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どうやらとっくに掌握していたようです  作者: 猫宮蒼


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12/18

とある騎士の昏い思い



 セルジュ達はレネティアの事を知っていた。

 当然である。


 そもそもセルジュ達はコレットを仲間に勧誘したいがために、何だかんだクラエスのチームとよく遭遇してついでに共闘関係に持ち込もうとしていたくらいだ。

 クラエス狙いでありダンジョンだとかまでついてこなかったとしても、それでも道中よくよく一緒になるレネティアの事を知らないはずがなかった。

 何ならお互い顔見知りである。


 食堂へとレネティアに連れていかれたコレットを、ユーシスがたまたま目撃していたのもあってその情報は割とあっさり仲間たちに通達された。


 とはいえ、レネティアに関しては別に何か手段を講じるだとかをする必要はないと判断している。


 かつて、自分の居場所をくれた相手でもあったクラエスならチームにまた勧誘されたとして、何かの間違いでまた向こうに戻りたい、なんて言いだす可能性はあったけれどレネティアは違う。コレットにとっては彼女の存在は単なる顔見知りで友人と呼ぶ程でもない。

 そんな相手に勧誘されて誰が頷くというのだ。


 それに流石に以前のコレットなら勢いに押されたりした可能性はあるけれど、今のコレットは違う。

 今はもうセルジュ達チームの一員で、無くてはならない存在であるとしっかり教えている。戦えない、雑用くらいしかできない足手纏いだなんて今のコレットは思っていないのだ。


 戦えなくてもコレットの存在はセルジュ達の精神的な支柱であると、それぞれが自分なりの言葉で伝えている。冒険者としてやっていけないと思うのであれば、どうかせめてこの中の誰かと結婚してくれとまで言い出したくらいだ。そうまでしてでもコレットの事を繋ぎとめておきたいのだと力説した結果、どうにか彼女も自分の存在を必要とされていると理解したくらいだ。むしろそこまで言わないと信じてもらえないとかどうかと思ったけれど。


 ちなみにそこまで必死にプロポーズした割に、仲間として必要なんだと思われている部分を信用されただけで、結婚相手に選んで欲しいという部分は信用されていないっぽい。なんでだ。


 いや、なんでだ、も何もあったものじゃないなとセルジュ達は薄々理解してはいるのだ。


 アッシュ以外、コレットの事はとても大事であるけれど、女として見ているわけではない。

 や、抱けって言われたら抱けるけど、とか最低な事を言い出しかねないが実際セルジュとユーシスはコレットの事を妹のように認識してる部分があるし、ルグノアは姉のように思っている節がある。

 スレインに至ってはご近所のちょっと仲のいいお兄さんとかそういうポジション。

 とはいえ、コレットが結婚相手に自分を選ぶのであれば妻として勿論そういう対応をするのは問題ない。

 今はそういった愛情だとかが薄くとも、そういう関係になったのであればまぁそうなる、くらいには想っている。


 最初から女として認識しているアッシュとくっつくのが多分一番すんなりいく感じだろうなとセルジュは思ってるし、ユーシスもその考えに賛同している。コレットが自分を選んだ場合はじゃあこっちもちょっと本気出すかな、とか思ってるのも事実だけど。

 けれども無理強いをするつもりはない。

 あくまでもコレットの意思を重要視したい。それがセルジュ達の総意である。


 だからといって、クラエスの所に戻りたい、とかそういうのは却下したい所存であるが。

 コレットの意思を尊重するけどそれはあくまでも自分たちと一緒にいる事が前提であって、離れてどこかへ行くのであればそれは阻止するに決まっているのだ。



 しかしまさかレネティアまでもがコレットに執着するような事になるとは思っていなかった。

 コレットは確かに料理上手ではある。けれどもあくまでも家庭料理が得意という程度だ。どこぞの高級料理店の味だとかはコレットもそう簡単に再現できない。

 むしろそういう店に食べに行く機会がないからというだけな気もするけれど、彼女の手料理はどちらかといえばどこか懐かしいような、そんな気持ちになるものが多い。

 結果として、それが執着される原因になっているように思える。


 何せセルジュ達もコレットに執着した原因はまさにそれだからだ。


 冒険者の大半は家族を失って一人で生きていかなければならなくなったりだとかで、昔親やそれ以外の家族が作ってくれた料理を今食べられる状況か、と問われるとそうではない者が多い。そんな中で遥か昔の記憶を揺り起こされるような懐かしさと温かさのある料理を振舞われてみろ。


