第六節
「えぇっと・・・説明を続けてもいいですか?―――ひんっ!?」
抱き合う彼女たちに意を決して声をかけたルースナだったが、エレナの鋭い視線とトウカの無感情な瞳を向けられて思わず悲鳴を漏らす。
「あっ、はい・・・えと、大丈夫ですから続けてください」
彼女が二体の頭を優しく撫でながらそう返事をしたことで向けられていた圧が霧散し、ルースナは安堵の息を吐いてから深呼吸をして説明を再開する。
「Dランクになったということで、採取クエスト以外に討伐クエストも受けられるようになりました。報酬は採取よりも高いですけど、危険も同じように高くなってます・・・できるならあまりネネさんに危険なことはしてほしくないですけど」
不安げに獣耳を伏せて口にするルースナの姿を見て、エレナはタメ息のように息を吐いてから口を開く。
「アタシとトウカがいるんだから、主君には指一本触れさせないわよっ!・・・獣畜生風情が、アタシたちの力を見くびってるの?」
向ける視線は鋭く、かけられた言葉は氷のように冷たくて・・・ルースナは恐怖のあまり、悲鳴すら口にできずに顔を青ざめる。
「エレナ、ルースナさんは純粋に私を心配してくれてるだけだよ。だからそういう酷いことは言っちゃ駄目、私でも怒るんだからね?」
「むっ・・・主君がそう言うなら、アタシも別に文句はないけど。あと、怒らないでっ」
彼女に声をかけられて怒気を収めたエレナは、握り締める彼女の手の温もりを感じることに専念し始める。
「ひふぅ・・・すっ、すみません・・・ネネさん、助かりましたぁ」
ルースナにお礼を言われた彼女はエレナの威圧感を感じられないために何のことかわからず疑問符を浮かべる、数回深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻したルースナは話の続きを口にする。
「それと、これが今回の竜族撃退の報酬です」
受付台の下から取り出された大きな皮袋を見て、彼女は驚いて目を大きく見開く。
「えっ、えぇっと・・・あ!ラメさんたちの分も入ってる、ってことですね!」
「いえ、それがネネの取り分よ」
突然背後から声をかけられた彼女は大きく肩を震わせ、振り返ると声をかけたラメとそのパーティメンバーであるオクトとクラーが立っていた。
「元々はそれより多くあったんだけど、先に三等分しておいたの。っといっても私たちが三割ずつで、ネネたちが四割で少し多めにしているけど」
「え、どうしてですか?」
心底不思議そうに尋ねる彼女に、ラメは困ったような笑みを浮かべて口を開く。
「どうしてって・・・あの中で一番頑張ったのがネネたちだからよ、貴女たちがいなかったら結界すら抜けられなくて廃城にすら入れなかったんだから」
「たしかになー、実際俺ら何もしてないよな?」
「それは言わない方がいいのではないか?・・・一応俺は、強化魔法とか使ったりしたけど」
ラメの言葉に同意するようにそう口にするオクトとクラー、彼女はどうしたらいいか分からずに困惑した表情を浮かべていたが胸を張ったエレナが口を開く。
「まぁ、主君だもの。当然の評価よねっ!」
「んっ!」
エレナの言葉に肯定の頷きを力強くするトウカ、ラメはその姿を眺めながら少し表情が険しくなる。
「ネネ、あとで宿屋の部屋に寄ってもいいかしら?色々話したいこともあるし、ね?」
「ふぇっ・・・?あっ、はい!わかりましたっ」
耳元で囁くようにそう口にしたラメにキョトンとした顔を浮かべる彼女だが、ラメの視線がエレナに向いていることに気付いて肯定の返事をする。
「ん・・・!」
「ぁたっ!?」
ラメを押し退けながら彼女の側に移動したトウカはその勢いのまま彼女に抱き着く、エレナは酷く冷めた視線をラメへと向ける。
「・・・下等生物がっ、主君に近づくなんていい度胸じゃない」
