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彼女が竜族の神子と呼ばれるまで  作者: にゃんたるとうふ
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第十一節

あけましておめでとうございます!


今年もゆったりのんびりと更新していくので、少しでも楽しんでもらえると嬉しいです。

「しゅっ、主君っ!!」

「んんーーっ!!」

大きな土煙が巻き起こる場所に駆け寄るエレナは槌になった尻尾を振るって土煙を吹き飛ばし、トウカは彼女を抱き締めようと飛び込む。

「―――けほ、こほっ・・・あ、れっ?私、生きてる・・・?」

しかし晴れた煙の中には彼女の姿はなく、辺りを見渡した二体の竜族は少し離れた位置で魔鬼馬の背に乗って咳き込む彼女の姿を発見する。

「?・・・あっ、もしかして魔鬼馬が助けてくれたの?ありがとうっ」

「ブルルッ!」

彼女のお礼を耳にした魔鬼馬は嬉しそうな鳴き声を上げ、そのことに口元を緩ませていた彼女は背に衝撃を受けて驚きの表情を浮かべる。

「んんっ!ん、んー?」

「わわっ、トウカ落ち着いてっ!?わ、私は大丈夫だからっ・・・わわわっ」

今度はちゃんと飛び付くように抱き着けたトウカは彼女の背中に頬をグリグリと押し付ける、彼女は驚きながらも引き剥がしたりはせずにバランスを取って魔鬼馬から落ちないようにする。

