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彼女が竜族の神子と呼ばれるまで  作者: にゃんたるとうふ
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第三節

「は、い・・・大丈夫でっ――いたっ!?」

すぐさま立ち上がってお礼を口にしようとした彼女だったが、予想以上の足の痛みに立ち上がることができずに尻餅をつく。

「無理はするな、こういうことは少し不得手だが・・・」

そう口にして槍を持っていない片手を彼女の痛む足に当てると、槍が発する淡い光と同じものが彼女の足を包み込むように広がる。

「っ・・・?あれ、痛みが・・・消えた?」

先程まで感じていた痛みがなくなったことに驚きの表情を浮かべる彼女を確認すると、青年は立ち上がって彼女の脇の下に手を差し込んで持ち上げる。

「あっ、え――」

彼女が戸惑いの声を漏らすのも気にも留めずに、青年は彼女を立ち上がらせると周囲へと視線を向ける。

「一般人が一人で森に入るなど、自殺行為だと思うが。そんなことも知らないほど貴様は無知なのか?」

彼女がお礼を口にする前に青年がそう告げたことで、彼女は驚いた表情を浮かべながら見上げるために上目遣いで視線を向ける。

「えとっ、実はもう一人いて・・・その子がとっても強くてっ」

青年を見てふとクラスメイトの金髪の不良生徒の姿を思い出した彼女は、天然の金色の髪はこんなに透き通って綺麗なのかと現状でまったく関係ない感想を抱いた。

「護衛がいたか、しかし護衛対象から離れるとは・・・素人でも雇ったか?」

ラメの言いつけがあるため竜族と共にいるとは言えずに、濁した言い方をする彼女に青年は思ったことを口にする。

「あぅっ・・・そ、そもそも護衛じゃなくて・・・同じ冒険者でっ」

「・・・冒険者?貴様がか?」

怪訝そうな表情を浮かべて彼女を見極めるように鋭い視線を向ける青年に、彼女は落ち着かない様子で視線を右往左往させる。

「まぁ、貴様が選んだ道ならば俺が何か言う権利はない。好きにすればいい、仲間がいるのであれば俺がいる必要も無かろう」

視線を向けるのをやめた青年がそう口にすると踵を返し、森を抜けるために歩を進める。

「(もしかして私を心配して残ろうとしてくれていた・・・?)って、あっ!さっきは助けていただいて、ありがとうございましたっ・・・!」

去り行く背中にそう声をかけるが、青年は振り返ることも反応することもなく歩き去っていった。


そんな青年の背中が見えなくなってから少し、両腕に抱えるようにして薬草などの依頼の品を持ち帰った竜人状態のトウカが姿を見せる。

「あ、トウカ。おかっ――」

「・・・っ!」

彼女が言葉を言い切る前に側に移動したトウカは、彼女から漂う匂いの変化を嗅ぎ取って少し眉を顰める。

「――えり・・・?どうかした?」

不思議そうに問いかける彼女にトウカはジッと視線を向け、何があったのかを尋ねるように彼女の足に尻尾を巻き付けながらスカートを引っ張る。

「んっ・・・!」

「うっ・・・えぇっと、実はね?」

トウカの向ける視線に押し負ける形で口を開いた彼女は、トウカが側から離れてからの出来事を話し始めた。


話し終えた彼女がトウカへと視線を向けると、顔を俯かせてシュンッと落ち込んだ雰囲気を纏いながら彼女の手を握る姿があった。

「べ、別にトウカが悪いわけじゃないんだよ?私がトウカと一緒に居ればよかったんだし・・・」

「・・・」

彼女の言葉を耳にして顔を上げたトウカだが、落ち込んだ様子は変わらずで彼女はどうしようと思考を巡らせる。

「・・・ん」

「あっ、そうだね。依頼の品を持っていって報酬を貰おうか、うんっ」

気落ちするトウカを気遣いながら街への帰路に着く彼女は、トウカを元気づけるために何ができるかを考え続けていた――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