エレナはそう言葉を発したと同時に殺気をラメへと向け、それを受けたラメは喉を引き攣らせながら顔を青褪める。
「え、エレナ・・・!落ち着いてっ!ね?ラメさんは良い人で色々助けてもらってるの、だから怖がらせることはしないでっ・・・!」
ラメの様子に気付いた彼女がエレナに声をかけながらその手を握る、すると殺気は消え失せて視線を彼女へと戻して微笑みを浮かべる。
「主君がそう言うならいいけど、あんまり人間を信じない方がいいわよ?腹が黒くて野心が溢れてる奴が多いから、信じるのはアタシたちだけでいいのよ?」
「も、もちろんエレナとトウカも信じてるよ。でもラメさんは何て言うか、頼りになる近所のお姉さん・・・みたいな感じかな?」
彼女の言葉を聞いて眉を顰めたエレナは、彼女の耳元に顔を近づけると囁く声で語り掛ける。
「アタシのことも、もっと頼っていいのよ?むしろアタシ以外を頼ってほしくないんだけど・・・?」
「えっ、えぇっとそれは・・・か、考えておきます・・・」
エレナの囁く声にドギマギしながらも何とか返事をする彼女に、エレナは満足そうに頷いてから彼女の頬に自身の頬を擦り合わせてから身体を離す。
「ひゃわっ・・・!?も、もうっ!エレナ、くすぐったいよ・・・!」
「ごめんなさい、主君が可愛すぎてついっ―――ぃたっ!?」
「ん・・・?」
頬を朱に染めながらそう口にする彼女に笑みを浮かべるエレナだが、トウカに脇を高速で叩かれて身体を仰け反らせる。
「トウカ、アンタねぇ・・・!」
「ん・・・!」
睨み合いを始める二体に、彼女は慌てて間に滑り込むと両者の手を握って口を開く。
「ふ、二人とも・・・!一旦宿屋に戻ろっか?ラメさん、お先に失礼しますっ!」
「え、えぇ・・・あとで部屋に向かうからー・・・って、行っちゃった」
ラメの言葉を最後まで聞かずに足早でギルドを後にする彼女たちを見送ったラメは、苦笑を浮かべながらもギルドでの用事を終わらせるために自身のパーティメンバーに声をかけて受付に向かうのだった――――
―――――〇▲▲▲〇―――――
宿屋へと大急ぎで戻ってきた彼女は、荒くなる息を整えてから手を握る二体へと向き直る。
「へぇ、ここが今主君が泊まってる部屋・・・」
部屋を見回してそう声を漏らすエレナ、彼女はトウカに手を引かれるままにベッドに腰を下ろすとその足の上にトウカが座る。
「いや、何自然な流れのように座ってるの?あっ、主君のことじゃないからね」
エレナの主張を聞いて腰を浮かそうとする彼女を制すると、その隣に腰を下ろして身体を寄せる。
「え?そうなの・・・?」
「そうなの、アタシはトウカに言ったんだけど・・・ってコイツ、もう寝てるっ・・・!」
驚きの声をあげるエレナに導かれるように視線を下げた彼女は、自身の胸に顔をうずめて穏やかな寝息を漏らすトウカの姿を確認する。
「っていうか、なんで向かい合って座ったのよ。トウカの奴・・・もしかして、血の盟約を結ばせないように邪魔を・・・?」
そう口にして考え込むように唸るエレナに、そういえば血の盟約を結ぼうとしていたことを思い出した彼女は顔が熱を持つのを感じて手を当てる。
「(あっ、そういえばエレナが廃城で言ってた!血の盟約は竜族の血を身体に取り込めばいい、って!つまり・・・)キス、はしなくていい・・・のかな?」
「え、なんで?トウカとしたんだもの、アタシともしてもらうに決まってるじゃない」
何言ってるの?と言いたげな視線を向けるエレナに対して、彼女は頬を朱に染めながら慌てて口を開く。
「ででっ、でも・・・!別に無理にキスをしなくても、いいのでは・・・?」
「キスっていうか、血の口移しだけどね。ただ指から滴る血を飲むだけなんて味気ないわ、あとトウカだけとかズルい」
説得しようと試みた彼女だがすぐに失敗し、身体を動かそうにも自身に抱き着いて眠るトウカと、腰に手を回して引き寄せるエレナによって身動きが取れずにさらに狼狽する。
