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彼女が竜族の神子と呼ばれるまで  作者: にゃんたるとうふ
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幼馴染 SIDE

その日もいつもと変わらない日常だった―――


自身の周りを囲むようにして群がるクラスメイトに内心でウンザリしながら、チラッと視線を向けた先には帰り支度を済ませた幼馴染が視線を向けている。

「(はぁぁっ・・・いつ見ても寧々は可愛い、どんな宝石よりも綺麗に輝く艶やかな黒髪に透き通る湖よりも澄んだ黒い瞳。大きすぎず形の整った胸と安産型のお尻、出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいる完璧なプロポーション!どうしてあんな素敵な幼馴染がいるのに私は女なの!?男だったら今頃あんなことやこんなこと――)っ!」

凄まじい速度で思考を巡らせていた少女『四葉 瑠子』は、幼馴染『竜胆 寧々』から向けられる視線の合図に気付いて周りにバレないように頷きを返す。

「(今日はどうするか、そんなのいつも通り八時過ぎに寧々の家に行くよ!本当はすぐにでも向かいたいけど、周りの有象無象が無駄に騒いで邪魔だから行けない・・・本当に目障りな連中っ!!)・・・はぁ」

タメ息を漏らす瑠子に心配そうに話しかけるクラスメイト達に当たり障りのない返事をして、教室を後にする彼女を見送ろうと視線を向けた瞬間・・・光が視界を白く塗り潰すのに気付いた瑠子は、咄嗟に彼女に駆け寄ろうと声をあげる。

「―――寧々ッ!!」

しかし瑠子の行動は意味をなさず、無情にも伸ばした手は空を切った――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






「貴女方にはこの世界で生き抜ける才能と、ステータスの更新を行います。これはすぐに忘れるただの夢、貴女方の旅路に幸多からんことを―――」

頭に響く声が薄れていく中で、最後に慌てたような声色で叫ぶのが聞こえた気がした――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






白く塗り潰された視界が晴れていく内に、瑠子は周りの景色が一変していることに気付く。

「ここは・・・」

誰かがそう呟いたことで他の面々も周りに意識を向けて驚いた表情を浮かべる、そんな中で瑠子は周りの景色よりも先に確認すべきことの為に視線を彷徨わせる。

「(寧々、寧々はっ!?いない・・・いないいないいないっ!!)っ、どういうこと・・・っ?」

忙しなく視線を向けていると肩を優しく叩かれ、少し苛立ちを覚えながら視線を向けると自身の双子の兄『四葉 璃玖』が難しい顔をして立っていた。

「璃玖・・・!寧々、寧々がっ!」

「シッ、瑠子・・・落ち着いて、今はこの状況の把握が先決だ」

璃玖の言葉にグッと口を噤んで苛立たしげに眉を顰める瑠子に、璃玖は苦笑を浮かべながらも視線を周囲へと向ける。

「――よくぞ召喚に応じてくれた、次代の勇者たちよっ!!」

自分たちがいるのがいわゆるお城で王様と会うべき部屋の謁見の間であることを確認してすぐ、大きな声と共に周りを囲むように立っていた騎士たちが片膝をつく。

「そなたたちを呼んだのはこの世界を救うため、どうか力を貸してはくれぬか?」

玉座に座って瑠子たちを見下ろすこの国の王と思しき老人を目にした瑠子は、幼馴染を探すために利用できると考えて口を開こうとして・・・それよりも早く他の男子生徒が口を開く。