『スロー』の街に着いた彼女は依頼の報告と換金を済ませると、何やらギルド内が騒がしく冒険者たちが慌ただしく動いている姿が視界に入る。

「何かあったのかな?」

彼女がそう疑問の声を漏らすと、受付のルースナがそれを耳にして彼女に声をかける。

「ネネさんが採取クエストに行っている間に、王都で活躍している聖騎士団の団長さんが訪れてっ―――」

「色々な依頼をこのギルドに置いていったのよ、まったく彼は昔っからあぁだから困るわ・・・っと話が逸れたわね、それとおかえり」

ルースナの言葉を引き継ぐように彼女の後ろから肩に手を置いて声をかけたラメに、ルースナは不満気な視線を向けて少し棘のある口調で声をかける。

「・・・ラメさん、私のセリフを取らないでください」

「あら、ごめんなさい。気付かなかったわ、彼女に目がいっていたから」

片や不機嫌そうに眉を歪めてもう一方は笑みを携えているが目が笑っておらず、何処か異様な雰囲気を放つ二人に彼女はただ困惑するしかなかった。


「・・・んっ」

トウカが握る彼女の手を引っ張ったことで我に返り、肩に置かれたラメの手を叩くと声をかける。

「えっと、色々な依頼ってどんなものなんでしょうか?それと、ただいま・・・?」

彼女の問い掛けと返事を聞いたラメは嬉しそうに頬を緩ませ、彼女の肩から手を離すとその頭を優しく撫でる。

「そうね、その話をするにしても一旦宿屋に戻りましょうか?ここだと周りが騒がしくて話がしづらいでしょ?」

慌ただしく動く冒険者が周りを走り回っているのを確認した彼女は、ラメの言葉に頷きで返すとルースナへと視線を向ける。

「それじゃあ、ルースナさん。また明日、依頼を受けに来ますね?」

「――っ!はいっ!ずっとずーっと、待っていますね!!」

彼女の言葉に明るい笑顔を浮かべて頭から生えた獣耳と尾骶骨付近から生える尻尾を大きく動かしながら返事をしたルースナ、その姿を見届けた彼女はラメについていく形でギルドを後にする。

「あっ、そういえば宿は昨日の部屋を使うといいわ。すでに一週間分は取っているから、好きに使ってね?」

「え、でも・・・」

ラメの告げた言葉に彼女は困惑した様子で口を開くが、ラメは彼女の唇に人差し指を当てて言葉を遮る。

「別に迷惑でもないから気にしないで、私が好きでやっているんだから。貴女に好かれようっていう下心も込められてるから、気にしなくてもいいわよ」

それはそれで気にしますという言葉を飲み込んだ彼女はお礼だけを口にして、未だ少し落ち込むトウカへと視線を向ける。

「・・・話は少し後にしましょうか、その娘を気にかけてあげて」

彼女の視線に気付いたラメはそう告げると自身が取ってある部屋へと戻っていき、その気遣いに内心で感謝を告げながらどうやってトウカを元気づけようかと部屋を扉を開きながら彼女は思考を巡らせる。


部屋に入った彼女はトウカをベッドに座らせるとその隣に腰を下ろし、顔を俯かせるトウカの頭を優しく撫でながら声をかける。

「トウカ、自分が離れたから私が襲われたと思っているんだろうけど・・・そんなことないと思うよ?根拠はないけど、トウカのせいじゃないってことはたしかだよ。それにトウカがいなかったら私はここにはいなかっただろうし、きっと野生の獣に襲われて命を落としてたと思う・・・だから私と出会ってくれてありがとう、トウカ。これからも一緒にいてくれたら、私は嬉しい・・・よ?」

必死に言葉を絞り出す彼女の姿を見上げたトウカは、ジッと視線を向けながら自身のために言葉を紡ぐ彼女の姿に胸をキュッと締め付けられる思いを抱く。

「・・・っ」

「? トウカ――っわ」

少し顔を顰めたトウカを不思議に思った彼女が声をかけると、視点が大きくブレてトウカを中心にして背景が天井に変わっていた。

「んんー・・・」

突然のことで思考が追い付いていない彼女でも、トウカが小さく開いた口の中が赤く染まっていることに気付く。

「って、トウカ!?口の中怪我してるみたい、血がっ―――」

言い終える前にトウカの唇によって口を塞がれた彼女は、驚きと共の口の中に生暖かい液体が注がれたことにさらに驚きを覚える。

「んむっ、むぐ・・・!んんっ・・・!こくっ・・・」

「んっ、んっ・・・」

注がれたモノがトウカの血と唾液が混ざったモノだと察した彼女は、トウカを引き剥がそうとするがトウカは竜人状態へと変化しているために力では敵わず、口内を満たす液体を抵抗空しく身体に取り入れる。

