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彼女が竜族の神子と呼ばれるまで  作者: にゃんたるとうふ
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第七節

「うっ、うぅ・・・違うよぉ、私は変態さんじゃなっ――はぅあっ!?」

身体を大きく跳ねさせて目を覚ました彼女は、左右に抱き着くトウカとエレナの姿を確認してホッと安堵の息を吐く。

「ゆっ、夢?・・・はふぅ・・・むぅ、元はといえばエレナが思わせぶりなこと言うから・・・えい、えいっ」

八つ当たり気味にエレナの頬を優しく突く彼女、それを受けるエレナは幸せそうに口元を緩ませて抱き着く力を強める。

「わっ、すご・・・とっても柔らかくていつまでも触っていられる―――わひゃっ!?と、トウカ?お、おはよう・・・?」

「・・・んっ」

首筋に生暖かいものが触れたことに驚きの声をあげた彼女はトウカが起きていることに気付いて挨拶を交わすが、トウカは自身の顔を突き出すようにして彼女へと近づける。

「? どうしたの?えっ、自分のを触れって?じっ、じゃあお言葉に甘えて・・・えいっ―――ふわぁっ!」

トウカの頬に手を這わせた彼女はその柔らかさに瞳を輝かせる、それを確認したトウカは満足そうな息を吐く。

「んにゅふーっ」

ぷにぷにほっぺを触られながらのため少し変な声だったが、満足気に表情を緩ませるトウカに彼女も嬉しそうに頬を緩ませる。

「・・・何してるの、主君?」

「わっ・・・エレナ、おはよう。今はえっと、トウカの頬の柔らかさを堪能してる・・・かな?」

彼女の返答にエレナはふーんっといった相槌を返し、少し頬を膨らませながら彼女との密着度を増していく。

「え、エレナ?」

「トウカだけじゃなくて、アタシのも触ってよ。主君っ」

上目遣いで抱き着く力を強めるエレナに胸が高鳴るのを感じた彼女は、断るという選択肢は浮かばずにしっかりとした頷きで返す。

「んゅーっ!」

「はいはい、わかってるわよ。アンタが満足した後に触れ合うから、今は思う存分主君と触れ合ってなさい」

「あ、あはは・・・じゃあ少しだけ待っててね、エレナ」

それから数十分間トウカの頬の柔らかさを堪能した彼女は、さらにエレナの頬の感触を味わったりしたために、部屋を出ることになるのは起きてからかなり時間が経った頃だった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






心なしか肌艶が良くなったトウカとエレナを連れてギルドにやって来た彼女は、ちょうど依頼をこなすためにギルドを出るタイミングのラメたちと出会う。

「あら、ネネ。今日は少しお寝坊さんね?・・・なんだか二人の肌艶いいわね?」

「あっ・・・おはようございます、ラメさん。二人のことはその、気にしないでくださいっ」

彼女の返事に何かあったんだなと思いつつも追及したりせず、一通り彼女の姿を確認したラメは大丈夫そうだなと考えて口を開く。

「昨日は大変な目に遭ったんだから、今日は無理しないようにね?・・・何かあればすぐにその二人に言うのよ?最悪その場を切り抜けるためなら、廃城の時みたいに吹き飛ばしても構わないからね?」

「そ、それはさすがに・・・」

「それだけネネが心配なのよ、だから無茶はしちゃダメよ?」

「そんなに気にしなくても、主君はアタシたちが護るから心配いらないわ。アンタはこれから依頼でしょ、さっさと行きなさいよ」

彼女とラメの間に割って入るように身体を滑り込ませたエレナにそう言われ、渋々ながらも頷きで返してから後方で微笑ましげに成り行きを見守っていた二人に目配せしてその場を後にした。

「エレナ、あんまり突き放すような言い方は・・・」

「だって主君っ、アタシとトウカがいるのに最悪の場合なんてありえないんだから無用な心配だもの!だからあれでいいのっ、それよりも新しく受けられる依頼を確認しましょ!」