 クラエスはコレットが近くにいるのが当たり前すぎてわかっていないようだったが、セルジュ達はそれがどれだけ有難い事かすぐに気づいた。戦えなくとも彼女は精神的に寄り添ってこちらを癒してくれた。何度か共闘する際に彼女の護衛に回った事もあったが、それだって次に接触した時に警戒されずこちらを受け入れてもらえる土壌を作ったに過ぎない。



 セルジュの両親は幼い頃に賊に殺され、セルジュは一人孤児院へと身を寄せる事となった。奇しくも彼はクラエスと似た境遇だったのだ。

 違ったのは、クラエスはこういう言い方をしては何だが出荷される前に逃げ出したけれど、セルジュはそうではなかったという事だ。

 とはいえ、引き取られた先で彼は所有者に虐げられる事なく、むしろ後継者となるべくギッチギチに育てられた。それを虐げている、と見なす事もあったかもしれない。けれども孤児院にいた時とは別の厳しさこそあったが、ここでの教育は将来彼が一人で生きていけるだろうと思えるもので。


 賊を仕向けたのがそいつだった、というのを知る前までは感謝すらしていたくらいだ。

 知ってしまったが故に、そんな気持ちは霧散したが。


 どうしてセルジュを欲したのかがわからない。政敵だったとかで、たまたま気に食わない相手の子を思いのままに育てて自分の手駒にしようなんていう気まぐれだったのかもしれない。親の仇を、だがしかし救いの主だと思わせて自分に妄信させるつもりだったのかもしれない。傍から見ればさぞ滑稽な話だろう。

 そう、セルジュが何も知らないままであれば、恐らくはそいつの思うとおりになっていたに違いないのだ。


 けれども真実を知ってしまった。咄嗟にセルジュは親の敵討ちなんてどうでもよかったけれど、他にそれっぽい名目もなかったしそいつを仕留めた。いくら事情があろうともこうして殺してしまった時点で犯罪である事は承知の上で、それでもセルジュは行動に移ったのだ。


 とはいえ、そいつは他にも後ろ暗い事をしていたからか、他の奴に目をつけられていた。

 そしてそこでユーシスと出会い、共犯となり証拠を隠蔽し――その後は二人そろって冒険者となったのである。


 そうして他の仲間たちと出会い、そこそこ有名な冒険者チームとなったあたりでコレットと出会った。

 たまたま一緒に食事をする事になったのは、偶然でもなんでもなかったのかもしれない。

 何せその時クラエスのチームは男手がクラエスだけで、他は女性。

 食事のためにちょっと食料を狩りに行くにしても向こうはクラエスとメリダ以外あまり役に立たないような面子であった。

 こちらが多めに確保した獲物を分け与えて共に食事をする事になって、そこでコレットの料理を出され、そしてセルジュは。


 その瞬間、酷く懐かしい思いに駆られたのだ。


 顔も忘れかけてた両親の事を思い出した。あぁ、そういえば、こんな料理を昔、もっとずっと小さい頃に食べた気がする。懐かしいな。なんてそんな風に思って。

 その場で泣きださなかっただけでも褒めてほしいくらいだった。

 コレットの料理を食べて、その瞬間どうしようもないくらいに泣き出したくなったのをどうにか堪えて、そこでセルジュは初めてコレットという人物を認識したのだ。


 自分の見た目はいい方だけど、そのせいで上っ面しか見ない女性が寄ってくることも多々あった。どうにか自分と接点を持とうと媚びるように近づく女性の何と多い事。

 けれどもコレットはそんな素振りは一切見せなかったし、それどころか別のチームの人間だというのにあれこれ世話を焼いてくる。それがこちらに媚びようというものではなく、ごく自然に、他の仲間と同じような扱いをしているという事に、セルジュは内心で衝撃を受けたのだ。