「ん、んんっ・・・!んふ、ふむぅ・・・!」

「んっ、んっ・・・」

すると身体の芯を焦がすような熱を感じて彼女は呻くような声を漏らすが、トウカは彼女の両腕を掴んで押し倒したまま自身の血を注ぎ続ける。

「んっ、ふぅ・・・んむ、ぅっ!?」

「んっ、んっ・・・っ」

身体を焦がす熱を発散することができなかった彼女は瞳を潤ませながら大きく身体を跳ねらせ、それを確認したトウカはようやく唇を離すと赤い唾液のアーチを作りながら、彼女に馬乗りになりつつ口元を拭う。

「んふー」

何故かやり遂げたような表情を浮かべて息を吐くトウカに、頬を紅潮させて荒い息を漏らす彼女は反応を返すことはできなかった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






荒くなった息を整え終えた彼女が寝そべっていたベッドから身体を起こすと、トウカが側まで駆け寄っていきその勢いのまま抱き着いた。

「わぷっ・・・トウカ、危ないよ?――ひゃっ!?」

支えきれずに再びベッドに倒れ込んだ彼女の言葉に軽く頷いてから首筋に舌を這わせたトウカに、くすぐったさに変な声を漏らした彼女はすぐさま気を取り直してトウカを抱きかかえるようにして身体を起こす。

「こ、こういうことは気軽にしちゃダメっ・・・!ささっ、さっきのこともそうだけど!恋人とか、特別な人とするのっ!・・・いい?」

キョトンとした表情を浮かべて彼女を見上げるトウカは小さな頷きで返してから唇を近づける、その行動に彼女はトウカの口を手で押さえることで防ぐ。

「全然わかってない・・・っ!そうだ、たしかバッグの中に・・・あった!」

背負ったままだったことでぺしゃんこになってしまっているバッグを漁って中から本を取り出す彼女、その行動を不思議そうに見つめていたトウカは彼女が差し出すようにして向ける本を見て、さらに疑問符を浮かべる。

「っ?・・・ん」

「この保健体育の教科書を読めばっ――え、読めない?」

得意げな顔をしていた彼女は一変してトウカの返事にキョトンとしてから、ハッと何かに気付いたように教科書へと視線を向ける。

「(そういえばここって私がいた世界じゃないんだった・・・!)これは見なかったことにして、ね?」

こてんと首を傾げながらも頷いて返すトウカにホッと胸を撫で下ろした彼女は、教科書をバッグの中に仕舞うと中身をざっと確認する。

「(あっ、このお弁当箱洗ってない。この部屋お風呂が付いてるから最悪そこで洗おうかな・・・あとは筆記用具と教科書とノートか、あとは間食用に飴が少し・・・)っ?あ、トウカ。どうかしたの?」

