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(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


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第十五話:仕様書とハチマキ

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


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日本の外務省、北米局。

局長の柳田は、受話器を握りしめたまま、彫像のように固まっていた。彼の視線の先には、若手官僚の鈴木が、死刑宣告を待つ罪人のように直立不動で立っている。


「……すまん、鈴木君」柳田は、5分ぶりに口を開いた。「もう一度、言ってくれないか。アメリカ側からの、要請を」


「はっ」鈴木は、滝のような汗を流しながら、手元のメモを読み上げた。「えー……まず、赤組・白組用のハチマキを、各国首脳および随行員分として、計2000本。素材はコットン100%を希望。次に、玉入れ用のカゴを2台。高さは国際基準に則った4メートル12センチ。そして、大玉転がし用の大玉を一つ。直径150センチ、紅白のカラーリングで……」


柳田は、天を仰いだ。

外務省に入省して30年。数々の無理難題をワシントンから押し付けられてきた。貿易摩擦、安全保障、基地問題……。だが、「大玉転がし用の大玉を手配しろ」という要求は、前代未聞だった。


「…ちなみに」柳田は、かすれた声で尋ねた。「その…『KADENA OLYMPIA』とやらの、責任者は、誰なんだね?」

「はっ。それが……」鈴木は、言いにくそうに答えた。「私、鈴木が、日本側における総合調整担当官を、先ほど拝命いたしました」

「……そうか」柳田は、立ち上がると、鈴木の肩に、そっと手を置いた。「すまん」


その一言に、全ての同情と、哀れみと、そして「俺じゃなくてよかった」という心からの安堵が、込められていた。


その頃、沖縄の嘉手納かでな空軍基地。

米太平洋軍の司令官と、日本の航空自衛隊の将官たちが、巨大なモニターを前に、深刻な顔で向かい合っていた。議題は、もちろん運動会の競技についてだ。


「……では、ミスター・スズキ」モニターの向こうから、外務省の鈴木が青い顔で問いかける。「『二人三脚』における、安全保障上のリスクについて、ご見解を」


米軍司令官が、鷹のような目で答える。

「最大限のリスクは、イスラエルのアリエル首相と、パレスチナのアッバス議長がペアになった場合だ。足を結ぶ紐を利用して、相手を転倒させ、馬乗りになって殴りかかる可能性がある。その場合、周囲のシークレットサービスと護衛が同時に発砲、嘉手納基地のど真ん中で、銃撃戦が始まるだろう」


「そ、それを防ぐ手立ては…?」


「三つある」司令官は、指を折った。「第一に、紐の素材を、人間の力では絶対に切れないカーボンナノチューブ製にする。第二に、両者の足に、一定以上の張力がかかると自動的に分離する、磁気式の特殊な結束バンドを使用する。第三に……」


彼は、真顔で続けた。

「……二人三脚ではなく、三人四脚にする。中央に、中立国であるスイスの代表を挟むことで、物理的な緩衝地帯とする」


日本の自衛隊幹部たちは、あまりに真剣な米軍の分析に、もはや何も言うことができなかった。彼らは今、国家の存亡をかけた安全保障会議ではなく、町内会の運動会の打ち合わせをしているのだ。この現実を、誰も受け入れられなかった。


一方、ホワイトハウス。

俺は、上機嫌だった。プロジェクトが、専門家たちの手に渡って、順調に進んでいる。素晴らしいことだ。トップの仕事は、大きなビジョンを示し、あとは現場に任せること。これぞ、理想のマネジメントだ。


「アシュリー、進捗はどうだ?」

「は、はい、閣下…」アシュリーの目の下には、隈がくっきりと浮かんでいた。「日本政府の全面的な協力も取り付け、準備は順調です。ただ……一つ、問題が」

「なんだ?」

「各国首脳から、『一体、誰と誰が、どのチームになるのか』という問い合わせが殺到しております。チーム分けは、非常にデリケートな政治問題と…」


「何を言っているんだ」俺は、呆れて言った。「そんなもの、運動会の当日に決めるに決まっているだろう」

「……は?」

「運動会の華は、**『運命の騎馬戦』**だ。赤組と白組の大将が、帽子を取り合う。その大将を、どうやって決めるか。くじ引きだよ」


俺は、日本の学校でやった、あのドキドキする瞬間を思い出していた。

「アリエルとアッバス議長に、箱の中から紙を引かせるんだ。一本だけある赤い紐のついた紙を引いた方が、赤組の大将だ。どうだ、公平で、エキサイティングだろう?」


アシュリーは、もはや何も答えなかった。彼女はただ、静かにメモを取った。

『To Doリスト:1. 神に祈る』


佐藤拓也は知らない。中東の指導者たちが、「くじ引き」という名の、神の采配に自分たちの運命を委ねるという文化を、全く持たないということを。彼らがこれを「勝者に全ての栄光を、敗者には死を」という、古代ローマの剣闘士の決闘のようなものだと解釈する可能性に、まだ気づいていなかった。

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

次回は明日11時に更新予定です。

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