「まずはこの状況を説明すんのが先だろうが、ジジイ」

顔を苛立ちで歪めた金髪の男子生徒『翁草 匠』の発した言葉遣いに、片膝をついた騎士たちに動揺の波が広がってざわめきが起こる。

「――匠っ!初対面の人に失礼だぞ!」

「うるせぇぞ、璃玖。俺は此処にいる全員が思ってることを口にしただけだっつうの、そうだろぉ!」

匠の声にクラスメイト達は少なからず頷きや呟きで肯定の意を返し、その光景を見て満足そうに頷いて璃玖へと視線を向ける匠を眺めていた王は静かに口を開く。

「おぉ、そうか・・・そういえばそうじゃったな、大臣よ。この若人たちにこの国の現状と呼んだ理由を説明してやってくれ」

「はっ・・・!」

王が玉座が置かれた階段下に控えていたまだ若い青年へと声をかけると、恭しく頭を垂れた青年は一歩前に足を踏み出してから瑠子たちへと顔を向けると口を開く。

「私は我が国『サフォット国』の大臣を務める『オティディロプ』という者です、貴女方を呼んだ理由は遥か昔に封印した魔王が復活の兆しを見せているからです。各地で魔物の出現頻度と行動の活発化が見られ、被害も多く出ています・・・今は冒険者や聖騎士団の力で抑えられていますが、魔物を従える四天王や魔王が復活してしまえば手が付けられなくなる。それを恐れた我々は魔王を打倒して封印した太古の勇者を呼び出した召喚式に目をつけ、今こうして新たな勇者である君たちを呼び出したのです」

長々とした説明を終えて一礼した大臣は会釈をして元の位置へと下がり、それを見届けた王が再び口を開く。

「そういうわけでこの国は、いや大陸全土が危機に瀕しておるのだ。どうかこの世に安寧をもたらしてはくれまいか、もちろん無償というわけではない・・・魔王討伐が成功した暁には、そなたたちの願いを一つずつ叶えてしんぜよう。流石に無茶苦茶な願いは無理だが、叶えられるものは全て叶えよう」

王の発した言葉に瑠子と璃玖以外の全員が嬉々とした声をあげながら仲の良い者たちで会話を始める、その様子を眺めていた大臣が咳払いを一つしてから口を開く。

「まずは貴女方の才能とステータスを見てみましょう、そこからその者にふさわしい職業を割り当てて鍛錬をしてもらいます」

そう口にした大臣が手を叩くと、ローブに身を包んだ数人の男性が水晶の乗った台座を瑠子たちの側に配置する。

「それでは一人ずつこの水晶に手を置いてください、そうすることで下の台座から才能とステータスの書かれた紙が出てきますので・・・」

大臣の言葉を聞いたクラスメイト達が我先にと水晶の前に列を作るのを見て、瑠子は呆れた視線を向けながら息を吐く。

「そんなこと、どうでもいいのに・・・早く寧々を探さないと、なんで寧々だけこの場にいないのっ」

「嘆いていてもしょうがない、寧々のことだ。きっと無事に生き延びるだろう、もしかしたらもう仲間を見つけているかもしれないよ?」

「それはそれで困るんだけど・・・」

璃玖の返しに瑠子は苦々しい表情を浮かべてそう口にする、そして水晶の前が空いてきたのを見計らって足を踏み出す。

「ふぅ・・・」

小さく息を吐いた瑠子が水晶を手で触れると輝きを放ち、台座が小刻みに震えると紙がゆっくりと吐き出される。

「(FAXみたいだ・・・)」

この場にいない幼馴染ときしくも同じことを考えた瑠子は、吐き出された紙を一瞥してからローブの男性へと手渡して元の位置に戻る。

タイミングを同じくして戻ってきた璃玖は薄っすらと微笑みを浮かべ、瑠子はその表情を確認していい結果でも出たのかとあたりをつける。

「皆の結果が出たようじゃな、ではっ「あのっ!」――むっ?」

王が言葉を言い切る前にそれを遮るように声をあげた瑠子に、その場にいる者たちが全員不思議そうに視線を向ける。

「光に包まれた者がこの場に呼ばれたのなら、私の幼馴染の姿がないのはおかしいですっ!もしかしたら別の場所に飛ばされたのかも、どうか探してもらえませんか!?」

「なに・・・?どういうことです?」

瑠子の叫びにも似た訴えを耳にした大臣は訝しげな表情を浮かべて召喚士へと視線を向ける、視線を受けた召喚士の女性は申し訳なさそうな表情を浮かべながら慌てて口を開く。

「も、申し訳ありません・・・!すぐにお伝えすべきことだったのですが、どうやら何者かが召喚式に干渉したようでして・・・二十五人の召喚の内ただ一人だけ、この場所とは違う場所に飛ばされたようなのです」

