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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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084:新しい朝

六月十九日 水曜日

 艦治(かんじ)が目を覚ましたのは、いつも通りの時間だった。

 いつもと違うのは、寝ている部屋と隣にまなみがいた事だ。

 艦治は起きている時より幸せそうな表情を浮かべているのを見て、まなみの額にキスを落とす。


「…………おはよう」


「うん、おはよう。そろそろ起きようと思うんだけど」


「…………なんで?」


「いや、今日も学校だから」


「…………わかった」


 そう言いつつも、まなみは抱き着いて艦治の胸に顔を擦り付ける。

 そして、まなみは太ももに当たる感触に気付く。


「…………つらそう」


「そうでもないよ。朝はこれが普通だから。

 一旦家に戻ってシャワー浴びないと」


「…………病院で良い」


 まなみの呟きと同時に、ベッドのそばにワープゲートが現れた。医療用ヒューマノイドが二人出て来て、用意していたバスローブを艦治とまなみに渡す。

 二人はバスローブを着て立ち上がり、医療用ヒューマノイドに連れられてワープゲートを通り、神州丸(しんしゅうまる)内の第一特別手術準備室のシャワールームで身体を流された。


「…………よいしょ」


「えっ、ちょっ、あっ……」



 朝の一戦を終えた後、艦治とまなみは身支度を整え、再び海中秘密基地へと戻った。

 調光設備が整えられており、テーブルとソファーが設置されていたので、座って朝食を摂る。


≪これだけ出しとけば他の女に襲われても大丈夫でしょ。安心安心≫


≪まぁそうなのかも知れないけど、襲われるような状況にはならないと思うよ?

 僕はまなみ以外の人とそういう関係になるつもりはないし≫


≪男の人はみんなそう言うんだって。でも結局は流されちゃうんだって。ママが言ってた≫


≪……その言い方だと、穂波(ほなみ)さんが迫って来た女の人に流された事があるように聞こえるんだけど≫


≪あー、ないない。全部ママが阻止してるらしいし。でも阻止しないとそういう状況に持ち込もうとする獣みたいな人がいっぱい寄って来るって事だよ。例えパパにその気がなくってもね≫


 艦治は心なしか、まなみの表情に怒りの色が浮かんでいるのを感じ取った。

 両親の仲を引き裂こうとする存在に対する嫌悪感なのだろうか、と受け止める。


≪ナギ、もし僕が他の女性とそういう事になりそうだと感知した時、僕の意思に関わらずまなみに視界共有を飛ばすようにしておいてくれる? あと、現在地の情報も≫


≪了解致しました≫


 艦治は穂波が真美(まみ)の事を大切に想っている事を理解しており、穂波に浮気願望がなく真面目な性格の人物であると知っている。

 そんな穂波であっても、関係なく向こうから迫って来ると聞いて、艦治は不安を覚えた。

 相手が女性の場合、力ずくで排除するのは心理的に難しい。また、相手の女性がどんな言動をするかも分かったものではない。

 まなみにいらぬ誤解をさせて不安やストレスを与えたくはないと思い、ナギに指示を出したのだ。


≪でもかんち、浮気したくなったら言ってね≫


≪え? どういう事?≫


≪仮想空間内で私が別人のアバター姿で襲ってあげるから≫


 艦治とまなみは、すでに仮想空間内でのセックスを経験している。

 仮想現実という事は、自分の身体とは違う姿になれるという事であり、アバターを使えば顔や身体を簡単に変える事が出来るのだ。


≪いくら中身がまなみだって分かってても、それは嫌だなぁ≫


≪私もいくらかんちだって分かってても、他の男の顔だと殴っちゃうかもだねぇ≫


≪ってかそもそも、他の人のアバターが用意出来るのかな≫


 艦治の疑問に対し、テーブルの上の特別椅子に座っていたナギが答える。


≪ご用意可能です。探索者全員の身体データを保存しておりますので、現実に存在している人間はもちろんの事、それらのデータから架空の人間のデータを生成する事も可能です≫


 インプラントの埋入(まいにゅう)手術の時点で、データ収集を行っているという話を聞き、艦治が恐ろしい事実に気付いてしまう。


≪……もしかして、そのデータを使って本人そっくりのヒューマノイドを作る事も、可能だったりする?≫


≪可能です≫


「マジか……」


 ナギが放った短い返答を受けて、艦治が衝撃を受ける。


「と言う事は、政府高官を攫ってヒューマノイドと入れ替える事も出来る、と」


「その通りです。

 ただし、私の権限ではそのような侵略行為を独断で実行する事が出来ない為、現状では行っておりません」


≪つまり、かんちがやれって言ったら出来るんだねぇ≫


「厳密に申しますと、艦治様のご命令に対し、翔太(しょうた)様方が異議の申し立てをされなければ、です」


≪内容によるけど、よほどじゃなければ邪魔はしないよ。楽しそうならなお良しだね≫


 白雲とシルヴァー越しに様子を窺っていた翔太が、艦治の疑問に答える。


「いや、人一人を入れ替えるってめちゃくちゃ酷い内容でしょ!

 僕がそんな事を言い出したら真っ先に怒って下さいよ!!」


 艦治は翔太の事を、神社にいるような神様的な感覚で捉えており、自分が悪い事をしそうになったら止めてくれる存在だと思っている。


≪ボクらは望みをどう叶えてあげられるかを考える為にいるからね、基本的には邪魔はしないんだよね。

 あ、そうそう。仮想空間で艦治君をまなみちゃん、まなみちゃんを艦治君のアバターに入れ替える事も出来るからね≫


≪……なるほど! それは盲点だったよ!! とっても素敵な事を教えてくれてありがとう!!≫


 翔太の提案を聞いて、まなみはまるで天啓を授かったかのような衝撃を受ける。


≪と言う事でかんち、さっそく試そうよ!≫


「いやいや、今から学校だから」


≪じゃあ今日は早く帰ろうねっ!!≫

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