「むっ・・・主君はアタシのこと、キライ?」
少し落ち込んだ様子でそう口にするエレナに、彼女は慌てて首を横に振ってから口を開く。
「そっ、そんなことない・・・!会って間もないけど、私はエレナのこと好きだよ。私を護ろうとしてくれたり、一緒に居てくれるだけでも心強いし・・・」
「本当に?本当にアタシのこと、好き?」
「う、うん・・・もちろん、だよ?」
「本当の本当に?」
「うん、本当の本当にっ」
「本当の本当の本当に?」
「(な、何回聞くんだろう・・・?)本当だよ、嘘じゃないよっ」
「本当の本当にキスしてくれる?」
「もうっ!本当にキスしてあげるってば!・・・あれ?」
数回も同じやり取りを繰り返すエレナに痺れを切らした彼女は、大きな声で肯定の返事をしたが微かな違和感を覚えて首を傾げる。
「あっ、えぅ・・・今のは、そのっ―――んむっ」
自身が口にした言葉を思い返した彼女は耳まで赤くしてしどろもどろになっていると、柔らかいものに唇を塞がれて言葉を途切れさせる。
「言質、取ったからね?」
「へ、あっ・・・~~~っ!?」
自身の唇に人差し指を当てて微笑みを浮かべるエレナに、彼女は遅れて唇を重ね合わせたのだと気付いて声にならない声を漏らす。
「ほら、主君!そんなに狼狽えてないで、早くキスして?」
エレナの催促にアタフタしていた彼女は気を取り直し、一つ深呼吸してから口を開く。
「えっ、でもさっき・・・」
「さっきのはただのキスで、血を飲ませてないでしょ?それに主君から''してあげる,,って言ってくれたわよね?だから、んっ」
軽く唇を尖らせて瞼を閉じたエレナに、彼女は慌てた様子で視線を右往左往させていたが・・・微動だにしないエレナを見て決心を固めたのか、エレナの頬に手を添えると自身の顔を近づけ―――
「ネネ、いるかしら?話をしに来たんだけど、開けてくれる?」
―――身体を大きく跳ねさせた彼女が咄嗟に身を引いてうるさく鳴り響く胸に手を当て、エレナはもう少しのところを邪魔されたことに怒りを覚えて鋭い視線を扉に向ける。
「? ネネ?・・・いないのかしら?」
居留守を使えばこの続きが出来ると考えたエレナだが、それを察した彼女が慌てて口を開く。
「あっ、う・・・い、います!いますけど、ちょっと待って下さいっ・・・!」
「?? え、えぇ・・・?」
困惑しながらも了承の返事をしたラメに安堵の息を吐いてから、扉を睨むエレナの方を優しく叩いて意識を自身に向けさせる。
「むっ?どうかしたの、主くっ―――ん、ちゅっ・・・?」
視界いっぱいに広がる彼女の顔と軽い衝撃を受けた唇にキョトンとするエレナ、彼女は恥ずかしさで視線を逸らしながらも口を開く。
「い、今はこれで我慢して・・・ね?あっ、ラメさん。今開けますね!」
寝息を漏らすトウカを抱きかかえるようにして立ち上がった彼女は、部屋の外で待たせているラメのために扉の鍵を開けて中に招き入れる。
「戸締まりもちゃんとできるようになったのね、それよりもしかして着替え中だった?なら一度出直すけど?」
「いっ、いえ・・・!そういうわけではないので気にしないでください!そんなことより話を始めちゃいましょうっ!」
慌てる彼女の姿を眺めながらナニをしていたのかを妄想するラメは、ふとベッドに座る今回の話の主役であるエレナが微動だにせず固まっている姿を視界に捉える。
「あの娘、何かあったの?」
「えっ!?ささっ、さぁ・・・?私にも、さっぱり・・・」
明らかな動揺と視線を彷徨わせながら震える声で返事をする彼女に、隠しきれてない様子が可愛いという的外れな考えを抱くラメであった。
「それで?わざわざ主君の部屋に上がり込んで、何を聞き出そうっていうの?」
気を取り直したエレナがラメを睨むような視線を向けながらの問い掛けに、ラメはたじろいだ様子を見せながらもどうにか口を開く。
