091:スキルガチャ
雅絵は突如変わった幻想迷宮の雰囲気を感じ、撤退すべきかと艦治とまなみを振り返ったが、すでに二人はそこにはいなかった。
≪よそ見してたら危ないよー?≫
まなみからの電脳通話を受け、雅絵は自分よりもさらに前で刀を振り回し、ゴブリンやオーク、スライムや一角ウサギを瞬殺している艦治とまなみの姿を見つけた。
≪戦利品は亜空間収納で拾っているのですね、羨ましいです≫
≪亜空間収納持ってないの? 便利で良いよー≫
艦治とまなみ、そして雅絵が押し寄せる妨害生物の波を押し返しているのを見て、他の探索者達もそれぞれの武器を手に立ち向かっていく。
「トロールでもサイクロプスでもドラゴンでも何でも来やがれ!!」
「おまっ、そんな事言って本当にドラゴンが出て来たらどうするつもりだ!?」
「ドラゴンスレイヤーがいるんだ、任せて逃げるぜ!!」
「ドラゴンスレイヤー? ……あいつか!!」
「あいつが何とかしてくれる! 穂波さんの弟子がな!!」
どうやら艦治が火竜を倒した事を知っている探索者がいたようで、皆が怖気付かずにモンスターの波に立ち向かい続けている。
雅絵は他の探索者と距離を取って、双頭槍を振り回してモンスターを次々に屠っていく。
雅絵は自分だけで精一杯の状態なので、他の探索者よりも多くのモンスターが自分目掛けて襲い掛かって来ている事に気付いていない。
五分か、それとも十分か。どれだけの時間が経過したか分からないほど必死に槍を振り回し続けている雅絵も、そろそろ体力の限界が近付いて来ている。
≪雅絵ちゃん、いったん引こうか≫
折よく入った指示に従い、雅絵が戦線から離脱し、まなみと合流した。
「……艦治様は?」
荒い息を落ち着けながら、雅絵が艦治を探す。
≪あそこだよ、<恐悦至極>の知り合いと一緒に戦ってるみたい≫
艦治はたまたま居合わせた正義と茂道と合流し、連携を試しながらモンスターと戦っているようだ。
「あの二人は累計ランキングトップ二百に入っているベテランですね……」
≪そうそう。うちのパパとママが鍛えたからそれくらいは当然だよねぇ≫
雅絵は、艦治がたまたまドラゴンを倒せる魔法スキルを手に入れたという運の持ち主というだけでなく、トップ探索者と連携して戦えるだけの能力も持っている事に感心する。
神州丸にお膳立てされて、見せかけのハリボテの上で威張るようなタイプでない事を再確認した。
ある程度雅絵の探索ポイントが貯まった頃、幻想迷宮を出る事となった。
このまま<恐悦至極>の新人教育を続けるという事で、正義と茂道とはこの場で別れ、雅絵と艦治とまなみと司(ナギ)はスキルショップへとやって来た。
「ここで待ってるから」
「……はい、すぐに戻ります」
艦治とまなみがガチャを回そうとしないのを不思議に思いつつ、雅絵はガチャポッドに座った。
『ようこそ天辺雅絵様!
雅絵様の所持ポイントは三百万ポイントです。十連ガチャを回しますか?』
通常、十連ガチャを回すのに百万ポイント必要となる。
この百万ポイントを貯められるかどうかが駆け出し探索者と一般探索者とを隔てる大きな壁であり、初回無料十連ガチャ以降にスキルガチャを回す事が出来ない探索者は非常に多い。
雅絵は視界に浮かぶ文字に対して承諾し、所持ポイントを消費して十連ガチャを回した。
視界に外交大使のナギが現れ、商店街であるようなガラガラのハンドルを回して、小さな金色の玉を十個排出した。
カランカランカラン♪
『大当たりで~す!
性欲抑制スキル new !
遠隔操作スキル new !
亜空間収納スキル new !
並列思考スキル new !
言語理解スキル new !
恐怖耐性スキル new !
火魔法スキル new !
水魔法スキル new !
風魔法スキル new !
土魔法スキル new !
もう十連回しますか?』
「いやいやいやいや!!」
未入手スキルしかない十連ガチャの排出結果に、思わずツッコミを入れる雅絵。
雅絵は何度もスキルガチャを回した事があるが、槍術と棒術など、すでに持っているスキルが重複して排出されるのが当たり前だった。
あまりに何度も同じスキルが出る為、知り合いの探索者に確認したところ、皆そんなものだという回答を得た。
同じスキルが排出されるのは無意味なのかと問うと、そうではないらしく、同じスキルが出れば出るほど熟練度という隠しパラメータが上昇し、そのスキルをより上手に操る事が出来るというのが、多くの探索者からの経験から得た共通認識となっていると教わった。
≪何? 突然大きな独り言されると周りが気を遣うから止めてくれない?≫
≪すみません、ちょっと取り乱しました。あまりにスキルの排出結果が珍しいものばかりだったもので……≫
≪珍しいスキル?≫
≪はい、排出されたスキルが全て希少なスキルでした。遠隔操作スキルが一発で出るとは思いませんでしたし、艦治様が入手されるまでは存在すら知られていなかった魔法スキルが四つも含まれています。
それに、……はっ!?≫
雅絵はずらずらっと流れて来たスキルガチャの排出結果のログを見直し、一番上に表示されていた『性欲抑制スキル』という文字に目を奪われる。
≪あの、奥様。この『性欲抑制スキル』というのは……≫
≪あー、それ? そのスキルの存在、かんちには教えちゃダメだよ? あと、そのスキルはオンオフ出来るけど、かんちが近くにいる時は自動的にオンになるから。あ、そうそう。雅絵ちゃんって生理が重いタイプ? 排卵を抑制出来る方法があるんだけど、これはあくまで生理が来ないようにする為であって、避妊具なしでセックス出来るよーって事じゃないからね? その点を理解出来るなら手術を受けられるよう手配してあげるよ。どう? 理解出来る?≫
≪あ、はい……≫
雅絵はまなみの話す内容から、艦治とまなみは自由にスキルを作成し、ガチャの排出結果すら操作が出来るほどの権限を持っている事に加えて、人体改造まで可能であるらしいと受け止めた。
二人に近付いた事が良かったのか、それとも悪かったのか、雅絵はまだ判断し切れていない。