そう言って彼女の手を引いてギルド内へと足を踏み入れるエレナに、彼女は苦笑しながらもエレナが握る手とは逆の手を握るトウカを引き連れて歩みを進める。



多くの冒険者で賑わうギルド内を進んでいつもの受付に到着すると、待ってましたとばかりに尻尾と獣耳を大きく動かすルースナが応対する。

「おはようございます、ネネさん!今日は少しお越しになるのが遅かったですけど、何かあったんですか?」

「えぇっと・・・ちょっとバタバタしてて遅くなっちゃったんです、それよりも受けられる依頼はありますか?」

ルースナの疑問に無難な返しをした彼女はすぐに話題を変える、そのことをルースナは特に追及せずに依頼リストを取り出して受付台に広げる。

「今受けられるものはこの五つですね、討伐依頼が三つと採取依頼が二つですよ!」

一つ一つの依頼の内容を確認する彼女はどれにしようかと考えていると、隣と下から覗き込むようにして顔を出したエレナとトウカに気付いて視線を向ける。

「何を悩んでるの、主君?」

「ん?」

「んと、どの依頼が安全なのかなって・・・採取がいいんだろうけど、討伐も一回は受けといた方がいいのかなって悩んでて」

二体の問い掛けに彼女がそう返事をすると、エレナは首を傾げながら不思議そうに口を開く。

「全部受ければいいじゃない、幸い距離的にも遠くないし・・・移動手段なら不本意ながらあれがあるし、そうでしょう?」

唐突に声をかけられたルースナは大きく肩を震わせたが、すぐに頷きを返してから口を開く。

「ははっ、はい・・・!先日ネネさんが連れてきた魔鬼馬ですが、飼い主が見つからなかったのでネネさんが主として登録されました。ギルドを出た左手の方にある厩舎で休ませていますので、乗馬する際は厩舎に駐在する職員に声をかけてくださいね」

「あっ、はい。それじゃあ、依頼を全部受ける・・・でいいのかな?」

疑問符を浮かべながら口にする彼女に、エレナは強い頷きで返してから口を開く。

「アタシに任せてくれれば問題ないわよ、主君。トウカもいるんだからサクッと終わらせましょ、トウカもそれでいいでしょ?」

「んっ」

二体の力強い返しに自然と頬を緩ませる彼女は、ルースナに全ての依頼を受けると告げて手続きをしてもらうと会釈をしてからギルドを出るために踵を返す。

「無事に戻ってきてくださいね、ネネさん!いってらっしゃいませーっ!」

大きく手を振りながら声をあげるルースナに、振り返って手を小さく振って微笑みを浮かべる彼女はトウカとエレナに手を引かれてギルドを後にした。



ギルドを出てからルースナに言われた方向へと歩みを進めると、一つの大きな建物の前に辿り着く。

「ここが厩舎だよね、えっと・・・職員さんは?」

「あれじゃない?」

エレナの指差す先にはベンチに座った女性がこっくりこっくりと舟を漕いでいる姿があり、彼女たちが近付いても起きる気配がなく頭を悩ませかけた彼女だが女性の側にある物を見つける。

「これは本、いや名簿かな?ここに馬を使った人の名前を書くんだね・・・ってあれ?」

彼女の見つけた名簿の側にメモが張り付けてあり『馬を使いたい方はこちらに名前を記入してください』と書かれており、彼女はそれでいいのかと思いつつ自身の名前を書き込む。