 そして次の日にもコレットの料理を食べて、やはり何というか懐かしい思いに胸を締め付けられて。

 あぁ、この子は大事にしないといけない。そんな風に自然と思うようになっていた。

 もうすっかり思い出す事もなくなっていた母の面影を見たような気分になったから、というわけでもない。母のような、とはいえコレットはセルジュよりも年下で、だからこそ妹がいたらこんなだったのかもしれない、なんて思うようになって。

 自分の中で妹だと思った途端、余計に彼女の事は守らなければならない存在だと思うようになっただけだ。


 妹だと思ってはいるけれど血が繋がってるわけでもない。

 それも理解している。

 結果として庇護対象として扱うようになってしまったのも否定はしない。

 けれども同時に自分も守られていると思う。

 何というか彼女の傍にいると、自分は赦されていると思えるのだ。


 功績を出して騎士の称号を得たからといって、過去にしでかした所業が消えてなくなったわけでもない。

 けれども、コレットの傍にいると、それすら許されたような気がしてしまって。


 だからこそ、セルジュは手放せない。


 クラエスのチームにいた時はコレットは勿論セルジュ達の仲間と大っぴらに言える存在ではなかったし、だからこそセルジュはクラエスを羨んですらいた。

 けれどもそんなクラエスがコレットに対して雑な扱いをしているのを見て、激しい怒りを覚えていた。自分なら、そんな扱いはしないのに。

 彼女の貴重さを理解していないなんて、なんて勿体ない。


 コレットは行くアテがなかった時にクラエスに冒険者として誘われた事があったからか、自分からクラエスの元を離れようという意思は見せなかった。クラエスは内心それに気付いていたのかもしれない。何をしてもコレットは離れていかないという自信があったのかもしれない。

 それもあってセルジュはクラエスの事を好きになんてなれなかった。

 もし別の出会い方をしていればもしかしたら、友人になれたかもしれないな、と思わないでもないのだ。けれどもコレットの事を想えば、どうしたってこいつとは仲良くなれそうもないと思ってしまう。コレットの事を抜きにして考えればクラエスの事はそれなりに自分に似てる部分もあるし、なんだかんだ仲良くなれそうな気もするのだが、現実問題としてコレットがいる。クラエスのコレットの扱いが変わらない限り、きっと相容れないままだろう。


 かなり早い段階で、セルジュはコレットを自分たちのチームに引き抜こうと考えていた。そして結果は――言うまでもない。


 それがどれだけ大事なものであったのかを知らないまま、クラエスは簡単にコレットを手放した。そしてセルジュ達はその隙を見逃さなかった。


 コレットが自分たちのとっていた宿にやってきたのはとても運が良かったと言える。

 そうでなければ、彼女と出会うのはもう少し遅くなっていただろうし、そうなればああもうまくチームに引き込めるかどうかは微妙だったのだから。

 かつてクラエスのチームにいたけれど今はもう出て行ってしまった者たちの中でも、コレットは一目置かれていた。

 抜ける時に一緒に行かないか? なんて声をかけていた者だっていたのだ。決してコレットが頷く事はなかったけれど。もしそこで簡単に頷いてくれるようなら、セルジュ達がコレットを引き込むのもきっともっと簡単だっただろうに。


 クラエスがコレットを手放さない限り、コレットもまたクラエスを見捨てない。


 それがわかっていたからこそ、今まで簡単に手出しもできなかったくらいだ。


 けれども、だからこそ。


 その機会が呆気なく訪れた時には内心で快哉を上げた程だ。

 あぁ、クラエス、君が愚かで助かったよ!


 だから。

 君の代わりにコレットの事は幸せにするから、君は遠慮なく落ちぶれてくれて構わない。


 今までどうしようもないくらい嫌いだったクラエスの事も、今は割と好きだなんて平気で言えそうだとセルジュは本気で思っている。

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