バッグの中を見ながら頷く彼女を見つめていたトウカは、自身から関心が薄れたと感じて彼女の隣に腰掛けると手を取って指を絡める。

「んっ」

「え?別にトウカのことを忘れたわけじゃないよ、バッグに何を入れていたか確認しただけ・・・ぁうっ!?」

突然下腹部に痛みとは違う衝撃を感じた彼女は呻き声を漏らす、それにトウカは驚いた様子で心配そうな視線を向ける。

「だ、大丈夫だよ。ちょっと変な感覚がしただけで・・・んしょっ」

自身が着ている制服のシャツを捲ってお腹を露わにした彼女は、おへそを囲むように白い竜の紋章が刻まれていることに気付いて驚きの声を漏らす。

「へっ!?な、なにコレ・・・うぅ、擦っても取れない」

「っ?・・・っ、ん!」

紋章を指でなぞるようにして触る彼女に、トウカは何をしているのかと覗き込んでから喜色の混じった声を漏らす。

「うまくいったって・・・トウカはこれが何か分かるの?」

「んっ!・・・ん、んんっ・・・ん!」

今までで一番言葉?を発したトウカの内容を聞いて、彼女は困惑を滲ませた声色で口を開く。

「これが竜族と血の盟約を果たした証?盟約を結んだ同士は離れることがなくて、生涯を共にする・・・!?いわゆる、つがっ・・・えぇっ!?」

トウカは彼女の言葉に嬉しそうに頷き、淡く朱に染まった頬を緩ませて彼女に身を寄せる。

「いやいやっ!?私たち会って日が浅いっていう問題じゃないし、なんなら私何もしてないヒモっ・・・そもそも同じ種族でくっついた方がいいんじゃないの?」

「?」

アタフタと慌てる彼女を不思議そうに見つめるトウカに視線を戻すと、ふにゃっと緩んだ表情を浮かべて彼女の肩に顔を押し付けて頬擦りする。

「・・・はぁっ、焦ってもしょうがない・・・のかな?これ」

初めに会った時よりも甘えてくるようになったトウカに色々と諦めた彼女は、このまま寝落ちしようかという考えが過ぎったが・・・それを許さないとばかりに部屋の扉がノックされる。


「ラメだけど・・・もういいかしら?」

気を使って二人っきりにしてくれたラメが話をするために来たのだと理解してから、隣に視線を向けるといつも通りの表情を浮かべて彼女を見上げるトウカの姿があった。

「(切り替えが早いっ!?)・・・大丈夫ですよ、今開けますね」

扉を開くために立ち上がろうとした彼女だが、その前にラメの言葉が聞こえてすぐに扉が開かれる。

「いえ、鍵は私が持っているから・・・って、鍵はちゃんとかけないとダメよ?さすがに不用心すぎるわ」

注意を口にしながら部屋へと足を踏み入れたラメは、顔を上げて彼女の側に寄り添うトウカの姿を確認してホッと息を吐く。

「どうやらいつもの調子に戻ったようね、竜族の機嫌が悪いと何が起こるか分からないから一安心ね・・・さて、それじゃあギルドでの話を・・・どうかしたかしら?」

「あっ、いえ・・・!なんでもないです、よ?」

近くの椅子を引いて座るラメに彼女は部屋での出来事を知られていないことにホッと息を吐き、気持ちを切り替えるように深呼吸してからラメの話に耳を傾けた。

ちなみに話をしている間、トウカは彼女の手の温もりと匂いを感じながら微睡んでいた。


ラメの話を要約すると、『スロー』の街近くの森でも魔物が活発化しており、付近の街道などでも魔物が頻繁に目撃されているので討伐の依頼が王都経由で発注されたらしい。

そのため報酬金が高く、冒険者はその依頼に殺到しているのだとか。

さらにギルドの最高ランクの冒険者には特別な依頼が提示され、その内容が''竜の撃退,,というものだった。


「だからAランク冒険者の私と同じランクの二人のパーティメンバーと、貴女に絡んでその娘に返り討ちにあった間抜けな男が率いる私と同じランクのパーティの二つが選ばれたの」

少し棘のある言い方で紹介された件の男・オードが率いるパーティと共に仕事することを嫌そうに、とても嫌そうに口にするラメに苦笑を浮かべながら彼女はチラッとトウカを一瞥する。

「心配しなくてもその娘が撃退対象じゃないわ、なんでも近くの廃城に住みつき始めたそうなのよ・・・貴女がこの街に訪れた日からね」

「え?」

ラメの言葉に困惑した声を漏らす彼女と鋭い視線をラメに向けるトウカ、心なしか部屋の温度が下がるのを感じて彼女が喉を鳴らす。

「――まぁ、貴女が関係してないことは分かっているんだけど。だからそんなに緊張した顔しないで・・・はいっ、リラックスリラックス」

「え、へっ・・・?」

何が何だかと疑問符を浮かべる彼女の姿に、クスッと笑みをこぼしたラメは頬に手を当てて楽しそうな声を漏らす。

「貴女の慌てた姿が可愛らしくて、つい意地悪しちゃったの。ごめんなさいね、けど竜族が何の意味もなく姿を現すとは思えない・・・だからっ―――」

楽しげな声を引っ込めて真剣な声色に切り替えたラメは一旦言葉を区切り、一呼吸置いてから口を開く。

「―――貴女をこの特別な依頼に加えておいたわ、っというわけで明後日までに旅の準備を済ませておいてね?」

「・・・へぇあっ!!?」

ラメの口にした言葉に彼女は驚きの声をあげ、何故か竜撃退の依頼を受けることになってしまったのだった。


突然告げられたことに驚きはしたが、今更取り消すこともできないといわれた彼女は諦めて肩を落とす。

「たしかに危険な依頼だけど、貴女なら無事にやり遂げることができるわ。私たちもいるし、いざとなればその娘も黙っていないでしょうから・・・それに、依頼に向かうのは私たちだけではないわ」