「主、くーーんっ!!」

「へっ?エレっ―――わぷっ」

上空からの呼び声に顔を上げた彼女が声の主を捉える前に柔らかなもので視界を塞がれ、何が起こったかわからずに固まる彼女を尻目に黄金の竜族は口を開く。

「もうっ、主君!ビックリしたわよ、急に割って入るなんてっ!よくない想像をして危うくショック死するところだったわっ!!」

「んっ、ぷぁ・・・!えっ、エレナ!ゴメンね?でも二人が悪いんだよ?喧嘩しちゃダメって言ったのに喧嘩するから」

エレナの豊満な膨らみから顔を覗かせた彼女の口にした言葉に、バツが悪そうな表情を浮かべて唸るエレナと申し訳無さそうに顔を伏せるトウカ。

「喧嘩なんてしなくても、その・・・ちゃんと二人のしたいことはしてあげる、よ?」

頬を朱に染めながら躊躇いがちにそう口にする彼女の様子にエレナは頬を緩ませて強く抱き締め、トウカは伏せていた顔を上げて瞳を輝かせる。

「あっ・・・!もちろんできないこともあるよ?こっ、子作り・・・なんて、まだ早いんだからねっ!?」

続く彼女の言葉に不服そうな表情を浮かべるエレナは唇を尖らせながら声を漏らす。

「むーっ・・・じゃあいつも頑張る主君を膝枕してあげる、あとは食事をあーんで食べさせてあげて・・・それから」

「え、エレナ?・・・っ?トウカ?」

ブツブツと自身の欲望を口にするエレナに困惑した様子で声をかけようとした彼女だが、その前に後ろから抱き着くトウカに身体を揺らされてそちらに視線を向ける。

「んっ、んー」

「トウカは膝枕してほしいの?えっ?頭も撫でてほしい?それくらいなら全然いいっ・・・え?お腹も撫でてほしい、の?」

トウカは彼女の問いに頷きで返してから強く抱き着いて背中に顔を押し付けて深く息を吸う、そんなトウカの行動に首を傾げながらも彼女はふと思い出した疑問を口にする。

「そういえば、魔鬼馬はどうやって私を助けてくれたんだろ?」

「やっぱり主君は何もせずにアタシに全部任せてっ――む?あぁ、この子も才能を持っていたのね。魔鬼馬にしては珍しいことだけれど」

才能という言葉を聞いて小首を傾げた彼女だが、それに気付いたエレナが補足するように口を開く。

「才能を持つ者はそう多くはないわ、それ相応の実力を持った者だけが持てる力・・・冒険者でも才能を持たない者も多いわね」

エレナの言葉にへぇーっと感嘆の息を吐く彼女は、不意にハッとしてから顔を俯かせる。

「実力・・・私にはないから、才能もないよね」

「? それはないと思うけど、ギルドカードに記されているんじゃない?」

エレナに促されるままカバンからカードを取り出した彼女が目を通すと、トウカとエレナも一緒にカードへと視線を向ける。

「才能、さいのー・・・あ、これかな?」

人差し指を滑らせながら呟いていた彼女はとある項目に指を止め、書かれている文字を読んで疑問符を浮かべる。

「かご、加護・・・?でもぼやけた部分は前にあるけど、これは?」

「むー?これはアタシにも分からないわ、けど才能があることは証明されたわねっ!さすが主君!」

何かの加護と書かれているのはたしかだが靄がかかったように読めない様子に彼女は首を傾げ、エレナも同じように首を傾げたがすぐに彼女に賞賛の言葉をかける。

「あ、ありがとう。エレナ・・・でも才能ってどうやって使うの?」

「んーっ、んっ!」

彼女の口にした疑問にトウカは強く抱き着きながら返事をする、それを聞いた彼女はなるほど?と曖昧な様子で頷きを返す。

「目を閉じて力を解き放つイメージ・・・目を閉じて力を解き放つイメージ・・・・・・えいっ!」

「んっ?」

「むっ?」

力むようにして眉間にシワを寄せた彼女が意気込みと共に声を上げると、二体の竜族は自身の変化に気付いて声を漏らす。

「んーっ!」

「あー、なるほどね。朝からアンタがやる気に満ちていたのはこういうこと・・・つまり主君と触れ合えば、主君の加護が受けられるわけね」

両腕を天に向けて突き上げて声を上げるトウカと変化について冷静に口にするエレナに、彼女はくすっと笑みを溢してから安堵の息を吐く。

「これで少しは、私も二人の役に立てるかな?」

「(主君が側にいるだけで十分なんだけど、伝えても困った表情を浮かべるだけだから黙ってよっと・・・)そういえば魔鬼馬の才能って何なのかしら?」

少しだけ自信を持った表情になった彼女は、エレナの言葉に同意するように跨がる魔鬼馬へと視線を向ける。

「? ヒヒンッ」

視線を受けた魔鬼馬は答えを返すように一鳴きしたが彼女には理解することはできず、首を傾げる彼女から視線をエレナへと向けた魔鬼馬の意思を組んでエレナが口を開く。

「才能は『転移』だそうよ。アタシたちの攻撃が当たる前に主君を背に乗せてここに移動したってことね、お手柄だわ」

エレナの説明を受けた彼女は納得したように頷いていたが、ふと気になったことが浮上して問を投げる。

「転移ってことは、私を元の世界に帰したり・・・できるのかな?」

「・・・ブルルッ」

彼女の疑問を耳にした魔鬼馬は、申し訳無さそうな雰囲気を出しながら首を横に振る。

「さすがにそこまではできないでしょうね。世界間の移動なんて、相当な時間と魔力が必要だから」

エレナの補足説明を聞いてそっかと呟く彼女だがそこまで悲観している様子はなく、少しだけ口元を緩ませながら囁くような声を漏らす。

「・・・トウカやエレナとまだ一緒にいられるんだね、ふふっ」

「―――んっ!」

「―――はっ?主君が可愛すぎてヤバい・・・キスしていい?」

二体の竜族の反応に自身の独り言が聞かれたことを悟った彼女は、頬を真っ赤に染めながら両腕をアタフタと動かした後に胸の前でギュッと握って一言・・・

「・・・いっ、一回だけだよ?」

恥ずかしさを堪えながら呟くように口にした彼女の姿に一回だけで我慢できるはずもなく、数回に渡って彼女と二体の竜族は口付けを交わす。


「ブルッ、ヒヒンッ」

そんな主人と二体の竜族の様子を眺めていた魔鬼馬は、尊いものを見るように目を細めながら事が済むのを静かに待つのだった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