「これでいい、のかな?」

彼女の呟きに反応するかのように親指を立てている女性の姿を目にして、苦笑を浮かべながら厩舎へと足を踏み入れる彼女だった。


厩舎の中では多種多様な生物が柵で分けられており、その内の一際大きな一角に魔鬼馬は佇んでいた。

「えっと、このまま出していいのかな?」

何もすることがなくただボーッと窓の外を眺めていた魔鬼馬は、待ち望んだ声を耳にして首を壊さんばかりの勢いで動かして声の主へと視線を向ける。

「名簿にも書いたから大丈夫でしょ、っと」

柵に取り付けられた扉を躊躇なく開くエレナに困惑しながらも、魔鬼馬が自身を見ていることに気付いた彼女は微笑みを浮かべる。

「休んでたのにゴメンね、依頼に向かうから貴方に乗せてほしいんだけど・・・いい?」

「ブルッ、ヒヒィンッ!」

彼女のお願いを受け入れるように返事をした魔鬼馬は、鼻先を彼女の頬に当てて甘えるように擦り付ける。

「わぷっ、ふふっ・・・くすぐったいよ、乗せてくれるってことでいいんだよね?うん、ありがとうっ」

何度も頷くように首を縦に振る魔鬼馬にお礼を口にしつつ首筋を撫でる彼女に、魔鬼馬は気持ち良さそうに目を細めてされるがままだった。

「むっ・・・ほら、主君。依頼をこなさなきゃいけないんだから、早く行きましょ!」

そう口にして彼女の腕を掴んで強引に歩き出そうとするエレナに、彼女は慌てて口を開く。

「あ、待って待って!依頼の場所に行く前に、寄りたいところがあるの!」

「? 寄りたいところ?」

エレナと同様に疑問符を浮かべるトウカと魔鬼馬に対して、不思議そうに首を傾げる彼女は口を開く。

「昨日ラメさんが言ってたから、ロウさんのお店に寄ろうと思うんだ。依頼とか日常生活とかに必要な物もあると思うから、ね?いいかな?」

「んっ!」

「主君の考えに異議なんてないわ、まだ時間はあるんだし・・・依頼内容も大したことないものばかりだったしね」

「ブルルッ!」

彼女の言葉に否定的な返事は一切なく、皆の賛同を受けた彼女はホッと安堵の息を吐いてから厩舎を後にした――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






『スロー』の街に初めて訪れた時にロウに教えてもらった路地へと入った彼女たちは、雑貨や食品の並ぶ商店を抜けて目的の建物へと辿り着いた。

「ロウ・ソク、ここだよね?」

「他に似たような名前もなかったし、ここだと思うわよ?」

「ん」

エレナとトウカの肯定と魔鬼馬の頷きを確認した彼女は、改めて目の前に建つ建物に視線を向ける。

「大きい、ね・・・でもそっか、ラメさんの知り合いってことはそれだけ有名ってことだよね。Aランクパーティだったはずだし、なんだか緊張してきちゃった・・・」

ソワソワと落ち着きのない彼女の姿に気付いたトウカは、握る手の力を強めて意識を自身に向けさせる。

「ぅえ? トウカ・・・?」

「んっ」

少し屈むように指示するトウカを不思議に思いながらも言う通りにした彼女は、頬を柔らかい感触を受けてキョトンとした表情を浮かべる。

「――って、ととっ・・・トウカ!?きゅ、急に何を―――あぅ、ひゃんっ」

頬に口付けされたことに気付いた彼女が顔を赤く染めながら慌てて立ち上がる前に、彼女の首に腕を回して抱き着いたトウカは頬への口付けを続ける。

「ん、んーっ・・・ん、んっ・・・」

口付けだけでなく吸い付いたり舌を這わせて舐めるなどの行為をし始めたトウカ、彼女は首に腕を回して抱き着くトウカをどうにか安全に下ろそうと動くがうまくいかずに求愛行動を受け続ける。

「ひゃ、トウカっ・・・ふふっ、くすぐった・・・ひぁっ、ふふふっ・・・!」

トウカの求愛行動がこそばゆいのか身動ぎしながら笑みをこぼす彼女、その姿に見惚れていたエレナだがすぐに気を取り直してトウカを引き剥がす。

「――ちょっと、トウカ!アンタ何してっ・・・!自分だけそうやって抜け駆けするのはズルいわよ、離れなさいっ!」

「ん、んんっ・・・んーっ!」

「はぁっ?緊張している主君の気を紛らわせて、緊張を解そうとしたぁ?だとしてもやり方ってものがあるでしょ、あと羨ましいからアタシもするっ!」

引き剥がしたトウカをぶん投げて魔鬼馬の上に落としたエレナは、期待のこもった視線を彼女に向けながらゆっくりと歩み寄る。

「さぁ、主君・・・頬を差し出して、そのままじっとしておいて」

「え、えぇっ・・・!?あぅ、あのその・・・そ、そうだ!依頼!依頼で頑張ってくれたら、そのご褒美ということでその・・・どう、かな?」

ジリジリとにじり寄ってくるエレナに困惑した彼女がそう口にすると、魔鬼馬の上でぐったりしていたトウカも勢いよく顔を上げ、エレナは少し残念そうにしながらもやる気に満ちている様子で口を開く。

