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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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087:ホテルの応接室にて

 放課後、艦治(かんじ)良光(よしみつ)達と教室で別れ、(つかさ)(まなみ)と一緒に校門は向かい、タイミング良く来たミニバンに乗り込んだ。

 先に乗っていたまなみに抱き着かれ、艦治はその胸に顔を(うず)める。

 ちなみにまなみの服装は、白いブラウスに紺色のロングスカート姿だ。


望海(のぞみ)ちゃんと恵美(えみ)ちゃんは今日神州丸(しんしゅうまる)で手術受けるって≫


≪分かった、分かったからもう言わないで≫


 艦治はまなみから説明を受けた望海が、時々自分の顔を盗み見ていた事に気付き、まなみが一体どんな説明をしたのかと気になっていたが、喋ってしまった以上はもう仕方ないと放置する事にした。


 二人を乗せたミニバンは、駅周辺のホテルに向かっている。ラブの付く方ではなくちゃんとしたホテルで、外国の要人も宿泊する超高級ホテルだ。

 もっとも、神州丸の周辺のホテルに安宿はなく、どこも常に宿泊客で溢れているが。


≪ホテル行く前に海中秘密基地行っとく?≫


≪……僕は獣じゃないんだから、色仕掛けされようが靡いたりしないよ≫


 直接顔を会わせて話がしたいと申し出があり、雅絵(まさえ)が指定した場所はホテルの一室だった。

 自分以外は誰も来ない、と事前に連絡があったので、博務(ひろむ)がいない事がどちらに転ぶか、艦治としても測り兼ねている。


≪何を聞かされるんだろうね≫


≪さすがにもう自分の実家の話はしないと思うけど、あのおじさんの謝罪くらいはあるかもねぇ≫


 あのおじさん、というのは、入国管理局前で声を掛けて来た天辺(あまべ)商事の関係者の事だ。


≪別にホテルで会ってまで謝罪してほしくないけどな。その拘束時間がなければその分迷宮(ダンジョン)攻略出来る訳だし≫


 艦治はお金の為に探索活動をしている訳ではないが、トップ探索者なら二時間あれば数百万は稼げるだろう。


「もう間もなく到着致します」


 ナギの声を聞き、艦治はまなみの胸から離れると、ミニバンがホテルの玄関前に停車した。


「……制服着替えれば良かったか」


 まなみがセミフォーマルな印象の装いなのに対し、艦治は学生服のままである事を気にし出した。


≪部屋の中なんだし関係ないんじゃない?≫


「まぁそうなんだけど、そこまでがさぁ」


 自動でドアが開き、艦治がミニバンを降りると、すぐそばでホテルのベルボーイが待機していた。


「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか?」


「いえ、えーっと……」


 ベルボーイが案内してくれるとは思っておらず、艦治がどう言えば良いか戸惑う。


「天辺雅絵という方と面会予定なのですが、ご案内して下さいますか?」


 艦治の肩に乗っていた妖精ナギが、ベルボーイへ問い掛ける。


「天辺雅絵様のお客様ですね。それではご案内させて頂きます」


 ベルボーイは制服姿の艦治を見ても、特殊な支援妖精であるナギを見ても、特に反応する事なく微笑を浮かべたまま対応をする。

 艦治とまなみ、そしてナギはベルボーイの案内でロビーを抜けてエレベーターに乗り、雅絵が待っているであろう部屋の前まで案内された。


「天辺様よりご到着次第入室して頂くように、と仰せつかっております」


 ベルボーイはそう言うと、部屋の扉をノックして、扉を開けて手で三人に入室を促した。


「失礼します」


 艦治が先頭で部屋へ入り、室内にあった扉を開けると、そこはニュースで各国の大臣達が会談を行っているような応接室になっていた。


「お待ちしておりました」


 その応接室にて艦治達を待っていたのは、ノーメイクで上下緑色のジャージを着ている雅絵だった。


「えっと……、お待たせしました」


「いえ、お呼び出しして申し訳ございません。

 どうぞ、こちらへお掛け下さい」


 雅絵の意図が読めず、とりあえず言われるがままソファーへと座る艦治とまなみ。

 ナギは艦治の後ろへ立って待機する。


「お飲み物をお出しするべきなのですが、私が手ずからお茶を淹れるのも不信感を与え兼ねないと思い、ご用意しておりません。

 申し訳ないですが、必要であれば式部(しきぶ)様がお茶をお淹れ下さいませ。お茶セットはあちらにございます」


 そう声を掛けられたナギだが、お茶セットの方へは行かず、亜空間収納から氷入りのアイスコーヒーを取り出し、艦治とまなみ、そして雅絵の分をテーブルに用意した。そしてナギは再び艦治の後ろへ戻った。

 艦治とまなみがストレートのままアイスコーヒーに口を付ける。


「……本日はお二人の貴重なお時間を頂きまして、誠にありがとうございます」


 雅絵はアイスコーヒーに手を付けず、神妙な表情で艦治とまなみに礼を伝える。

 雅絵の座るソファーには、ウサギの支援妖精がお行儀良く座っている。


「えっと、あまり堅苦しいのは慣れてないので、もっと楽にして頂けると助かります」


 ジャージ姿でノーメイクなのにも関わらず、態度は先日会った時よりもより丁寧である事に、艦治は戸惑いを見せる。


「……分かりました。そのように努めます。

 式部様、すみませんがミルクとガムシロップを頂けますか?」


 ナギが亜空間収納から白い小さな陶器カップに入ったミルクとガムシロップをテーブルへ置いた。


「ありがとうございます」


 雅絵がミルクもガムシロップも大量に入れ、ストローでかき混ぜた後、アイスコーヒーを飲む。


「……ふぅ、失礼しました。

 それでは本題に移らせて頂きます。

 私に式部様の遠隔操作をお任せ願えませんでしょうか?」


 雅絵がまなみの顔を見つめながら、そう口にした。


「遠隔操作、ですか?」


「まなみ様が遠隔操作スキルという探索者にも知られていない希少なスキルをお持ちであるという噂。そして艦治様が通われている学校で、まなみ様が艦治様の支援妖精を遠隔操作されたという噂。

 これを合わせまして、式部司という神州丸(しんしゅうまる)から与えられたヒューマノイドを、まなみ様が遠隔操作されているのではと考えました」


 艦治は相手がキャリア官僚と言う事で、自分よりも頭が良く、交渉事に長けているだろうと考えた上で、下手に嘘をついてもすぐにバレてしまう恐れがあると判断した。

 艦治は返事をせず、アイスコーヒーを飲む事で雅絵に話の続きを促した。


「式部司の遠隔操作をお任せ頂ければ、私は艦治様のお傍に仕え、艦治様のお役に立てると確信しております」

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