「ほっ、本当にいいのかな?」

歯止めが聞かなくなった二体の竜族を何とか宥めることに成功した彼女は、魔鬼馬に揺られながら心配そうに眉を下げつつ口を開く。

「大丈夫よ、ここには一週間以内って書いてあるんだから。それで文句言うようなら、アタシがどうにかしてあげるわよ」

エレナの言葉を耳にして視線を下げた彼女は、手に持つ依頼書を確認して苦笑を浮かべる。

「依頼って期限があったんだね、その日に済ませなきゃいけないものだと思ってたよ」

「冒険者もそこまで切羽詰まってはないわよ。まぁ、ランクが上がっていけばそんな依頼が増えてくるとは思うけど、まだ主君は気にしなくてもいいことね」

まだという部分に彼女は小首を傾げたが、特に追求することはなくハッとした様子でトウカとエレナに問いを投げる。

「そういえば二人は転移した後、何をしていたの?エレナは雷を落としたのは分かったんだけど・・・」

彼女の問いかけにあぁっと声を漏らしたエレナと特に変化の見られないトウカ、そんな二人の反応に何もなかったのかな?と考える彼女。

「アタシは魔族が率いる魔物たちに囲まれたけど、トウカは?」

「ん」

「たくさんの魔族が主君を人質にしてついてこいって?あの時主君を狙ったのはそのためね、くだらないことを考えるものよね」

「んっ」

二人の会話を聞いていた彼女は突然のことで何の話か分からずにポカンとした表情を浮かべていたが、徐々に脳が会話の内容を理解していくと同時を顔色を悪くする。

「もっ、もしかして私・・・危なかった、の?」

「アタシがいればどこからでも主君を護れるけれど、一般的に言えば危なかったのかしら?」

「ん、ん」

エレナの返事に同意の頷きをするトウカを確認した彼女は、前に座るエレナに抱き着く力を強める。

「むっ?主君?」

「んーっ?」

そのことに不思議そうな表情を浮かべて振り返るエレナ、彼女の様子が変わったことに気付いたトウカは身を寄せるようにして密着する。

「ごっ、ごめんね?今さらになってその、怖くなっちゃって・・・」

「っ―――大丈夫よ、主君。アタシがいる限り、主君には指一本触れさせないからっ」

「んっ、んん。んんーっ!」

彼女の不安に揺れる瞳を目にしたエレナはいつになく真剣な口調で答え、トウカも意気込みを示すように彼女を抱き締める力を強める。

「二人とも・・・ありがとう。でもその、もう少しこのままでもいい?」

「アタシは全然構わないわよ、それで主君が安心できるなら。幾らでも、ねっ」

「んー」

ふふんっと胸を張るエレナと彼女の背中に顔を押し付けるトウカ、二人の優しさに小さくお礼を呟いた彼女は体重を預けるようにエレナにもたれかかる。

「一応歯向かってきた者と監視に使われてた魔物は消し飛ばしたから追ってはいないと思うし、気配も感じないから大丈夫よ・・・トウカの方は?」

「?」

「何そのそんな奴いたっけ?みたいな反応・・・って、あぁ。そういうこと、アンタの冷気に耐えられるような奴はいなかったのね。まぁ、いたら多少驚く程度だけど」

エレナとトウカの体温を感じて幾分か落ち着いた彼女は、二体の会話を聞きながらふと疑問に思ったことを口にする。

「冷気に耐えられる、ってどういうこと?たしかにトウカに初めて会った時とかにも感じたけど、耐えられないほどじゃなかったと思うけど」

彼女の口にした疑問にトウカは瞳を輝かせながら顔を押し付けていた背中に頬擦りし、エレナも嬉しそうに微笑みを浮かべて腰に回された彼女の手に優しく触れる。

「んんー、んっ。んーんっ」

「えっ・・・そ、そんな力があったの!?あれ?でも何で私は大丈夫なんだろ?」

疑問を尋ねて更に疑問が増えた彼女は首を傾げ、その姿を見たトウカも彼女の真似をするように首を傾げる。

「今は主君が特別だから、としか言えないんだけど・・・ちなみにトウカの冷気はアタシにも効果があるの、吸い込めばの話だけどね」

「私は別に特別じゃっ――ってえ、大丈夫なの!?」

「もちろん平気よ、アタシが纏う雷で相殺するから」

エレナの返事に安堵の息を吐いた彼女だが、結局何故自身に効果がないのかは教えてもらえなかった。



いくら問いかけてものらりくらりと躱されることで彼女は一旦話題を変えようと考え、自身と二体の竜族を乗せて歩く魔鬼馬に視線を向けてハッとする。

「魔鬼馬に名前を付けるの忘れてた・・・」

「――っ!!」