召喚士の説明に大臣は表情を歪めてなぜ報告しなかったのかを視線で問いかける、召喚士はその視線に怯えた様子を見せながらしどろもどろになりながら口を開く。

「か、顔見知りが一人いなければ彼ら彼女らが声をあげると思っていたのです・・・ですが今の今まで声があがらなかったため言う機会を失ってしまい、申し訳ありませんっ!」

「はぁ・・・もうその件は仕方ありません、あとで調べることは変わりませんが。それよりもその一人になってしまっている勇者の捜索をっ「必要ねぇよ」――はい?」

大臣の言葉にかぶせるように口を開いた男子生徒・匠に対して、瑠子は驚いた表情を浮かべて視線を向ける。

「こんな機会だ、もうあんな奴ほっときゃいいんだよ。どうせ見つかる前に野垂れ死ぬのがオチだ、探すだけ無駄だっつうの」

「――は?」

匠の言葉に瑠子は青筋を立ててドスの利いた声を漏らす、さらに黒いオーラを放ちながら鋭い視線を向けられたことで匠はたまらず冷や汗を流して後退る。

「瑠子、落ち着いてっ・・・今は匠と敵対してもデメリットしかない、寧々を探すには人手もいるだろうしね」

璃玖の説得に渋々仕方なく嫌そうに頷いた瑠子は深く息を吐いてそっぽを向く、その姿を見つめていた匠は危機が去ったと考えて内心で安堵の息を吐く。

「ともかく捜索は行います、危険な目に遭っているのなら助けなくてはなりませんし・・・魔族に捕まった上に優れた才能を持っていた場合、苗床として使われる可能性もありますから」

そうなった場合はどうしてくれるんだという鋭い視線を向ける瑠子に対して、大臣は微笑みを返すだけで何かを口にすることはなかった。


「それではさっそくで申し訳ありませんが、自身の持つ才能とステータスに見合った武器等を選んでいただきます。では王よ、私は彼らを鍛錬場へとお連れ致します」

大臣の言葉に王は重々しく頷いて返し、それを確認した大臣は瑠子たちへと向き直るとついてくるように伝えて歩き出す。

「(寧々の捜索はあの騎士たちに一旦任せて、私は力を付けよう・・・寧々を見つけた後もしっかり護れるように、次こそは絶対にその手を掴んで離さないからっ)・・・待ってて、寧々」

囁くような呟きに反比例した強い想いを胸に、瑠子は大切な者に近づくために歩みを進めるのだった。






―――――〇▲▲▲〇―――――






鍛錬場は百人の騎士が集まってもあまりある広さがあり、剣や魔法の暴発を防ぐために周りを結界が覆っており、外に被害が及ばないように配慮されている。

ステータスの味方を簡単に説明した大臣は、一つ手を叩いてから口を開く。

「それではまずは筋力と魔力のランクで別れていただき、そこからそれぞれの才能に合わせての訓練と参りましょう。筋力のランクが高い者はこちらの騎士たちが、そして魔力のランクが高い者はこちらの魔法使いたちの元へと集まってください」