「そうね・・・まずは、ネネが乗ってきた馬について聞いてもいいかしら?」
「あの子のこと、ですか?あの子は廃城に入って少し進んだ部屋に繋がれていて、飼い主もいないようだったので鎖を解いてあげたんです。あ、鎖を解いたのはトウカですけど・・・その後は崩れた小山の下で再会して、この街まで乗せてもらったんです」
彼女の言葉に少なからず驚きの表情を浮かべるラメは、すぐに考え込むように顎に手を当てる。
「そう・・・(廃城に繋がれていた魔鬼馬、つまり乗ってきた魔族がいたってことね。それも竜族が来る前から、これは少し廃城に探りを入れたほうがいいかもしれないわね)ネネが魔鬼馬を手懐けるなんてね、それとも竜族の存在を恐れたのかしら?」
「え、いえっ・・・私は鎖を解いただけですし、トウカにも怯えてる素振りはありませんでしたよ?解いたのも私じゃありませんから」
彼女には人や獣を惹きつける何かがあるのだろうか?と真剣に思考を巡らせるラメ、彼女は突然真剣な瞳を向けられたことに首を傾げて疑問符を浮かべる。
「・・・・・・ダメね、ネネの仕草が可愛いということしかわからないわ」
長い思考を経て辿り着いた答えを口にするラメに、彼女は驚いた表情を浮かべながら頬を朱に染める。
「いいっ、いきなりなんですか!?ラメさんっ!?」
「主君の言うとおりよ、主君が可愛いのは最初っからなんだから今さら何言ってるのよ」
彼女の言葉に賛同したかに見えたエレナだったが、ラメの言葉の否定ではなく分かりきったことを言うなというものだった。
「えっ、エレナまで・・・!?」
まさかそんな返しが来るとは思わなかった彼女は驚いた表情を隣に腰掛けるエレナに向ける、視線を向けられたエレナはどうしたの?という疑問符を浮かべている。
「そうね・・・たしかにそれは当たり前のことだったわ、ごめんなさい」
「分かればいいのよ」
ラメが申し訳なさそうに謝罪を口にすると、胸を張ったエレナがふふんっと鼻を鳴らしながら自らのことのように自慢げに頷く。
「ふっ、二人とも・・・!かかっ、からかわないでくださいよっ・・・!」
顔を真っ赤に染めて怒ったように声をあげる彼女の姿を見て、エレナとラメは小動物の威嚇を思い浮かべて自然と微笑みを浮かべるのだった。
「――こほんっ・・・それで次は、その娘のことなんだけど・・・」
一つ咳払いをしてそう切り出したラメに対して、エレナは最初に比べて少しだけ棘の少なくなった口調で言葉を交わす。
「まぁ、アンタはもう知っているみたいだけど。アタシはトウカと同じ竜族よ、そして主君に仇なす者を砕く鉾・・・下等生物に名乗る名はないわ」
それでも高圧的な態度は変わらず、ある程度予想はしていたのかラメは特に気分を害した様子もなく静かに頷く。
「あくまで特別はネネだけというわけね、参考までに何でネネを主として従っているのか聞いてもいいかしら?」
ラメの問いに怪訝そうな表情を浮かべるエレナは、少し考える素振りを見せてから口を開く。
「もしかしてそこまで知られていないの?ならアタシから言うことはないわ、主君がアタシたちの主君だからとしかね」
「? それはどういう・・・?」
ラメの疑問に答える気はないとばかりに視線を彼女へと向けるエレナ、その姿を見て追求は無駄と判断したラメは調べることが増えたなと小さなタメ息を吐く。
「えぇっと・・・ラメさん、あの騎士団長さんと一緒にいた勇者?たちはあの後どうなりましたか?」
恐る恐るといった様子で尋ねる彼女に、一旦思考を切り替えたラメは人差し指を頬に当ててから口を開く。
「そうね・・・一応皆無事ではあったわよ、ただ竜族の力を見て戦いに恐怖を抱いている子が何人もいたわね。ネネは、大丈夫?無理はしていない?」
「あっ、はい。私は大丈夫ですよ、トウカとエレナが側にいてくれますから」
