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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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094:宙派

「人型だ……」

「やっぱり妖精ガチャで出るんだわ!」

「逆だよ、出る奴にしか出ねぇんだ」

「電脳ネットによると二体しか確認されてないらしい」

「井尻とその関係者だけじゃねーか!!」


 (つかさ)(まなみ)の肩にいる人型妖精を見て、生徒達がやいやいと騒ぐ。

 それらを相手にせず、艦治(かんじ)達は教室へと向かった。



「さすがにどうなんだ?」


「そう言われても」


 先に教室に着いていた良光(よしみつ)が、マーシェ(雅絵(まさえ))を見て微妙な表情を浮かべる。

 学校内では艦治とまなみ以外とコミュニケーションを取らないようにと事前に決めておいたので、マーシェ(雅絵)は特に反応を見せない。


「ナギとそっくりだな」


≪また今度改めて説明するけど、この支援妖精は内閣国家安全保障局迷宮対策室所属のエリート官僚が遠隔操作してるんだ≫


≪……いや、詳しい説明は遠慮しとくわ≫



 授業中、新たに増えた人型妖精を見つけた社会科教師の栄三(えいぞう)が不機嫌そうにしていたが、その他は特に大きな出来事もなく、昼休みとなった。

 学食に向かい、艦治はいつものメンバーで空いている席に座った。


「会長、頼むよ!」


「知らないよ、自分で聞けば良いじゃないか」


 (わたる)が男子生徒をあしらいながら、艦治達の席へやって来た。


「やあ、今日も良いかな?」


「もちろん」


 恨めしそうに睨む男子生徒を後目に、亘が弁当を広げる。


「ん? 何だ、まだいたのかい?」


 亘が声を掛けると、男子生徒は艦治の周辺に視線を漂わせた後、何も言わずに立ち去ってしまった。


「えー? 何あれ、気持ち悪ぅーい」


「ちょっと、止めなよ」


 恵美(えみ)の発言を望海(のぞみ)が諫める。しかし恵美の一言で、様子を窺っていた周囲の目線が艦治達から逸らされた。


≪この通り、僕の周りが守ってくれるんだ。ありがたいよ≫


≪艦治様の人徳のなせる業ですね≫


 まなみの肩に座るマーシェ(雅絵)から褒められ、艦治も悪い気はしない。


 雅絵はまなみから、マーシェに備わっている電脳OS越しであれば、艦治と電脳通話を繋げる事を許可された。


≪さすが私の旦那様だね!≫


 雅絵から艦治へ電脳通話する際は、必ずまなみも入れたグループ通話にする事が条件となっている。


「あのっ、ちょっと良いですか!?」


 艦治が気分良く弁当を食べているところに、知らない女子生徒が話し掛けて来た。


≪睨まない、立ち上がろうとしない、どうどうどう≫


「何?」


 女子生徒を威圧するまなみを宥めつつ、艦治が女子生徒の顔を見る。


「井尻先輩は神州丸(しんしゅうまる)に選ばれた特別な存在だと聞きました!

 井尻先輩はナギ様のご意向を受けて、世界を正しい方向へと導く指導者となられるのでしょうか!?」


「……はぁ?」


 両目を見開き鼻の穴を広げ、口角が上がり、まるで狂信者のような女子生徒のキマリ切った表情を見て、艦治はまなみに排除してもらえば良かったと後悔した。


宙派(そらは)ですね。自分で行動しないくせに利益だけは享受したいという無責任で他力本願な考え方です≫


 マーシェ(雅絵)が侮蔑の感情を露わにする。


 宙派とは、神州丸に導いてもらえば世界は平和だし科学技術も発展するし地球環境も良くなるし、良い事しかないじゃん! と考える、若者を中心とした新しい反戦的思想である。

 世界各国が神州丸に従えば、戦争はなくなり環境汚染も減り、人類は労働から解放されるはずだという考えが根本にあり、神州丸が光り輝く理想郷へと連れて行ってくれるのだと主張する若者が増えている。


≪えーっと、何て返せば良い?≫


≪彼らは何を言っても自分の信じたい事しか信じません。艦治様が否定されても、神州丸から否定するように指示を受けているんだと思い込みます。

 真剣に相手をする必要はありません。何と答えられても問題ありません≫


≪あっち行け、しっしっ!≫


「あまり大きな声を出されると困るなぁ。そっとしておいてくれる?」


 艦治は肯定も否定もせず、ただ自分の要求だけを口にした。

 その言葉を聞いた女子生徒ははっとした表情を浮かべた後、神妙な顔をして頷き、深く一礼をした後。艦治達から離れて行った。


「……こわーい」


「確かに怖かったね……」


 恵美と望海が離れて行った女子生徒の背中を眺めながら本音を漏らす。


「ああいった考え方の集団には近付かない方が良い。どこかに集まって大麻や覚醒剤などを使用するパーティーを行ったりしているらしい」


「へぇ、詳しいな」


 亘が注意喚起すると、良光が食いついた。


「父が警察官でね。そういう集まりには決して近付くなと口酸っぱく言われているんだ」


「亘の性格ならそういう場には絶対に行かないだろうけどなぁ?」


 良光は、生徒会長である亘が薬に手を出すはずがないだろうと思ったが、亘はそうではないと詳しく説明する。


「色んな考え方があって良いはずだと、客観的にああいう手合いの話を聞こうとするとしよう。

 最初は神州丸についての話や、国の在り方について真剣に議論するらしいのだが、途中から浮浪者のような格好の人物がどんどん増えて来て、気付けばそこかしこで薬や乱交を始めるんだそうだ。

 神州丸に全部任せれば良いという思考放棄的な考えの持ち主は、ヤクザや反社会的勢力に狙われやすいらしい」


「……なるほど。確かに近付かねぇ方が良いな」


「神州丸の手前、メディアはそういった集団についてあまり積極的に報道しないと言われている。

 僕はメディアがヤクザや反社に忖度しているんじゃないかと思ってるけどね。じわじわと広がっていくのを待ち、取り返しがつかなくなった頃に問題視して神州丸を攻撃する為の材料にするつもりなんじゃないかと睨んでいる」


 亘の話を聞いて、艦治は宙派という考え方に少し危機感を覚えた。


≪マーシェ、あとで詳しい話を聞いても良いかな?≫


≪分かりました。それでは放課後にお話し致しましょう≫

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