大臣の号令に合わせて自身のステータスを確認したクラスメイト達が動き出す中、瑠子はただ一人手を上げて大臣へと声をかける。

「筋力と魔力のランクが一緒の場合は、どちらに移動すればいいですか?」

瑠子の言葉に大臣が彼女のステータスを確認すると、思考を巡らせながら顎に手を当てつつ口を開く。

「そうですね・・・どちらもBランクという高いランクですから、近接をメインに置いて魔法で自身の強化や牽制に使う、などどうでしょう?」

この世界で数少ない魔法剣士という役職の特徴を口にした大臣に対して、瑠子もそれが妥当かと考えて頷きで返す。

「騎士団長がいれば貴女を任せるのですが、生憎と今は任務に出ていて不在なのです。ですので戻って来し次第、貴女の訓練に助力していただくように話をしておきましょう・・・とりあえず今は騎士の方へと集まっておいてください、では皆さん。後は頼みますよ?」

大臣がそう口にすると騎士と魔法使いは返事をし、大臣は鍛錬場を後にする。

「ではまずは武器の選定と才能の使い方かな、それぞれ気になった武器を手に取ってくれ」

「こっちは選ぶのは杖の大きさぐらいね、高位の魔法使いは杖を使わずに魔法を唱えられるけど・・・今の君たちは初心者だから、まずは身体の中にある魔力を感じる所からね」

騎士と魔法使いの代表の言葉を受けた皆はまたも我先にと武器や杖に殺到する、それを眺める瑠子は呆れた視線を向けて璃玖は苦笑を浮かべていた。



平均的なショートソードを手にした瑠子は軽く振るって自身でも使えることを確認してから、側に立つ女性の騎士に向き直ると才能の使い方についての説明を受ける。

「才能というのはその人によっての秘めた力です、できる人は意識するだけで発現させることができますが・・・本来は長い時間の鍛錬が必要です、しかし勇者の方々は女神様からその才能を授けられると聞きます。ですので、才能の発現は通常よりも容易と言われています」

「なるほど・・・私の才能は、『拘束』?」

この力があれば敵の動きを封じたりすることができると聞いた瑠子は、まず初めに自身の幼馴染の身体を縛ることを思い浮かべる。

「・・・そうすれば、私が好き放題できますね」

「そうですね、有利に事が進められますよ」

瑠子の言葉に頷きと共に返事をした騎士は物分かりが良い子でよかったと安堵の息を吐き、チラッと金髪の男子生徒である匠を担当している騎士へと憐れみの視線を向ける。


「チッ・・・!こんなもんじゃ足りねぇぞ!もっとだ、もっと・・・!」

「お、おいっ!あまりむやみやたらに力を振るうものじゃっ――」

「うるせぇんだよ!俺は力を付けてアイツを見返さなきゃいけねぇんだよっ!!」


騎士の説明に突っかかるようにして声を荒げる匠のことなど気にせずに、瑠子は女性騎士のアドバイスを受けながら順調に才能を扱えるようになっていった。



鍛錬場に来てから数時間が経った頃、騎士や魔法使いの教えの下である程度の戦い方と才能の使い方を学んでいた瑠子たちの元に大臣が姿を見せる。

「皆さま、お疲れ様です。今日の鍛錬はここまでにして、夕食をお召し上がりください。その後は各自のお部屋へとご案内します、ゆっくりお休みください」

それだけ告げると大臣はメイドへと指示を出してその場を後にし、命を受けたメイドについていく形で王城の食堂へと案内された瑠子たちは思い思いに食事を摂り始める。

「はぁっ・・・こんなのんびりしてる場合じゃないっていうのに、呑気な奴等・・・早く寧々を見つけなきゃ、そのためにはもっと力を付けないと・・・!」

「意気込むのは良いけど、あまり根詰めすぎないようにね?瑠子が倒れたりしたら、寧々が心配してしまうからね・・・あっ、もちろん俺もね?」

一人離れた席で食事を摂っていた瑠子の元へとやってきた璃玖はそう口にしながら隣に腰掛ける、その姿を横目で確認した瑠子は特に何も言わずにフォークで刺した肉を口に運ぶ。

