条件付きだ」
その瞬間、合宿に参加した議員たちの間で、どっと笑いが起こった。
何がおかしいのか分からず、きょとんとしている若手議員たち。
そして、シェルドンは、まるで長年のライバルとチェスを指すように、深く頷いて答えた。
「……面白い提案だ、マクレーン。その条件、飲もう。だが、こちらも一つ、条件がある」
「なんだ?」
「その予算を使って、全ての国立公園に、**『報告・連絡・相談』**の重要性を記した看板を設置することだ」
再び、会議室は、大きな笑いに包まれた。
その笑い声は、もはや党派を超えていた。それは、同じ地獄を見てきた者たちだけが分かち合える、共感の笑いだった。
その日の午後。
アメリカの、そして世界のニュース速報が、信じられないニュースを伝えた。
「与野党、予算案の基本合意を発表!政府閉鎖は、土壇場で回避へ!」
「山荘の奇跡」「キャンプファイヤーの精神」と、メディアはこぞって俺の「型破りなリーダーシップ」を称賛した。
俺は、オーバル・オフィスで、そのニュースを見ながら、深く、深く頷いていた。
(よし、よし。ちゃんとホウレンソウが徹底されるようになったな。これで、来週の定例会議は、スムーズに進むだろう)
俺は、一人のプロジェクトマネージャーとして、チームの成長に、ただ静かに満足していた。
そして、今度こそ、静かな週末が過ごせるだろうと、心の底から安堵していた。
もちろん、そんな週末が、訪れるはずもないことを、この時の俺は、まだ知らなかった。
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最新話は本日の11時10分更新予定です。