彼女の呟きに耳を立てた魔鬼馬は足を止めて彼女に期待のこもった視線を向ける、忘れていたことを申し訳ない気持ちを抱きながら思考を巡らせる。

「うーんっと、まきば・・・マキ、いや違くて・・・黒くて大きい・・・あっ、クロ?なんてどう、かな?」

「ヒヒーンッ!」

自信なさげな声色での問いかけにも関わらず、魔鬼馬は大きな鳴き声と共に前足を上げる。

「ひゃあっ・・・!?よ、喜んでくれたのかな?」

「みたいね、ただ・・・主君が落ちて怪我したらどうするの!?嬉しいのは分かるけど、突発的な行動は誰も乗せてない時にしなさいっ!」

「ブル、ヒンッ」

ションボリと項垂れながらもしっかりとした頷きを返す魔鬼馬改めクロに、エレナは満足そうに頷いてから彼女へと視線を向ける。

「主君、いつ何が起こるか分からないから今と同じようにしっかりアタシに抱き着いておいてね?別に他意はないのよ?他意は」

「う、うん・・・わかった?」

なぜ何度も言うのかと疑問を抱きながらも承諾した彼女は、エレナの腰に回している腕に力を込めてギュッと身体を密着させるように抱き締める。

「んーっ!」

「? トウカ?わ、わわっ・・・!?」

しかしそれを阻止しようと背中に抱き着いていたトウカが引き寄せるようにして彼女をエレナから引き離し、さらにエレナの魂胆を見透かして声を漏らす。

「ちょっとトウカ!変な言いがかりはやめてくれる?他意はないって言ってるでしょ?」

「・・・んっ」

トウカの主張に侵害だとばかりに反論するエレナだが、続くトウカの言葉にピタリッとその動きを止める。

「・・・振り返ったら前が見えないでしょ?だから振り向かないだけよ」

「あれ?でもさっきは振り返ってなかった?」

エレナの言葉に純粋な疑問を口にした彼女に、エレナはぐっと言葉を詰まらせながら視線を彷徨わせつつ返答を考える。

「えーっとそれはあれよ、んとあのっ――あっ!街が見えてきたわ、この話はここまでにしてさっさと宿に戻りましょうっ!」

「へっ?う、うん。そう、だね?」

突然強引に話を変えたエレナに彼女は困惑しながらも了承の返事をして、そのことにトウカは不満気な声を漏らす。

「んん、んーっ」

エレナがその声に反応することはなく、頬を膨らませるトウカを彼女が宥めている間に街へと入るための門に辿り着いた――――






―――――○▲▲▲○―――――






エレナの言うとおりに依頼の報告は達成してからすることに決めた彼女は、クロを厩舎に戻すべく大通りを通り抜けてギルドの側までやってきた。

「今日はありがとう、クロ。貴方がいなかったら私、どうなってたかわからないよ」

感謝を伝えながら首筋を撫でる彼女に、クロは気にしなくてもいいと伝えるかのように首を横に振る。

「こんな私だけど、これからも一緒にいてくれると嬉しっ――わっ、クロ?ふふっ、くすぐったいよっ「んっ」――ひゃっ!?と、トウカ?「むっ」――えぇっ!?エレナまでっ!?」

頬擦りするように彼女の頭に顔を押し付けてきたクロに彼女が笑みを零すと、対抗するようにトウカが彼女の正面から抱き着いてエレナは背後から包むように抱き締める。

「んっ、んっ」

「トウカが言ったように、アタシたちは主君から離れたりはしないわ。だから安心して?・・・子孫もまだ残せていないし、残しても離れないけど」

「んっ、んっ」

エレナの言葉に強く頷きながら同意するトウカの二体を確認した彼女は、柔和な笑みを浮かべながら口を開く。

「二人とも・・・ありがとうね(エレナはまだ諦めてなかったんだ・・・そういうのはまだ早いよっ!もう少しお互いのことを知ってから、少しずつ――)って!何考えてるの、私っ!」

突然大きな声を上げて顔を真っ赤に染める彼女に、二体の竜族と魔鬼馬は驚きの表情を浮かべる。

「―――あっ!ご、ごめんね?何でもないからその、気にしないで?ねっ?」

慌てた様子でそう口にする彼女に困惑しながらも頷きを返してくれたことにホッと安堵の息を吐き、目的の厩舎に着いたことで話題を切り替える。

「そういえば、クロの食事ってどうしてるの?用意しなきゃいけないなら買いに行くけど・・・人参はどこに売ってるかな?」

露骨に話を変える彼女の姿に小さな笑みを零したエレナは、あえて追求することなく問い掛けられた質問に答える。

「それなら厩舎担当のギルド職員が用意してるはずよ、それぞれに合わせて食事も変えているらしいわ。それに窮屈な思いをしないように、裏手にある広場で遊ばせたりしているそうよ」