「ふふーんっ、聞いたからね?後で無しとかは聞かないから、覚悟しておいてね?主君っ」

「へっ?えぅ、あの・・・お手柔らかに、ね?」

自信満々なエレナの様子に早まったかもしれないと焦る彼女は、そうお願いすることしかできないのだった。



気を取り直して商店の扉に向き直った彼女に対して、魔鬼馬から降りて彼女の側に移動して手を握ったトウカが口を開く。

「ん、んっ」

「えっ?どうしてエレナには条件を出したのか、って?えぅ、それはその・・・」

視線を彷徨わせて言い淀んでいた彼女だが、ジッと逸らすことなく向けられるトウカの視線に押し負けるようにして口を開く。

「エレナは何て言うかその、私と同じ身長でしょ・・・?だからなんだか恥ずかしくて、トウカは見た目がね?その・・・幼いからまだ大丈夫なんだけど」

「つまりアタシだと番同士に見えるから恥ずかしくて、トウカは子供っぽいから大丈夫ってことねっ!」

少しぼかして口にする彼女だったがエレナがハッキリと言葉にしたために、トウカは衝撃を受けたように目を見開いて動きを止める。

「えっ、エレナ・・・!?別に私はそうは・・・」

「そんな回りくどい良い方しなくてもはっきりと言えばいいのよ、アタシの方が主君にお似合いだってねっ!」

ふふんっとたわわな膨らみを揺らして胸を張るエレナに、彼女は手を握るトウカに不安げな視線を向ける。

「トウカ、えっと・・・」

「・・・んっ」

恐る恐る声をかける彼女が言い切る前に問題ないという返事をするトウカ、その変わらない表情にホッと安堵の息を吐いていた彼女は・・・トウカが密かにある決意を固めていることに気付けなかった。



「すー、はーっ・・・よしっ、入るね?」

深呼吸して商店のドアノブに手をかける彼女がそう口にすると、エレナは微笑ましげな視線を向けながら声をかける。

「そんなに緊張しなくても、別にとって食われたりしないわよ」

「ん」

エレナの言葉に同意するように頷くトウカは握る手の力を強めて彼女を見上げる、手から伝わる温もりで少し落ち着いた彼女は小声でトウカにお礼を述べて扉を開く・・・ちなみに魔鬼馬は店内には入れないので、店先で待機である。