ラメの心配する声に二体に視線を向けて微笑みながらそう返した彼女に、エレナは頼られて嬉しいのか自慢気に鼻を鳴らして豊満な膨らみを揺らしながら胸を張る。
「当たり前ね!アタシがいるからには虫ケラ如き、全て叩き潰してあげるわっ!だから主君は安心してアタシを頼ってよね!」
「うんっ。ありがとう、エレナ・・・いっぱい頼っちゃうかもしれないけど、その分私にできることはさせてほしいな」
彼女の返事にさらに気分を良くしたエレナは、彼女の腕に抱き着くようにして体重を預ける。
「むふふーっ、アタシに任せてくれれば万事解決よ!」
満面の笑みを浮かべて彼女の頬に自身の頬を擦り合わせるようにして頬擦りするエレナ、彼女はその行動に困ったような笑みを浮かべながらも口角は嬉しそうに上がっていた。
「ん、んんっ・・・ん?」
彼女の正面から抱き着くようにして眠りに落ちていたトウカだが、エレナが頬擦りする度に起こる揺れで目を覚ます。
「あっ、トウカ。ゴメンね、起こしちゃった?」
「ん、んー・・・んちゅぅ」
ポーッと寝惚け眼で彼女を見つめていたトウカは、何かに吸い寄せられるように柔和な笑みを浮かべる彼女の首筋に自身の唇を押し当てて吸い付いた。
「ひゃっ、ぁう・・・ひあぁっ、んぅ・・・」
「んちゅ、んちゅぅ・・・」
「―――って!主君に何してんのよ、アンタはっ!!」
突然生じた刺激に驚きの声をあげる彼女を気にした様子もなく吸い付き続けるトウカ、唖然とするラメをよそにいち早く気を取り直したエレナがトウカを引き剥がしたことで事なきを得る。
「んんーっ・・・!――ん?」
彼女から離されたことに不満げな声を漏らしていたトウカだが、ふと眠たげだった瞳を見開いて周りに視線を向ける。
「はぁ・・・まさか寝ぼけていても主君を求めるなんて、本当に甘えたがりね。アンタは」
「? ん・・・?」
意識のはっきりしたトウカはなんのことがわからないといった様子で首を傾げる、その姿を見て彼女は荒くなった息を整えながら考える。
「(そういえば、この宿に泊まってから虫さされみたいなものをよく鏡で見つけたけど・・・あれってもしかして、トウカが―――)うぅー・・・」
唸り声を上げる彼女に疑問符を浮かべるトウカと何かを察して鋭い視線を元凶へと向けるエレナ、そんな状況の中でラメは空気を変えようと咳払いを挟んでから口を開く。
「私の部屋のベッドで同じ姿を見たいから、来てもらっていいかしら?(今のは見なかったことにするから安心してね、ネネ)」
「本音と建前が逆になってるわよ」
エレナの指摘にハッとした表情を浮かべるラメと頬を赤く染めてあたふたと慌てる彼女、そんな彼女を護るように抱き着きながら威嚇するトウカの姿に気付いたラメは頬に手を当ててニコリと微笑む。。
「あら、うっかり。ついネネが可愛すぎて感情を抑えられなかったみたいね、今のは忘れ―――なくても全然大丈夫ね、私がネネをそれだけ想ってるって知ってもらえたんだし」
ある意味開き直ったラメの言葉に更に赤みを増す彼女と身体から放電と冷気を放つエレナとトウカ、さすがにこれ以上はマズいと考えたラメは素早く立ち上がると扉まで歩み寄る。
「少し長居しすぎたわね、私はそろそろお暇させてもらおうかしら・・・っとそうだ、ネネ。結構なお金が貯まっているでしょうから、ロウさんのお店に行ってみたら?ロウさんもなかなかネネが来てくれないって拗ねていたし、いい機会だと思うわよ?それじゃあ、またね」
少し早口で要件を伝えたラメは彼女が引き止める間もなくそそくさと部屋を後にする、その姿にポカンとした表情を浮かべていた彼女だったがすぐにハッとして言われた内容を思い返す。
「ラメさんの言う通り、ロウさんのお店に行ってなかった・・・!まずは依頼をこなしてお金を貯めないとと思ってたから、うっかりしちゃってた」