「ブルルッ」

エレナの言葉に肯定するように一鳴きして頷くクロに、彼女はそうなんだと納得したような声を漏らす。

「まぁ、もちろんその分の食事代は報酬から引かれるんだけどね」

なるほどと納得した様子の彼女は、クロに視線を向けると微笑みを浮かべて口を開く。

「クロが息苦しい思いをしてないか心配だったけど、それなら良かった。明日からも頼りっぱなしになっちゃうけど、よろしくね?」

「ヒヒィンッ!」

彼女の言葉に返答するように大きな鳴き声を上げるクロに、微笑みを携えたままクロの首筋を撫でる彼女であった――――






―――――○▲▲▲○―――――






魔鬼馬のクロを厩舎に送り届けた彼女たちは、いつもの宿屋へと足を向けて大通りを歩く。

「本当に大丈夫かな・・・?」

依頼の報告は後に回すと決めたとはいえ心配そうに声を漏らす彼女にトウカは握った手の力を強め、エレナは優しい眼差しを向けながら口を開く。

「主君は心配性ね。少し前から言ってるけど大丈夫よ、依頼の期限はまだあるから、明日片付けても遅くはないわ・・・っというか、むしろ早すぎるぐらいなんだから」

彼女を安心させるように柔らかい口調で語り掛けるエレナに、不安そうに眉を下げながらも頷く彼女・・・それを目にしたエレナは口角を上げて笑みを浮かべる。

「むふっ・・・っと、んんっ!本来のDランク冒険者なら入念な準備をしてから挑む依頼ばかりだから、少なくとも一日そこらで終わらせる奴はいないわよ。ましてや複数の依頼を一日で終わらせるなんて、アタシたちじゃないと無理よ・・・だから主君が心配することは何もないの、オーケー?」

「(一瞬口元がふにゃってなった気が・・・)お、おーけー・・・?」

彼女の返事に満足そうに頷いたエレナは空いた彼女の片手を取って握り、宿屋を目指して歩き出す。

「んー」

話が終わった?とばかりに声を漏らしたトウカは、エレナ同様に彼女の手を引っ張って宿屋を目指す。

「わわっ・・・!ふ、二人とも!?」

突然歩きが速くなった二体の竜族に困惑しながらも、一生懸命に足を動かしてついていくのだった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






現在泊まっている宿屋の部屋へと戻ってきた彼女たちは、エレナがすかさずベッドに腰を下ろすと自身の太腿を叩いて彼女に呼びかける。

「さぁっ、主君!約束通り膝枕してあげるわっ!さぁ、さぁっ!」

瞳をキラキラと輝かせてそう口にするエレナに、彼女は困惑した様子を見せながらもエレナの側へと歩み寄ろうとするがトウカに手を引っ張られたことで足を止める。

「んん、んーんっ」

頬を膨らませて彼女に声をかけるトウカの姿に口元を緩ませながらも、トウカの主張にどう返したものかと考える彼女よりも先にエレナが口を開く。

「主君が膝枕されている間は、抱き着くなりしておいたら?後で膝枕してもらえばいいでしょ?」

「んーっ、ん」

エレナの言葉に少し考えるように首を傾げていたトウカは、彼女の胸に飛び込む形で抱き着くと小さく頷いて彼女の胸に顔をうずめる。

「わひゃっ!?とっ、トウカ・・・?ちょっ、わわわっ――ふぅ・・・ひゃっ!?」

ギュッと抱き着くトウカに体勢を崩しながらもベッドに腰を下ろした彼女は、すぐに頭を優しく掴まれてエレナの太腿に乗せられる。

「はぁぁぁ!・・・ついに主君を膝枕できたわっ!むふ、むふふぅ」

自身の太腿を枕にして横になる彼女を見下ろしながらふにゃっと顔を綻ばせるエレナに、彼女は戸惑いながらもエレナの喜ぶ姿に自身も嬉しい気持ちになって自然と笑みを零す。

「んー、んっんっ・・・んー」

「? トウカ?眠たいなら寝てもいいんだよ?」

眠たげに瞬きするトウカに気付いた彼女がそう告げると、トウカはボンヤリと彼女の顔を見上げてから少し考えるように視線を動かし、彼女の膨らみに潜り込むようにして強く抱き締めながら瞼を閉じる。