「璃玖はたしか魔法を教わってたんだっけ?どうだったの?」

「初級魔法はある程度使えるかな、といっても威力は低いからまだまだだけどね。瑠子は?」

「才能を少し使えたぐらい、剣技はまぁまぁかな?」

「俺はまだ才能は使えてないな、魔法を使うことに力を入れていたから」

お互いの成果を報告し合う瑠子と璃玖を遠目から眺めるクラスメイト達は、話の内容は聞こえていない様子で声をかけるかどうかを思案していた。


瑠子は腰まで伸ばした薄茶色の髪をサイドテールにし、赤みがかった瞳をしていて顔は整っており、胸は慎ましやかだがスラッとした手足と相まったモデル体型である。

璃玖も髪色と瞳は瑠子と一緒だが癖のある髪質であるために髪は短く切り揃えられ、身長は百七十五センチあって身体も多少鍛えられて引き締まっている。

そんな美男美女な二人はクラスメイト達とはどこか線引きしている雰囲気だが、幼馴染である寧々にだけはとても親しげで離れたがらない。

そんな彼女に対して嫉妬などの感情を抱いたクラスメイト達によって、彼女は小さな嫌がらせなどを受けることになってしまった。

もっとも彼女自身はそこまで気にしておらず、幼馴染である二人がいればいいかと半ば諦めのような感情を抱いている。

それにより瑠子は彼女の面倒を一生見ようと心に誓ったり璃玖はそんな二人の様子を慈愛のこもった視線で眺めたりなど、少しだけ向ける感情に変化が起こったりしていたが・・・当の幼馴染である彼女はそんな変化に気付いていないようである。


結局この日は牽制し合うクラスメイト達が瑠子と璃玖に話しかけることはできず、各々が割り当てられた部屋で鍛錬の疲れを癒しながら眠りについた――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






次の日の朝・・・瑠子は気怠さを感じながら目を覚まし、そんな気持ちを吹き飛ばすためにバッグからとある物を取り出した。

「ん、はぁ・・・おはよう、寧々」

バッグから取り出した物は自身の幼馴染である寧々の姿が写った写真で、それを目にした瑠子はニンマリとした笑みを浮かべて頬擦りする。

「寧々、待っててね?すぐに探し出して側を離れられないようにしてあげる、そうすればずっと一緒に居られるもんね?」

手に持つ写真に軽く唇を落とした瑠子は嬉しそうに頬を緩ませてから、明らかに撮られていることに気付いていない下着姿の寧々の姿が写った写真をバッグに仕舞う。

「まずは大臣に寧々が近くにいたかを確認して、あとは早く剣技と才能の使い方を身に着けて寧々の元に行くだけ」

今後の方針を決めた瑠子は一つ気合を入れるように大きく息を吐いてからベッドから立ち上がり、ひとまず朝食を済ませるために食堂を目指して部屋を出た。



食堂へと辿り着いた瑠子が視線を動かすとクラスメイトに囲まれる璃玖の姿を見つけ、近寄ろうと足を踏み出した瞬間に肩を掴まれたのでそちらに視線を向ける。

「おはよーっ、昨日はよく眠れた?ベッドがチョーふかふかであたし熟睡だったんだよねー、そういえば今日はパンがメインの朝食だってさ。サンドイッチとか選び放題だったよー、一緒に食べよーよっ!」