彼女の呟きを耳にしてそういえばそんな奴いたなと内心で思うトウカと、知らない者の名を口にする彼女に少しだけムッとしたエレナが口を開く。
「主君、ロウって誰?アタシそんな奴知らないんだけど、ちゃんと説明してよっ」
勢いよく顔を間近まで近づけながらの問いかけに彼女は胸を跳ねさせながらも、しっかりと向けられる視線を見つめ返しつつ言葉を返す。
「えっと、ロウさんはトウカに会った後に出会った人で・・・盗賊?に襲われてるのをトウカが助けたことでお礼としてこの『スロー』の街に送ってもらった商人さん、かな?別れ際にお店の場所とご贔屓にすることを約束した間柄、かも?」
彼女の言葉の真偽を確かめるべくトウカに視線を向けるとしっかりとした頷きを返され、エレナは納得した様子で元の位置まで顔を戻す。
「今日はもう遅いから、明日教えてもらったお店の場所に行ってみようか」
彼女の決定に異議を唱える者はおらず、代わりにエレナは期待のこもった視線を彼女へと向ける。
「うっ・・・わ、わかってるよ。血の盟約を結ぶんだよね?トウカ、少し離れてくれる?」
「んーっ・・・・・・ん」
長く思考を巡らせていたトウカだが、嫌々ながらも渋々彼女に抱き着くのをやめてベッドに寝転がる。
「アンタもしたんだから文句言わないの、それじゃあ主君・・・っ、んぁ」
「ぅっ、うん・・・んっ、ちゅっ・・・」
少しの間を置いて口を開いたエレナの口内には赤い液体が満たされており、傷がついた舌を目にした彼女は少し顔を曇らせながらも意を決して口付けを交わす。
「んっ、ちゅぱ・・・ちゅぅ、ちゅぷっ・・・」
「んくっ、んん・・・こく、んぷっ・・・」
すると彼女の口内へとエレナの血が流し込まれ、それと同時にエレナの舌も滑り込んでくる。
「ちゅぷ、ちゅくっ・・・ぷぁっ、これぐらいでいいわね」
「ぷはっ・・・!トウカの時よりも飲んだ気がする・・・(けど甘く飲みやすくて、何だか癖になりそっ―――)って、何考えてるの!?」
突然大きな声をあげる彼女に驚いた表情を浮かべる二体、それに気付いてなんでもないと伝えた彼女は下腹部に熱を持つ感覚を受けて表情を歪める。
「――くっ、あぅ・・・!この、感覚・・・っ!ぁくぅっ・・・!」
前回よりも強い感覚に呻き声を漏らしたのも束の間、スッと熱が引いたことで彼女もホッと息を吐く。
「これでもう主君はアタシの番ね、それじゃあさっそくっ―――ぁいたっ!?」
「んっ!」
言葉を遮るように拳を叩き込んだトウカと横やり(物理)を入れてきたことに鋭い視線を向けて対峙するエレナ、そんな二体をよそに服をたくし上げて下腹部を確認した彼女はおへそを囲むように二つの紋章が円を描いているのを目にする。
「たしかに増えてる・・・これで私は、トウカとエレナの番に・・・はぅっ」
番という単語に少し夜の光景が浮かんでしまった彼女は熱くなる頬に手を当てて身動ぎする、その姿に気付いた二体の竜族は睨み合いをやめて彼女に静かに忍び寄る。
「うぅぅっ・・・ひゃっ!?ふ、二人とも・・・?」
トウカは身動ぎする彼女の足に身体を乗せ、エレナは後ろから抱き着いて彼女の髪に頬擦りする。
「んーっ」
「主君の姿が可愛くてつい我慢が出来なかったの、このまま一緒に寝よ?」
「えっ、えぇっと・・・ひゃぁっ」
彼女が自身の妄想の影響で答えに窮している間にエレナに引っ張られる形でベッドに倒れ込み、その上にトウカが抱き着くようにして寝転ぶ。
「んんっ、スンッ・・・主君の温もりと匂い、最高・・・すぅ、すぅ・・・」
「んー、んんっ・・・ん・・・」
一人アタフタしていた彼女だが、二体の竜族は安心感に包まれるようにしてすぐに眠りに落ちていった。
「あ、あれ・・・?っ、はうぅ・・・なんだか、私が期待してたみたい・・・は、恥ずかしい・・・!」
トウカとエレナの寝息を聞きながら、彼女は邪な妄想を抱いていた自身の恥ずかしさに悶えるのだった。