そうしてすぐに寝息を漏らし始めたことに彼女は口元を緩ませ、小さく身動ぎするトウカの頭を髪を梳くようにして優しく撫でる。

「ふふっ・・・おやすみ、トウカ」

「別に主君も一緒に寝てもいいわよ?アタシが満足したらベッドに寝かせておくから、ゆっくり休んで」

彼女の呟きにエレナはそう声をかけながら彼女の髪を梳く、その心地よさに声を漏らしながら彼女は小さく頷きを返す。

「ぅんっ・・・それじゃあ、えぇっと・・・先に休ませてもらうね?おやすみ、エレっ―――うん?」

彼女が瞼を閉じて今まさに眠りにつこうかというタイミングで部屋の扉がノックされ、目が冴えた彼女は身体を起こして扉へと視線を向ける。

「誰っ?アタシの至福の時間に水を差す愚か者は?」

怒気を含んだ声色で扉を叩いた者へと話しかけるエレナ、その声を聞いて扉の先に立つ人物はホッと安堵したような雰囲気を出す。

「貴女がいるということは、ネネもそこにいるのよね!?」

「えっ?その声は・・・ラメさん?あ、慌ててるみたいですけど・・・どうかしたんですか?」

焦ったような口調で話すラメに彼女は疑問符を浮かべながらも扉に歩み寄って鍵を開ける、すると勢いよく扉が開かれて声の主であるラメが姿を見せる。

「あぁっ!ネネ!・・・はあぁぁっ、よかった。無事なのね?ルースナの言葉を聞いてまさかと思ったけど、杞憂でよかったわっ。どこも怪我はしていない?辛かったりしない?」

彼女の姿を視認した瞬間に凄まじい勢いで肩を掴んだと思えば、全身を隈なく確認するように見つめられたり触られたりしたことで彼女は慌てて声をかける。

「あぅっ、えぁ・・・!?らっ、ラメさん!おち、落ち着いてくださいっ・・・!私はわわっ、何ともありませんから・・・!」

そう声をかけたが尚も身体を触れようとするラメに、苛立ちが最高潮に達したエレナは動きを見せる。

「いい加減に、しろっ!!」

「―――ふぐっ!?」

一瞬でラメの背後に移動したエレナの体重の乗った手刀を首に受けたことで、糸が切れた人形のようにその場に膝をついて倒れ込む。

「えっ、エレナ!?やりすぎだよっ!」

「意識を刈り取っただけだから安心して、すぐに目を覚ますはずよ」

彼女の言葉に落ち着いた様子で返したエレナは、ラメを担ぐと側にあるソファへと放り投げるように寝かせる。

「あとは起きるまで放っておけばいいわ、だから主君。さっきの続きとして膝枕をっ「ん、んん・・・っあ!?」――チッ・・・もう起きたのね」

ソファに放り投げた衝撃かは分からないがすぐに目を覚ましたラメに、エレナは不満な様子を隠すことなく舌打ちをしてから視線を向ける。

「主君の無事を確認するだけならとっとと失せなさいっ、それとも他に何か用事でもあるの?」

邪魔だという意思が伝わってくるほど刺々しい反応に顔を引き攣らせるラメだが、彼女の姿を再度確認して安堵の息を吐いてから口を開く。

「ルースナがネネが戻ってこないことを心配して仕事どころではなくなっていたから、彼女の無事を確認して伝えてあげようと思ったのよ」

「はぅ・・・や、やっぱりギルドに寄った方がよかったのかな?」

「別に毎回顔を出さなくてもいいのよ?今回はただ、ルースナがいつも帰ってくる貴女が戻ってこないことで取り乱しただけ。冒険者ではよくあることだから、そのうち慣れるわよ・・・そもそも依頼をその日の内に済ませて報告するなんてことは、できる者の方が少ないもの」

そう口にして優しく微笑むラメに、彼女は眉を下げながらも一安心したように息を吐く。

「今日は私がルースナに話しておくわ、明日にでも顔を見せてあげて?・・・あっ、そうそう。何かネネに伝えることがあるらしいから、話も聞いてあげてね?それじゃあ、おやすみ」

それだけ言い終えるとラメは彼女たちの部屋を後にする、彼女は小さく手を振って見送ってからラメの言葉を思い返す。

「(ルースナさんの話、っていったい何だろ?)」

そんな疑問を抱きながらベッドに腰掛けた彼女は、ラメが訪れる前のようにエレナに膝枕をされ、その心地よさに自然と夢の世界へと誘われるのだった。

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