「? そうなんですか?・・・えっと?」

そう口にしたラメにジッと髪から服装へと視線を向けられた彼女は戸惑いの声を漏らし、ラメは何か確信を得たように深く頷いてから口を開く。

「実はこれはあまり知られていないことなのだけど・・・王都にある王城で異世界から勇者を呼ぶ召喚の儀式が行われたの、その勇者が今回の依頼に極秘で参加するそうよ?その勇者のほとんどは黒髪黒目の少年少女、そして貴女のような服装をしている・・・さて、どうして王城に召喚されたはずの勇者が、私の目の前にいるのかしらね?」

ラメの言葉に驚きの表情を浮かべた彼女は、同時に自身の幼馴染とクラスメイトの居場所を聞けたことに安堵の息を吐く。

「(そっか・・・瑠子と璃玖はお城にいるんだ)よかった、皆が無事で・・・」

彼女の呟きを聞いたラメは一つ息を吐いてから、トウカの向けてくる視線から逃れるように顔を逸らす。

「それで、貴女はどうしてここにいるの?まさか王城を抜け出した、なんてことはないでしょうけど・・・」

「えっと、それは私にもわからないんです。気付いたら森の中で、トウカの前に立っていた状態で・・・」

困惑した表情を浮かべる彼女がトウカに視線を向けると頷き、それを見たラメは不思議そうに顎に手を当てて思考を巡らせる。

「そう・・・(召喚の儀式に誰かが干渉した?でも王城で儀式が行われることを知っている者は少ない、そもそもそんなことをして一体何の得が・・・?もう少し調査が必要ね)」

一度情報を整理するために部屋に戻ることに決めたラメは、不安そうな表情を浮かべる彼女を安心させるために口を開く。

「別に貴女を責めるつもりはなかったの、ごめんなさい。けどその服装は変えておいた方がいいわ、目立つし変な勘繰りをされかねないから・・・だから、はいっ」

「はい・・・?これは、服?」

ラメに手渡されたのは淡い青色のワンピースのような服で、広げて確認するとサイズもピッタリなようであったが彼女は疑問を口にする。

「これ、なんで私にピッタリなんですか?」

「ふふっ・・・ヒ・ミ・ツ♪」

それだけ口にするとラメは部屋を後にして、残された彼女は自身の身体を抱き締めて身震いする。

「え、えっ・・・?もしかして眠っている間にっ!?あぅ、あわわっ・・・」

身体を(まさぐ)られる妄想をしてしまった彼女は頬を朱に染めて慌てた様子を見せるが、トウカがそんな彼女の服を引っ張って意識を自身に向けさせる。

「んっ!」

「あぇっ・・・?あ、そうだよね!ラメさんがそんなことをしていたらトウカが気付くよねっ、よかったぁ・・・じゃあ、なんでわかったんだろ?」

実際は目視で完璧に測ったのだが、彼女がその考えに至ることはなく・・・せっかく用意してもらった服に着替えてから、制服はバッグに畳んで仕舞い込む。

「とりあえず明日の内に必要な物を買って・・・必要な物って、なんだろう?」

「ん・・・?」

彼女の呟きにトウカは不思議そうに首を傾げ、また後でラメに話を聞きに行こうと考えるのだった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






