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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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095:雅絵の真意

 放課後、艦治(かんじ)(つかさ)(まなみ)と共に校庭を歩いていると、先ほどの女子生徒が校門前で待っているのが見えた。

 それも一人だけでなく、仲間らしき女子生徒を複数連れている。


≪面倒くさいなぁ≫


≪無視一択だよ、相手すればするほど付け上がるんだからこういうのは!≫


≪いえ、先ほどの肯定も否定もせずに追い返すというのはお見事だったと思います。

 彼女らは何かしらの言葉や指示を欲しています。存在を否定してしまえば何をするか分かりません。毒にも薬にもならない事を言うのが良いかと思われます≫


「あの、少しお時間よろしいでしょうか?」


「少しだけね」


 マーシェ(雅絵(まさえ))の助言を受けて、艦治は声を掛けて来た女子生徒の前で立ち止まった。


「ありがとうございます!

 神州丸(しんしゅうまる)は私達に、何を望まれているのでしょうか?」


 何も望んでいない、という真実をぐっと飲み込んで、艦治は女子生徒に答える。


「神州丸は清く正しい人物を好む。いちいち指摘したりしないけど、全ての不正は把握されていると思った方が良いよ。

 決して楽な道を選んだり、快楽に溺れたりしない事が大事だと思う。

 甘言に騙されないよう気を付けて。神州丸を快く思ってない勢力に付け込まれないようにね」


 それだけを言い、艦治は女子生徒達から離れ、校門前に停車したミニバンに乗り込んだ。

 ミニバンで待っていたまなみが艦治の腕に抱き着く。


≪かんちは私という快楽に溺れてるけどねー。昨日はすごーく可愛かったなー。きゅんきゅんしたよー≫


≪今言わなくても良くない!?≫



 ミニバンを降り、艦治達は入国管理局へ入った。


≪早く空飛ぶ車特区にならないかなー≫


 ロープウェイに乗り、富士山を見ながらまなみが漏らす。


≪まだ議論が始まったばかりです。自動車業界との繋がりの太い議員が騒ぐと思われますので、すんなりとは行かないかと≫


≪じゃあもう港からちょっと先を埋立地にしちゃってさ、神州丸の領土にしたら良くない? じゃあ日本の法律なんて無視して空飛ぶ車に乗り放題じゃん≫


≪そうなっちゃうと空飛ぶ車自体がいらなくなるよ。ワープゲートで移動すれば良いんだから≫


≪あー、そうなっちゃうか≫


≪ワープゲートについてですが、艦治様達の足取りが掴めない時があるという報告が各国の機関に上がっているようです≫


 雅絵が入手した情報によると、見えないところで周辺警備をしている日本の警察や公安、尾行をしている他国の工作員などから、神州丸に入ったはずの艦治が戻って来ず、次の日の朝に自宅から出て来るところを目撃した、などの報告が上がっているらしい。


≪神州丸の何らかの技術で移動しているのだろうと予測されており、ワープゲートという可能性も上がっているようです≫


 艦治とまなみはそこまで注意するべきという考えに至っておらず、ナギに関してはバレても問題ないと程度の情報だと考えている為、すぐに露呈した。


≪んー、もう今さらだから良いか。人目のあるところでは使わないよう気を付けよう≫


≪そうだねー、自分にも使わせろっていう厚かましい人が来たら面倒だもんね≫


 移動方法について話している間に、神州丸内の医療施設へと到着した。

 適当な個室に入ってワープゲートを開き、鳳翔(ほうしょう)にある伊之助(いのすけ)莉枝子(りえこ)の墓所へ移動した。雅絵に事情を話した際、自分も墓参りをしたいと申し出があったからだ。


 艦治とまなみとマーシェ(雅絵)が墓参りを終えた後、再びワープゲートを開き、海にやって来た。

 ナギに指示して用意させたクルーザーに乗り込み、クジラやイルカを近くで見る為に沖に出た。


 少しゆっくりした後、艦治が宙派について聞かせてほしいと雅絵に頼んだ。


宙派(そらは)という呼び名を付けたのは、神州丸が来る前に既得権益を貪っていた権力者達だと言われています。ほぼ蔑称だと思って頂いて間違いありません。

 元々は宙派は『最近の若者は……』という文脈で使われていましたが、今では先ほどの女子生徒や、現在の日本に憤りを感じている人々も含めた大きな括りとなっています」


「つまり、左派とか右派とかとかみたいな?」


 左派とは平等な社会を目指す為の社会変革を支持する層で、社会主義や共産主義、無政府主義などの様々な思想が存在する。

 反対に、右派は伝統を守るなどの保守的な考え方であったり、反共産主義的な立場を指す。


「仰る通りです。左派だ右派だと言うと、大きな問題になるケースが多いと思いますが、宙派だと揶揄される人物はそれなりに存在します」


「揶揄ってあんまり良い意味じゃないよね?」


「はい。指示を受けないと動けない人物や、現状に不満を持っていたり、自ら行動を起こさずに、神州丸が全部やってくれれば良いのにと投げやりな考えの持ち主などです」


≪雅絵ちゃんも神州丸に宇宙に戻ってほしくないって言ってなかったっけ? あれ? 雅絵ちゃんも宙派なの?≫


 雅絵が艦治と自分に近付いた理由について思い返し、まなみが問い掛けた。


「私は上司に宙派だと思われておりますが、実際は宙派ではありません。

 そして右派や右翼というレッテルが嫌いです。私はただ、国外勢力の顔色を窺わないと自国の法整備すら出来ないようなこの国の現状を憂いているだけです。

 生まれた国を好きだと言い、愛国精神を持つのが当たり前の世の中にしたいだけなのです。

 言うなれば、攘夷派です。もちろん尊皇の気持ちはございますが、まずは日本を日本人の手に取り戻す事が一番だと思っております。

 神州丸がそばにある今、日本人の力で日本国内を浄化したいというのが私の想いです」


 艦治は、攘夷という歴史でしか聞かないような言葉を聞いて、驚きの表情を見せる。


≪そういう意味ではかんちも力になれるよね。ただ君臨するだけで雅絵ちゃんの為になるんだから≫


「君臨すれども統治せずって? 英国王室じゃなんだから。

 僕は王様になりたい訳じゃないし、まなみと一緒に楽しく暮らせたらそれで良いよ」



 その後、艦治とまなみはイルカと泳いだり、クジラに乗ったりして過ごした。

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