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【完結】私の夫を盗ったの誰ですか?  作者: 優月アカネ@重版御礼


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5/6

 夫と自分以外の女がラブホテルに入っていった。

 動画の録画を終了すると、腕がだらりと下がった。

 突然の出来事に頭が真っ白になっていた。


(女の顔まではわからなかった……。このまま出てくるのを待とうか。いやでも、いま聡太はどうなっているの?)


 健一郎に世話を頼んでいたはずなのに。

 すごく嫌な予感がして、急いで家に戻った。


「聡太ーっ。ただいま! ママだよー!」


 声をかけながら玄関に入るが返事がない。

 リビングに入ると、開いているはずのない窓が開いていて、カーテンが風に揺れていた。


「――! 嘘でしょ」


 窓の外はベランダだ。飛びつくように駆け寄ると、まさに聡太がベランダを乗り越えようとしているところだった。


「聡太っ!」


 駆け寄って身体を抱きかかえる。

 間一髪で間に合った。

 心臓が胸から飛び出しそうなくらいバクバクしている。そんなわたしの状況も知らずに聡太はきょとんとした顔だ。


「ママだ。おかえり!」

「聡太、ベランダに出ちゃいけないって言ったでしょ。どうしたの」

「パパをさがしにいくとこだったの」

「パパ? そうよパパよ。どうしてパパがいないの?」

「にじかんくらいおるすばんっていわれた。すきなだけテレビみていいっていわれたから、だいじょうぶっていった」


 聡太の口から出てきた言葉が、にわかには信じられなかった。

 数時間の子守さえできず女とラブホテルに行った。

 健一郎は、ここまでダメな男だったのか。


「こまーしゃるをはやおくりしてほしいの。だからおそとにでた」

「……そうだったの」


 我が家はマンションの二階だ。

 あと五秒帰宅が遅れていたら、聡太は死んでしまっていたかもしれない。


(…………もう許さない)


 震える指で、わたしはある人に電話をかけた。


 ◇


 家のドアを開けた香澄は、凛とした眉をつり上げる。


「どうしたの、いきなり。ちょうど空いてたからいいけど、暇じゃないのよ」

「ごめん九条さん。ちょっと緊急事態」

「あっ、そうたくんだ! あそぼう!」


 香澄のうしろから可愛い笑顔で出てきたのは英恵ちゃんだ。照れる聡太の手を引っ張って中に連れて行った。


「まあいいわ。上がって」

「本当にありがとう」


 見事な景色が広がるリビング。双眼鏡を取り出して外を観察し始めたわたしを見て香澄が訝しむ。


「変な人ね。何してるのよ」


 わたしは聡太が別の部屋で遊んでいるのを確認して、小声で打ち明けた。


「実は夫が不倫してて。相手の女を突き止めたいから、ホテルから出てくるところを見たいの」

「――!」


 香澄の大きな目が見開いた。


「自分でも青天の霹靂だったわ。亭主関白なところはあるけど、気が小さいから浮気とか不倫とは無縁だと思ってた。二人は飲み会の場で偶然知り合ったみたい」

「男の飲み会なんてコンパみたいなものじゃないの」

「そうね……。それで、聡太を連れた状態で尾行できないでしょう。ここなら見えるかもって気づいて、お邪魔させてもらったの」

「そうだったの。……聞いた手前でなんだけど、私が知ってよかったの? 言いたくなければ誤魔化しても良かったわよ」

「九条さんは、他の人に漏らしたりしないでしょ?」

「すいぶんな信頼ね。庶民に慕われても嬉しくないわよ」


 ぷいっと横を向いた香澄の耳は赤くなっていた。


 ――香澄の家で粘ること数時間。

 ラブホテルの入口から夫と女が姿を表した。


「――!」

「出てきたのね。知ってる女?」


 異変を察して香澄が近くにやってくる。


「――!! あれは……」


 まさかの事態に言葉を失った。

 夫と仲睦まじく腕を組む女。いままで何度も顔を合わせていたが、まったく予想もしていなかった人物だった。

 無言で香澄に双眼鏡を渡す。

 女を見た香澄も、同じように言葉を失っていた。


「……すごいことになったわね。どうするの高嶋さん」

「健一郎は聡太の父親としてふさわしくない。不倫女の正体も心底裏切られた気分だわ。もちろん責任を取ってもらう」

「そう……。こればかりは同情するわ。私にできることがあったら言ってよね」


 気の毒そうな言葉にいつものトゲはなく、すっと胸に染みていった。


「ありがとう。……わたしは大丈夫。とっておきの復讐を思いついたわ」


 悔しさと怒り、例えようもない憎しみの高揚感。

 不倫したことを必ず後悔させてやると決意して、わたしは口角を持ち上げた。

次が最終話となります

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― 新着の感想 ―
・何度も会った覚えがある。 ・自分の子供のクラスにいる。 ・香澄さんも知っている相手。 ・容疑者な保護者は全員アリバイがある。 この話が【読者への挑戦状】だったらここにドンッ! と書くんですがそうじ…
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