そうしてあっという間に月日は経ち・・・っといっても二日だけだが、竜撃退に赴くために二つのパーティと彼女たちが邂逅を果たす。

「―――いや、なんでコイツがいるんだよ!?俺は何も聞いてねぇぞっ!?」

「そりゃあ、貴方には言ってないもの」

オードの叫びにラメが冷たく言い放ち、用意されていた馬車へと彼女とトウカを押し込む。

「彼女たちは私たちのパーティが乗る馬車に同乗させるわ、貴方たちはそっちの馬車に乗りなさい」

オードの後ろの馬車を指差してそう口にするラメに、苛立たしげな表情を浮かべながらもそれ以上噛み付くことはせずに舌打ちをして口を開く。

「チッ・・・!あとで呼んだ理由を教えてもらうからなっ!おい、行くぞっ!」

「「へい!兄貴!!」」

パーティメンバーを連れて馬車に乗り込むオードを見届けてから自身も馬車に乗り込んだラメ、それと同時に馬車は動き出して目的地へと走り始めた。


馬車に乗り込んだラメは二人並ぶパーティメンバーの逆側に座る彼女の隣に腰掛け、一つ咳払いを挟んでから紹介を行うために口を開く。

「ネネ。こっちの鎧を着た男が『オクト』で、こっちの筋肉ダルマが『クラー』。二人とも頼りになる剣士と魔法使いなの・・・オクト、クラー。こっちがネネとトウカ、ロウさんの馬車に乗っていた人たちで駆け出しの冒険者よ」

「よっ、よろしくお願いします・・・!」

緊張で身体を強張らせながらも挨拶を口にした彼女に、オクトと呼ばれた青年は快活な笑みを浮かべて口を開く。

「あぁ、よろしくなっ!何か困ったことがあれば遠慮なく言ってくれていいぜ、助けになるからよっ!」

「彼女は私が先に目をつけたのよ、渡さないからね?」

そう言って彼女との距離を詰めるラメに、そんなつもりで言ってねぇよ!とオクトが返す。

「ラメのことはともかく、オクトの言うように力を貸そう。遠慮は無用だ」

「彼はあの見た目だけど魔法使いでね、魔法で筋肉ダルマに見せているけど本当は小柄な少年のような見た目なの」

「何でそれを言っちゃうかな!?せっかくかっこいい先輩の姿を見せたのにっ・・・!」

低く威厳のある声から一変して高めの声に変わったクラーに、彼女は驚きと共にラメの発言が真実であると知る。

「まぁ、結局身体を魔法で強化して拳で殴ってるから・・・魔法使いの部類に入るかは疑問だけどな」

「二人にも強化魔法をかけてるんだから魔法使いだよ!ただ、ちょっと拳を振るってるだけさ!」

攻撃手段が魔法でないからそう言われるのでは?と彼女は考えたが、特に言及することなく三人のやり取りを眺めながら口元を緩ませる。

「・・・緊張はほぐれた?」

耳元でそう囁いたラメに驚いて顔を向けると、ウィンクをしてからオクトとクラーの方へと顔を向ける。

「ありがとうございます、ラメさん・・・」

ラメの気遣いに小さな声でお礼を口にした彼女は、隣でジッと自身を見上げるトウカへと視線を向けて優しくその頬を撫でる。

「んっ・・・んんー」

くすぐったそうな声を漏らしながら気持ち良さげに目を細めるトウカに、彼女も自然と頬を緩ませながら目的地に着くまで撫で続けるのだった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






馬車に揺られること数時間、ようやく目的地付近に着いたようで馬車が緩やかに停止する。

「これ以上は天候が悪く、馬も怯えていて近付くことができません」

御者の言葉に彼女たちは馬車を下りると、徒歩で目的地まで向かうこととなった。


「雷雲が広がっていて雷がずっと鳴り響いてます、ね」

彼女は辺りを見回しながら握り締めたトウカの手に自然と力がこもる、それを受けてトウカは寄り添うように彼女の側に歩み寄る。

「つーかよぉ、なんでこんなガキまでいるんだ?この小娘といい、テメェの考えることは分からねぇぜ」

「「そーだそーだ!」」

先頭を歩くオードがそう口にするとそれに便乗して声をあげる取り巻き二人、ラメは特に気にした様子もなく淡々と歩を進める。

「っ?あ、あれが目的の廃城ですか?」

彼女が視線を向ける先には急な坂が小山の周りを螺旋状に上に続き、その頂上に雷鳴が照らすそびえ立つ廃城の姿があった。

「あそこに、竜族が・・・」

囁くように呟いた彼女は廃城を見上げていると何処か引き付けられるような感覚を覚え、無意識に握り締めていたトウカの手に力が込められる。

「・・・」

トウカはそんな彼女を静かに見上げ、お返しとばかりに指を絡めて強く握り締めた。

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