「・・・はぁ」

唐突に親しげに話しかけてくるクラスメイトの一人『大仲 杏』に、瑠子は訝しげな視線を向けながら警戒心を含んだ声を漏らす。

「じゃあ決まりだねっ、あっちで皆待ってるから行こ行こーっ!」

手を握ろうと伸ばされたそれを躱した瑠子は、杏が指差した方で集まる女子生徒たちの元へと歩き出す。

「(急に何?私は寧々のことで頭がいっぱいなのに、ここでも仲良しごっこしろって?そんな面倒くさいことゴメンなんだけど・・・)はぁっ・・・寧々(癒し)が欲しい」

誰にも聞こえぬようにそう呟いた瑠子は内心を表に出すことなく、少しの苛立ちを覚えながら朝食を済ませた。



昨日と同様に鍛錬場へとやって来た瑠子は自身を担当した女性騎士を見つけると歩み寄る、そのことに気付いた女性騎士は柔和な笑みを浮かべて片手を上げる。

「おはよう、今日は随分と早いね・・・心なしか、少し疲れてない?」

「・・・気のせいですよ」

明らかに疲労が残る表情を浮かべる瑠子に訝しげな表情を向ける女性騎士、ちなみに瑠子が疲れた表情をしているのはクラスメイトとのやり取りのせいで鍛錬は関係なかったりする。

「(そういえば、王との謁見の時に幼馴染が行方不明になったと言っていた。不安と力を付けなきゃっていう焦る気持ちが生まれているのかも、この娘はしっかり見ておいてあげた方がいい)ならいいけど・・・それじゃあ少し早いけど、昨日の続きをっ「副団長っ!!」――っ?どうしたの?」

心の中で瑠子をできるだけ支えてあげようと決意したのも束の間、突然鍛錬場に響いた声に女性騎士は疑問符を浮かべながら返事をする。

「あぁ、よかった。部屋にいないので探しましたよ、っと・・・報告です、騎士団長が戻られました」

男性騎士に声をかけられた女性騎士は報告を受けて頬を緩ませたが、すぐに引き締めると咳払いを一つ挟んで口を開く。

「・・・そう、わかった。私は少し席を外すから、彼女を今日担当する魔法使いのあの子に紹介しておいて」

「はっ!」

男性騎士の返事に頷きで返した女性騎士は瑠子へと向き直ると、手を合わせて謝罪の意を示してから足早に鍛錬場を後にする。

「あの人、副団長だったんだ・・・」

女性騎士が副団長だったという事実に驚いたのも束の間、クラスメイト達が続々と集まってきているのを確認して先程の男性騎士に視線を向ける。

「副団長さんが言っていた魔法使いの人の元に案内してください」

「はい、っといってもすでにあちらで待機されていますが」

男性騎士が指を指す方向・・・そこには壁に背をつけて座り、帽子を目深に被って枕を抱き締めながら眠る女性の姿があった。

「・・・あれ?」

瑠子が確認のために騎士へと視線を戻すと、問いかけに苦笑を浮かべながら頷きを返す。

「あぁっ、心配しなくても腕は確かだよ。なんせ彼女は王立魔法教団のトップだからね、ただ少し性格が個性的だったりするだけさ・・・っと、俺が担当する子が来たからそっちに行くよ。一緒に付き添うよりも、君一人で行ったほうがいいからね」