「お、お邪魔しまーす・・・?」

大きな外観同様に中も広々とした空間が広がっており、さらに用途別に品々も分けられてとても見やすく配置されている。

「(すごいっ、昔お父さんと行った工具屋さんみたいだ・・・!)とっても見やすくて綺麗なお店だね、ロウさんは・・・お店の奥かな、ならこの間に商品を見て回ろっか?」

彼女の提案に頷いて返したトウカとエレナは、店内をキラキラした瞳で見回す彼女の姿を眺めて微笑みを浮かべる。


「・・・やっぱり主君って可愛いわよね、護ってあげたくなるというか頼ってほしいというか」

「ん、んんっ」

「まぁ、そうなんだけど・・・けどアンタも同じ気持ちでしょ?そこまで気兼ねなく甘えるなんて、アンタにしては珍しいじゃない」

「ん?・・・んん、んーっ」

「そりゃそうよ、なんてったってアタシたちの主君だもの。それに主君はおそらく・・・っていうか、絶対にそうでしょ」

「んー、んっ!」


彼女が店内の商品を手に取りながら楽しげに見回っている間、二体の竜族は自身の主についての話に夢中になっていた。



武具以外の商品を一通り見終わった彼女は、ポーションなどの回復アイテムを数個と本を二冊手に取ってから周りへと視線を向ける。

「ん?」

「主君?」

そんな彼女の様子に気付いた二体の竜族は左右から顔を覗かせて声をかける、そんな二体の問いかけに彼女は首を傾げながら口を開く。

「うーん、なんだか見られてる気がしたんだけど・・・気のせいみたいっ「んっ」――トウカ?え、あっち?・・・っ?」

彼女の返事にトウカが服を引っ張りながらとある方向を指差し、その先へと視線を向けた彼女は不思議な光景を目にする。

「・・・壺から、モフモフが生えてる?」

彼女の呟きの通り視線の先には少し大きめの壺が置かれており、その中から毛で覆われた二本の長い何かが飛び出している光景があった。

「―――っ!~~~っ!」

飛び出している長い何かは彼女の呟きを聞きつけた様子で、壺の中から二つの手が伸びて毛で覆われた何かを壺の中へとしまい込む。

「あっ、引っ込んじゃった・・・誰かいるのかな?」

そう口にして壺へと近づく彼女とそれに続くトウカとエレナ、しかし二体の竜族は途中で足を止めて違う場所へと視線を向ける。

「中には何が、って・・・あれ?」

彼女が覗き込んだ壺には何も入っておらず、見えるのは壺の底だけだった。

「主君、今度はあっちみたい」

「えっ?あ・・・本当だ」

壺を覗き込んで首を傾げる彼女に声をかけたエレナの示す方へと顔を向けると、先程と同じように壺から何かが飛び出ている光景があった。

「一瞬であそこまで移動したの?すごく速いねっ」

「んっ」

「トウカの言う通り、たぶん転移魔法だと思うわよ?でもかなり高位の魔法を使うわね、実力はあるんだろうけど・・・あの行動に何の意味があるのよ」

トウカとエレナの言葉に感嘆の声を漏らす彼女に、二体の竜族は嬉しそうに頬を緩ませる。

「でもこのままじゃお話しできないよね、どうしよう・・・?」

困ったように眉を下げる彼女を目にしたトウカとエレナは、目で合図を送り合って小さく頷くと動き出す。

「――あ、れ?トウカは・・・?」

「トウカならあそこだけど・・・あ、消えた」

エレナが指差したのは先程何かが飛び出していた壺の方であり、彼女が視線を向けるとそこにはただの壺しかなかった。

「? 壺しかないよ?」

「今度はあっちに・・・あ、また移動した」

また違う壺を指差すエレナに従って顔を向ける彼女だが、そこには誰もおらずただの壺が鎮座しているだけである。

「あっ、もしかしてトウカ・・・さっきのモフモフを掴んでるの?」

「あれぐらいならトウカの速さがあれば問題ないけど、まさかずっと転移し続けるとは思わなかったわ」

トウカが飛び出た何かを掴んだことにより店内を縦横無尽に飛び回っているらしく、ただの人である彼女には認識することができずにどうしようかと周りへと視線を向ける。

「あ、主君。両手を前に出して、掌は上に向けてね?」

「え?こう―――わっ」

エレナの言う通り両手を前に出した彼女は突然の重みを感じて驚いた声を漏らす、それと同時に背後からも衝撃を受けたことで視線を向けるとトウカが抱き着いている。

「トウカ!急に消えてビックリしたよ、大丈夫?私が言うのもなんだけど、あんまり無茶はしないでね?」

「・・・んっ」

トウカの頷きを確認した彼女は微笑みを浮かべ、再び視線を前方に戻すとトウカより頭一つ小さな少女が目を回す姿があった。

「きゅぅ~」

トウカを引き離すために転移魔法を連発した影響で魔力切れを起こし、さらに転移酔いを起こして気を失っているようだった。

