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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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088:雅絵の目的

 ほらー浮気だ艦治君を狙ってるんだー! と、まなみが騒ぎ立てるかと思った艦治だが、まなみはいつも通りの無表情のまま、雅絵(まさえ)を眺めている。


「……そうする事で、天辺(あまべ)さんにはどういったメリットがあるんですか?

 僕は神総研(しんそうけん)と専属契約を交わしていますし、より好条件をと言われても受けるつもりはありませんよ?」


 まなみも雅絵も発言する様子がなかったので、艦治が疑問を口にした。


「先日は天辺商事グループの社員がご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした。

 ですが、今日私がこうしてお願いに上がったのは、天辺商事とは一切関係ございません。

 いえ、お望みとあれば実家の力を使ってでもお支えしたいと思ってはおりますし、内閣国家安全保障局で培った権力や人脈も何もかも全て使う覚悟を持っております」


 自分の全てを使って支えると訴える雅絵。そんな雅絵の思惑が、艦治には全く読めない。

 困った表情を隠さずに、艦治が雅絵へ尋ねる。


「どうして僕を支えようと? 僕はただの高校生です。

 確かに神州丸(しんしゅうまる)からは期待され、優遇もされています。(つかさ)という護衛も付けてもらっています。

 でも、それは僕が神州丸内の探索活動を期待されているからであって、僕自身に特別な力があるからではありません。

 日本政府や天辺商事の力を使ってまで支えると言われても、僕に出来る事は探索活動だけです。それ以外は何も出来ません」


 艦治は、すごいのは自分と同じDNAを持っていた伊之助(いのすけ)であり、自分自身に特別な力がある訳ではないと思っているので、嘘は言っていない。


「外交大使と容姿が同じ支援妖精。そして二体目の支援妖精を連れている。さらに艦治様の恋人であるまなみ様も同様。遠隔操作スキルで妖精を操る。

 未発見だった魔法スキルを使いこなし、単独でドラゴンを討伐。

 そして、銀行口座の一千億円。

 これが、果たして一探索者へ向ける単なる期待だと言い切れるでしょうか?」


 艦治は、自分の情報を徹底的に調べられた事を悟る。相手は内閣国家安全保障局に所属するキャリア官僚であり、銀行口座であろうが必要であれば閲覧する事が出来る人物なのだ。


「……目的は?」


 ずっと黙っていたまなみが、雅絵に対して言葉を発する。


「日本に神州丸が落ちて十八年。ずっと私は不思議に思っておりました。

 神州丸は本当に墜落したのか。何か目的があって地球に、いえ、この日本にやって来たのではないかと。

 パスポートの必要なく行き来する事が出来る探索者。極端に排除される外国人。迷宮の早期攻略を望んでいない様子の外交大使ナギ。

 日本政府との外交関係は友好的ではありますが、早く宇宙へ戻りたいという印象を全く受けませんでした。

 私がナギさんならば、自分と同じ顔のヒューマノイドを差し出してでも政府要人の協力を得て、いち早く宇宙へ飛び立つ算段を付けるだろうと思います」


 雅絵はそこまで言い、小さく息を吐いてからアイスコーヒーを口に含んだ。


≪そう言えばどっかの国の政府要人が失脚したって話があったね≫


≪気持ち悪い話だけど、確かに自分が仕える主の為ならそれくらいしてもおかしくないもんね≫


 世間一般的には、ナギの主が神州丸内でコールドスリープしていると考えられている。

 その主の為ならば、日本政府だけでなくもっと積極的に世界中の国に働き掛けるはずだという雅絵の考えは、決して的外れではない。


「そこで、神州丸の本当の目的が別にあるのではないかと考えました。

 まずは地球征服。

 ですが、征服しようと思えばすぐに完了するほどの戦力差があると思われますので、除外しました。

 次に、神州丸内に存在すると思われるナギさんの主の妻、もしくは夫探し。あるいは性欲の捌け口となる人間探し。

 これも除外しました。この十八年間で神州丸内で不自然に行方不明になった人間は一人もいない事が分かっています」


 雅絵はずっと艦治から目を逸らさずに自分の考えを語っている。

 こういう時に良光(よしみつ)がいればなぁと、艦治は自分では雅絵を煙に巻けないだろうと諦め気分でいる。

 そんな艦治の表情を見て、雅絵が謝った。


「すみません、私の推測をひけらかすような事をしてしまいました。

 手短にお話します。私はナギさんが何かを持つ誰かを探しており、それが艦治様とまなみ様だったのだろうと思ったのです。

 お二人がナギさんから探索活動を期待されているのであれば、大学へ通えるよう手配しろなどと言わず、一生掛かっても使い切れないお金を支払って探索を優先するよう促すはずです。

 ですが、実際は大学へ進めるよう手配し、銀行口座には一千億円入金されている。

 つまり、お二人は探索活動以外の何らかの理由で、ナギさんから優遇を受けている事になります」


 雅絵がまたアイスコーヒーを口に含み、続ける。


「私は、ナギさんの主がお二人なのではないかと思っています。

 でなければ、私がお茶を淹れて下さいと申し上げて、式部司がまるでメイドや執事のように用意する訳がないのです。

 どういった経緯なのかは分かりませんし、私の想像も及ばないような事情があるのだと思っています。

 何にしても、神州丸はお二人を探す為に地球、それも日本に来て、ナギさんは目的を達成してしまった。お二人が望みさえすれば、今すぐにでも神州丸は宇宙へと飛び立つ事が出来るのだと思っています。

 ですが、その前に艦治様はしなければならない事がおありですよね?

 そのお手伝いをさせて頂きますので、宇宙へ飛び立たれるのを少し待って頂きたい。

 それが私の目的です」


≪すみません、私の責任です。お望みとあらばこの女を……≫


≪ナギ、ストップ≫


 神州丸が日本に来た目的を、雅絵はおおよそ把握してしまっている。

 これはナギが、特に隠すつもりもなく行動していた事に起因するが、問題なのは雅絵が気付いたという事は、雅絵以外にも気付いている人物がいる、もしくはこれから気付く者が増えていくかも知れないという事だ。


「もし僕とまなみが、ナギさんの探していた人間だとして、天辺さんは僕達に何を望んでいるんですか?

 宇宙に飛び立つのを遅らせる事で、あなたの目的が達成されるんですか?」


「私はこの国を変えたい。神州丸がやって来る以前からある、未だに日本にしがみ付いているような旧態依然の態勢や勢力を一掃したいと考えています。

 今神州丸が宇宙に帰ってしまうと、旧来の権力者達が息を吹き返してしまいます。

 彼らの息の音を止めるまで、神州丸には日本に残って頂きたい。

 その代わりに、と言っては何ですが、妹さんの問題や、周辺の有象無象の対処をお任せ頂ければと思っています」


 艦治は、雅絵の事を見誤っていた事を悟り、小さく息を吐いた。

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