男性騎士はそう言い残して別のクラスメイトの元へと歩き去っていく、それを一瞥してから寝息を漏らす女性に視線を戻す。

「まぁ、行くしかないよね・・・他の有象無象に絡まれるのも面倒だし」

タメ息のようなものを一つ吐いてから、瑠子は早足で眠りこける女性の元へと歩き出した。


身体を上下させて顔を俯かせる女性の側までやって来た瑠子は、ジッと女性を見下ろしながら首を傾げる。

「・・・っ?この人」

そう呟いた瑠子はおもむろに足元に転がる小石を女性目掛けて蹴っ飛ばす、それは難なく女性の俯いていたことで晒されていた頭頂部へと直撃した。

「―――ぃっ、たぁいっ!?普通寝てる人に蹴った石ぶつけるぅ!?タンコブできたらどうするのっ、まったくもう・・・!」

痛みに悶えながらそう主張する女性に対し、瑠子は呆れたような視線を向けながら口を開く。

「狸寝入りしてた人が言う台詞じゃないですよね、何が目的?返答次第では・・・」

迷いなく腰に携えたショートソードに手を添える瑠子を見て、女性は慌てて両手で制しながら口を開く。

「ちょちょちょっ!?ストップストップ!目的ってほどでもないけど、意図は説明するからさっ!おさめておさめてっ」

女性の言葉に渋々ながら従って柄から手を離した瑠子を確認すると、深く息を吐いてからフワリと浮かび上がるようにして立ち上がる。

「理由はとってもシンプル!君の才能を見極める為さっ!」

胸を張ってそう声をあげた女性に呆れた視線を向け続ける瑠子は小さく息を吐き、これは面倒な人を押し付けられただけではと考える。

「あっ、今面倒くさい奴だって思ったでしょ!?さっきのは身体は眠らせたまま、意識を覚醒させておくの大変なんだよ?普通の人は気付くことができないんだから!けど、君は気付いたっ!つまり君はルアク、じゃなくて騎士団長と同じことをしたのです!これはすごい、君には才能があるということだねっ!さすがラナ、じゃなくて副団長が推すだけあるね。そうとわかれば自己紹介をしよう!私は王立魔法教団の長、アスタナ・ルーク・カスタマフィリアだよ!気軽にアルカと呼ぶことを許そう!」

自己紹介を終えた『アスタナ・ルーク・カスタマフィリア』こと『アルカ』は期待を込めた視線を瑠子へと向ける、その視線を受けた本人はこれがトップで大丈夫なのかと心配していた。

「それで、アルカが魔法を教えてくれるの?」

「君の実力もわかったし、任せなさいっ!っと言っても普通の魔法じゃなくて筋力をあげる補助魔法とか、そっち方面を鍛えるのがメインかな?自信を強化する魔法をいくつか教えるね?」

そう口にするアルカの表情は先程と比べて真剣さが増しており、それに感心したような息を吐いた瑠子はアルカがいまだ手にする枕にしているに気付く。

「その枕は置かないの?邪魔じゃない?」

「うん?あぁっ!大丈夫大丈夫、これが私にとっての杖だからね!いつでも寝ることができて杖として魔法を使える、まさに一石二鳥だねっ!細かく説明すると長くなっちゃうからしないけど、持ってるだけで杖としての役割を果たす魔法具なのです!私が作ったの、すごいでしょ?」

アルカの説明を受けて瑠子はある言葉が頭に浮かぶ、才能の無駄遣い・・・という言葉が。

しかし性格などはともかくとして実力は確かなようで、教えは分かり易くて効率も良く、元々優秀な瑠子も相まってすぐに強化魔法をいくつか使えるようになった。

「うーん・・・まぁ、初日ならこんなものだよね!・・・いやいやっ、普通にすごいよこの子。こんな短時間で何個か教えた魔法のいくつかを使えるようになるなんて、他の勇者候補よりも断然優秀だよ・・・王立魔法教団(うち)に興味ない?」

「ない。それに私には探さなきゃいけない大切な人がいるから、立ち止まってはいられないの」

アルカの誘いを迷いなく断った瑠子を残念に思いながらも、これからの活躍を期待して口元を楽しげに緩ませる。

「私はいつでもウェルカムだから、入りたくなったら声をっ―――おおぉぉぉぉっ!」

「・・・は?」

にこやかに話をしていたアルカが突然何かに気付いて声をあげながら駆け出したことに驚いた瑠子は、数瞬の間呆然としていたがすぐに気を取り直して駆け出していった方へと顔を向ける。

そこにはアルカを押し付けた(紹介した)副団長こと『ラナ』と、その隣で憮然とした態度で腕を組む青年の姿があった。


「戻ってきたなら知らせてくれればよかったのに、そしたら何を置いてもいの一番に駆けつけるんだから!怪我はしてないよね、君がそんなに弱くないのは私がよーく知ってるから!もしかして王から新しい命令でも出た?私でよければ手伝おうか?あ、安心していいよ!今ある仕事で急ぎのものはないから、すぐに君の助けになれるよ!もちろん仕事だけじゃなくてぷぷぷっ、プライベートなことでも全然私はウェルカム・・・だよ?でもいきなりハードなことは慣れが必要だから、できれば甘々な感じで溶かすようにシテくれれば・・・うぇへへぇ・・・」