「・・・モフモフ、耳だったんだ。ウサギさん、かな?」

壺から出ていた何かは少女の頭から生える獣耳であり、目を回す少女が獣人であることを表している。

「どうする、主君?今なら絞めれるけど?」

「そんなことしないよっ!?と、とりあえず起きるのを待とうか?ちょうどあそこにベンチがあるから、ね?」

彼女の言葉に少女へと獲物を狩る視線を向けていたエレナは渋々頷き、トウカは彼女に抱き着く力を強めながら頷きを返すのだった。



「ぅにゅっ・・・?わたちっ――ひょわっ」

ボンヤリと広がる視界と冴えない頭で考えていた少女は気を失う前のことを思い出して身体を起こそうとすると、自身を見下ろす彼女の姿を確認して驚きの声を漏らす。

「あ、よかった・・・目が覚めたんだね、もう大丈夫?もう少し横になってる?」

「ふぇやっ!?えぇっとあのそのうーんと・・・もう、少しだけっ―――ひゅえっ!?」

彼女の厚意に甘えようと返事をした少女は、二つの射殺すような視線を感じて身体を強張らせる。

「・・・ん」

「目が覚めたんなら、さっさと起きたらどうなの?主君の手を煩わせるなんて・・・獣畜生風情が」

「もうっ、二人とも。そうやって怖がらせるようなこと言っちゃダメ、貴女も気にせずゆっくり休んでね?」

ムッとした彼女にそう(たしな)められた二体の竜族は困った様子で彼女に縋りつく、そんな二体の竜族に苦笑しながらもしっかり受け止めて優しく撫でたりしていた。



彼女に膝枕をされること数分、少女はゆっくりと身体を起こすと彼女に頭を下げる。

「もももももっ、もう大丈夫でしゅ・・・!ふぐぅっ・・・」

どもったり嚙んだりしながらも言葉を紡いだ少女は、うまく口が回らないことに顔を歪めて歯噛みする。

「落ち着いてゆっくり話してくれればいいよ、私も同じようなことになるから」

身体を起こした少女の頭を優しく撫でて微笑む彼女に、少女は困惑した様子でアタフタしながらも控えめに頷いて返す。

「そういえばロウさんはいないのかな?顔を見せるのと買い物をしに来たんだけど・・・」

彼女の言葉に垂れ気味だった兎耳がピンッと立ち、もごもごと言い淀みながらも何とか口を開く。

「ろっ、ロウさんは奥で作業中で・・・ここっ、この時間はいつもお客しゃんはいないので・・・わたちがお店番をしてるんです、はぅ・・・」

少女の返事になるほどと頷いてからベンチの隅に置いてある買う物へと視線を向ける彼女、それに気付いた少女は胸の前で拳を握って声をかける。

「わ、わたちがお会計しましゅ!それぐらいなら、わたちでもできますからっ!」

「かなり不安だけど、本当にできるの?」

エレナの疑うような視線に怯えながらもしっかりと頷く少女に、彼女は微笑みを浮かべて口を開く。

「じゃあお願いしようかな?あっ、そういえば自己紹介がまだだったね。私は寧々っていうんだ、貴女の名前は?」

彼女の問い掛けに少しの間ポカンとしていた少女だが、ハッとした様子で恐る恐る口を開く。

「ふぇっ?わ、わたちは『ウーラ』っていいます・・・けど?」

「ウーラさん、ちゃん?かな・・・よろしくね?」

差し出された手を見てキョトンとしていたウーラだが、それが握手を求めているのだと気付くと花が咲いたような笑みを浮かべて固く握り締める。

「こここっ、こちらこそ!すすすぇ長く、よろしくお願いしましゅっ!ネネさま!」

キラキラとした瞳で彼女を見つめながらそう口にするウーラに、今度は彼女が困惑した様子を浮かべるのだった。



「回復ポーションが五つと植物図鑑と魔物図鑑が一点ずつで、合計銀貨一枚と銅貨一枚です!」

商品を見てすぐに会計をしたウーラに対して、彼女は革袋から金貨を一枚取り出す。

「えっと、金貨しかないんですけど・・・」

「でしたら銀貨八枚と銅貨九枚のお返しです、ありがとうございました!・・・はふぅ」

お釣りを手渡し終えたウーラは一息吐き、彼女たちの視線に気付くと慌てて頭を下げる。

「えええっ、えっとあのえと・・・」

「会計してる時だけハキハキと喋るのね、正直意外だわ」

エレナの感想に彼女とトウカも頷いて同意し、ウーラは恥ずかしそうにカウンターを盾にして隠れる・・・が相変わらずその長い耳は出たままだった。

「何やら話し声が聞こえると思ったら、ネネさんたちだったんですね。いらっしゃいませ、ようやく来てくれたんですね・・・待ちくたびれてしまいましたよ」

ウーラの行動を眺めていた彼女たちが声の方へと視線を向けると、商人のロウが明るい笑顔を浮かべてお店の奥から姿を見せた所だった。

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