099:TPS視点
アメリカの買取店は、飛馬と詩歌の支援妖精買い取りの申し出について、否定もせず肯定もせず、ゆっくりと話を聞く姿勢を見せている。
艦治達はその様子を医療施設の個室で確認していたのだが……。
「支援妖精が防音の小箱に入れられました」
アメリカ政府は、神州丸が支援妖精を通じて情報収集をしている前提での対応マニュアルを作成しているようだ。
いくら支援妖精でも、目と耳を完全に塞がれてしまうと、何も情報を拾う事が出来なくなる。
「これ以上の状況確認は難しそう?」
「いえ、全く問題ありません」
「そうなんだ。じゃあまた何か動きがあったら教えて」
艦治はナギがどのように状況確認するのかを聞いてしまうと、自分の中で歯止めが効かなくなってしまうと思ったので、深く考えない事にした。
帰るにはまだ早い時間の為、これからどうするかと考える艦治に、雅絵から電脳通話が入る。
≪艦治様、まなみ様。私にお二人へご挨拶させて頂けませんでしょうか?≫
≪おっと、ごめんごめん。馬鹿ップルがいたから忘れてた≫
マーシェ(雅絵)の言葉を受けて、艦治が司(ナギ)の肩で大人しくしていたマーシェ(雅絵)に手を向ける。
「穂波さん、真美さん、こちらの支援妖精を遠隔操作している人物を紹介します」
マーシェ(雅絵)がテーブルの上に移動して、二人へお辞儀する。
「穂波様、真美様。お初にお目にかかります。
私は内閣国家安全保障局迷宮対策室所属、天辺雅絵と申します。
艦治様、まなみ様にお仕えしております。以後お見知りおき下さいませ」
真美はマーシェ(雅絵)に手を差し出して、手のひらに乗るよう促した。
「娘と婿がお世話になっているようねぇ。よろしくお願いするわぁ。
まさか支援妖精の中に入れるなんてねぇ。どんな風に見えるのかしら」
「全てが大きく見えます。宙に浮く事が出来るので、まるでゲームの中にいるような気分です」
マーシェ(雅絵)が真美の手のひらに座り、見上げながら答える。
「ゲームの中ねぇ。
ナギ、私も支援妖精の遠隔操作は出来るのかしら?」
「もちろん可能です。お望みでしたら操作方法をお教え致します」
ナギが真美へ電脳OSでヒューマノイドや支援妖精を遠隔操作する方法を教える。
真美はマーシェ(雅絵)をテーブルに降ろした後、目を閉じて遠隔操作に集中する。
真美の膝に乗っていたジャガーの支援妖精、たまがふわりと宙に浮かぶ。
「ふふっ、確かにこれは楽しいわねぇ」
真美が目を開き、自分が操るたまを見ながら笑みを浮かべる。
自分に甘えるように頬に頭を擦り付けるたま(真美)を、穂波は優しく撫でてやる。
≪そっか、遠隔操作しながら自分も動こうと思えば動けるんだ≫
まなみはたまを操作しながら話す真美を見て、自分にも出来るはずだと思い至る。
まなみと司が両側から抱き着いて、艦治に頬擦りをする。
「うーん、まなみは良いけど司は微妙だなぁ」
「やっぱり女性型ヒューマノイドの方が良い? 浮気? ねぇ浮気するつもり?」
「司の声でやられると混乱するから止めて」
司を押し退けて、艦治はまなみを抱き寄せ……、ようと思ったが、穂波と真美がいるのを思い出し、頭を撫でるだけで我慢した。
「自分の目の前でかんちが自分を撫でてるの、嬉しいと嫉妬が入り混じって頭がおかしくなりそう」
司の行動を見て、真美は支援妖精を使った新しい戦闘方法を思いついた。
「ナギ、また訓練用の迷宮に行きたいんだけど、ワープゲートを出してくれるかしら?」
真美が思いついたのは、支援妖精を自らの後方斜め上に浮かせ、その視界を見ながら戦闘するというものだ。
ゲームで言うところの三人称視点で、一人称では見えない俯瞰的な角度から妨害生物の動きを確認する事が出来るので、戦闘がしやすくなる。
並列思考スキルのお陰で、一人称視点と三人称視点が同時に確認出来るので、使いこなせるようになれば有効な手段となるだろう。
「うぇ、めっちゃ気持ち悪い……」
≪脳みそと身体の動きが一致しなくてイライラする!!≫
「慣れるまでが大変そうねぇ」
せっかく二体(ナギと白雲)(ナミとシルヴァー)の支援妖精がいるのだからと、真美は艦治とまなみに二体分の視界を確認しながらの組手を指示した。
ゲームでコントローラーを使ってキャラクターを操作するのとは違い、自分自身を自分自身の感覚で操作する事と、視覚情報が三面ある事で非常に混乱しやすい。
「複数の視界がある事に慣れれば、支援妖精を先行させて侵略者の様子を確認したり出来るわぁ。
後ろに回り込まれてもすぐに気付けるだろうし、侵略迷宮に行く前にこの方法に気付けて良かったわぁ」
真美と穂波もそれぞれたまとポチの視界を確認しながら組手を行っている。
一体のみという事もあり、二人は普段と変わらないレベルの激しい攻防が繰り広げられている。
≪シルヴァーに家で待機してもらってれば、カンニングし放題じゃない?≫
「授業時間中は電脳通信が遮断されるから無理だよ」
≪あっ、そうだった……。真面目に勉強しなきゃダメかー≫
「まぁ司が大学に進む訳じゃないから、厳密にはまなみが真面目に勉強する必要はないかもだけどね」
≪えー、それでもかんちに勉強出来ないって思われるの嫌だしなー≫
二人は複数の視界を見ながら組手をしつつ会話まで行っており、客観的に見てまだまだ余裕があるように思える。
「お喋り出来るくらいだから、魔法が飛んで来ても組手を続けられるわよねぇ」
真美と穂波が魔法スキルを使い、火の玉や水球などを二人に投げつける。
「あっつ!?」
≪やーん、濡れちゃうー≫
次々に投げつけられる魔法を避けつつ、二人は組手を続けるのだった。