「相変わらずだな、アルカ」

自身の腕に抱き着いていきなり捲し立てるアルカに表情を変えることなく、仏頂面のままそう口にした青年を押し退ける勢いでラナが二人の間に割り込んで口を開く。

「今回は騎士団がメインで動くからアルカの手伝いは不要だよ、兄さっ・・・団長は私が支えるから、アルカはお城の自室で書類仕事をこなしておくといいよ」

「俺は支えられるほど落ちぶれてはいないが?」

青年の言葉に二人は耳を貸しておらず、笑顔で向かい合いながら無言の圧をかけあっていた。


「・・・修羅場?」

一人の男子生徒がそう呟いたことで他のクラスメイトもその光景に気付いて視線を向け、女子生徒は青年の姿に黄色い声をあげて璃玖と匠以外の男子生徒は妬みを含んだ視線を向ける。

「んっ?あれが勇者たちか、ふむ・・・」

向けられる視線に気付いた青年が周りに視線を向けると、数人に視線を固定してから小さく息を吐く。

「(実力があるのは数人か、あれだけ人数がいてこれだけとは・・・姫が言っていたように呼ぶ必要があったのか)・・・まぁ、いいだろう。俺は王の命に従うまでだ、貴様ら」

突然声をかけられた彼ら彼女らは驚きの表情を浮かべたが、次にかけられた言葉にさらに驚愕の声をあげる。

「今から少し離れた廃城へと我ら騎士団と共に向かい、そこで最強種族と呼ばれている竜族との戦いを見てもらう。そうしてこの世界の危険を知れとの王からのお達しだ、わかったのなら城の前に馬車を用意してある。それに乗り込め、以上だ」

青年はそれだけ伝えると踵を返して鍛錬場を後にする、ラナとアルカはそんな彼を追ってついていってしまい・・・教える側がいなくなった瑠子は璃玖へと目配せしてさっさと鍛錬場を出る、璃玖もそれに続いて出て行ったために他のクラスメイト達も慌てて鍛錬場を後にして城の入り口へと向かった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






お城の前へと着いた彼らが目にしたのは大きな馬車数台と、馬に跨った騎士団の面々の姿があった。

「来たか、では馬車に乗れ。すぐに出る」

「兄さっ、団長!もう・・・皆さん、道中の安全は我ら騎士団が保証しますから。今は馬車にお乗りください、今回は戦いに参加させずに見学ということになります」

青年こと王立聖騎士団団長『ルアク』をフォローするように口を開いたラナのおかげで不満が出ることなく、クラスメイト達が馬車に乗り込み始める。

「? ルコも乗り込んで、すぐに出発するから」

「・・・ん、わかったよ」

瑠子は不服そうな表情を浮かべながらもラナの言葉に頷き、渋々な様子で馬車に乗り込んだ。


馬車に乗り込んだ瑠子は窓の外を眺めながら、楽しげに笑うクラスメイト達の耳障りな声を聞きながら一人落ち込んだ雰囲気を纏っていた。

「はぁ・・・(こんなことしてる場合じゃないのに、早く力を付けて寧々を迎えに行かなきゃいけないのに)」

「これもいい経験になるよ、この世界のことをもっと知れるだろうからね・・・それに寧々と会った時に役に立つかもよ?」

隣に腰掛ける璃玖の言葉にムッとしながらも、大切な幼馴染のために役立つ情報が手に入るならと思考を切り替える。

「寧々のためになるなら、我慢する」

唇を尖らせながらそう口にする瑠子に璃玖は微笑みを浮かべつつ眺め、目的地に着くまで馬車に揺られ続けるのだった。

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